第6話 無職決意!覚悟があればなんでもできる!

 ガシィ!!!!


 僕はこれからよろしくという気持ちと、諦めの気持ちを込めながら、固く握手した。


「改めて自己紹介しよう!私は真鍋 直まなべ なおだ!よろしくな平くん!」

「僕は平 和たいら のどかです!よろしく!真鍋さん!」


 傍から見ると、熱く爽やかな握手を交わしていると思うんだろうが、僕の心の中は涙でいっぱいだった。

 真鍋さんのスキルを確認し、どのスキルを上書くか決める。結果。


 "無限の可能性"

[変化無し] 手抜き上手

[新規取得] シールドバッシュ

[削  除] 一心振乱


 一心振乱がなくなることはかなり痛いが、それよりもレベル上げて、"無限の可能性"のスキルレベル上げを重視した。保持できるスキルが多ければ多いほど、ステータスアップにも繋がるし、何より選択肢が広がるからだ。

 ある程度の筋力はついたのだ。一旦はそれを喜ぼう。


 そして次の問題。真鍋さんをどうやってレベルアップさせるかだ。真鍋さんと握手した時に分かったが、真鍋さんのスキルは次の二つ。


【パッシブスキル】

 ・絶対守護者

 味方を護るとき、被ダメージが5割減。


【アクティブスキル】

 ・シールドバッシュ

 盾で相手を吹き飛ばす。

 攻撃が当たる瞬間にスキルを発動することで、相手からの攻撃を一部跳ね返す。跳ね返すダメージ量は[器用]%。上限は50%。


 パッシブスキルである"絶対的守護者"は僕が持っていても意味がない。5割減したとしても、体力の少ない僕ではダメージを肩代わりできない。自分の命が危ない。そこでアクティブスキルの"シールドバッシュ"だ。このスキルをうまく使えば、護りながらモンスターを倒すことが出来るんじゃないか。そう考えたのだ。


「真鍋さん。"シールドバッシュ"って使ったことある?」

「ん?今のところないな!」

「攻撃を受ける瞬間に使ったら、モンスターからのダメージが跳ね返せるらしいんだ。使ってみない?」


 何故どもらずに話せているかというと、真鍋さんの顔を見ず、独り言を言うかのように話しているからだ。

 例えば最初のセリフだったら

「真鍋さん。(と呼びかけて)"シールドバッシュ"って使ったことある?(って聞いてみよう)」

 みたいな感じだ。我ながら難儀だと思うよ。でも、現時点これくらいしか話す方法がないんだ。しょうがないじゃないか。


 僕がそう言うと、少し間が開いて、真鍋さんはこう答えた。


「"シールドバッシュ"は使わない。万が一にも、モンスターを倒してしまうかもしれないからな」

「……どうしてそこまでして、モンスターを倒さないようにするの?何か理由があるの?」

「だって、モンスターと言えど生き物じゃないか。生き物を無闇に殺生するのは良くないからな!」


 至極ごもっともな答えが返ってくる。

 それはそうだ。いくらレベルがあがるといっても、無害なものや、生きるためじゃないのに殺生するのは良くないとは思う。

 だが、モンスターは人を食べる。人を見かけたら襲ってくる。決して無害ではないし、自衛のために力をつけないといけないはずだ。

 自分が目立ちたくないという理由は勿論あるが、それよりも真鍋さんの安全のほうが気になる。僕だって多少は強くなったが、モンスターが強いところに行けば途端に役立たずになる。それなら無理やりでも理由を作って、真鍋さんを別パーティに入れてもらうことも考えたが、いまだに1Lvの真鍋さんを受け入れてくれるパーティなんでおそらくいない。

 もしパーティに迎え入れてくれるところがあったとしても、やましいことを考える男がいて、そいつのステータスが強かったら、真鍋さんは抵抗することもできない。


 こうやって色々考えるからいけないのかもしれないが、これが現実にならないとも限らない。だからこそ、真鍋さんが僕と一緒に来てくれなくなっても、安心して送り出せるようにレベルアップしてもらいたい。

 しかし、真鍋さんの意志は固い。ちょっとやそっとじゃ変わりそうにない。それは真鍋さんの性格を考えてもわかる。おそらく言葉でいくら説いても、変わらないだろう。

 考えが変わるとしたら、自分の考えが変わらざるを得ないような、強烈な経験をした時…とか。


 その時、1つだけ案を思いついた。だが、これをすると、もしかしたら最悪の事態に陥るかもしれない。

 他にも案がないか考えたが、強烈なこの1案のせいで他が思い浮かばない。日を改めることも考えたが、おそらくダメだ。真剣さが伝わらないというか、考える時間を与えたらダメだと思う。


 そう思ってしまったら、思い込んでしまったのか、僕は決意した。

 そして、駆け出した。


「うわぁーーーーーー!!!」


 大声をあげながら。


 これには真鍋さんも驚いたみたいで、しばらく呆然と僕が遠くに行くのを見ていたが、ハッと気づき後を追いかけてきていたようだった。多分。

 僕の大声に反応したのか、スライムが木の陰から出てきた。さっき一撃で倒して恐怖心を払拭したはずなのに、さっきよりも心臓がバクバクいっている。口から飛び出そうという表現をどこかで見たことがあるが、本当にそう思う。


 スライムは僕を見つけ、一直線に襲い掛かってくる。

 スピードは速くない。よけようと思えば難しくない。

 それでも、僕は。


 スライムの一撃をよけず、あえて受けた。


 ドゴォ!!!


 左わき腹にスライムが衝突し、衝撃で右に2、3回転しながら木にたたきつけられる。今まで感じたことがない痛み、衝撃、そして恐怖に思考がグチャグチャになる。

 本当なら一撃もらい、ステータス画面を開いて残り体力を確認するはずが、焦りからか確認ができない。

 自分の体力は25。真鍋さんは1Lvで80あった。職業の違いはあると思うが、それでも1/3程度しかない。そんな僕がモンスターから1撃をくらったんだ。

 さすがに1撃目で死ぬことはないと思っていたが、想像以上の衝撃に、作戦決行前よりも【死】が身近に感じられた。

 スライムに目を向けると、ちょうど追撃をしかける瞬間だった。


 1撃は耐えられたが、2撃耐えられる保証はない。

 ――――――死


 ドゴォ!!!!

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