第7話 初配信


 ダンジョンの入り口。


 大量の機材が積まれて行く中、俺は唖然とその光景を眺めていた。

 どれも値打ちだけでいえば、カメラ一つで50万はくだらない。


 高性能マイクや高性能機器……それらをトラックに積んで、サクヤは俺の前に現れた。


「ど、どうしたのこれ……」

「撮影機材だ」

「どれも学生で買えるモノじゃないよね……」


 俺もスマホ以外の撮影器具が欲しいと思って、購入しようとしたことはある。

 だけど、配信者御用達の機材はとても高い。


 彼らが配信するうえで、高画質、高音質とユーザーが快適に過ごせる環境作りに、どれだけ心血注いでいるか……。


 それを軽々と、サクヤは用意して見せた。


 サクヤは白銀の髪を揺らしながら、フッと笑う。


「私には余裕だ」


 指先に挟んだ魔法のカードを見せつけてくる。


「ま、まさか……お父さんの?」

「いいや。これは私が作ったスマホゲームのお金で貯めた資金だ。よく広告で流れてくるだろう? パズルを解こう! 的な」

「あぁ、あれ……」


 中華風のゲームって、サクヤが作ってたんだ……。

 ちょっとプレイしてみたことはあったが、簡単なパズルゲームだが中毒性があった。


「クソ親父の金なんて、一円たりとも使うつもりはない。私の資金で、私の力で……お前のために用意した!」

「お、おぉ……ありがとう」


 美少女なだけに、ドヤ顔が様になっている。

 こうしてみると可愛いな……。


「でもやり過ぎじゃない……? 俺なんて、ほぼ無名だよ」

「何を言うか! ソラ、お前は自身の人気をもっと把握しておいた方が良い。今やトレンドの1位といえば、お前なんだぞ。配信サイトの急上昇ランキング1位、ここ一か月での登録者数増加1位、さらには……」


 ずらずらと功績を並べてくれるが、イマイチピンとは来ない。

 確かに登録者もかなり増えたし、配信に来てくれる人も増えた。


 この前の特級呪物の影響か、やけに変なメールも届くようになっている。

 企業からのメールが主に、だけど。


「そう言われても、よく分からない……」

「ともかく、お前は凄い。それに配信環境は整えた」


 それは非常に助かる。

 俺もダンジョン配信とはいっても、スマホからで手ぶれは酷いし、画質もかなり荒っぽくなる。


 これで綺麗な画像で、手ぶれのない配信となれば視聴者のストレスも軽減できるはずだ。


「サクヤも潜るんだっけ?」

「私は冒険者ではない。戦いなんて無理だ」


 そうなると、俺が一人で潜るのは変わらないのか。

 ぼっちって寂しいんだよなぁ。


 たまに夜、布団に一人でいると人肌恋しくなる奴……あの感覚に近い。

 抱き枕を握りしめて我慢する時ほど、寂しいものはない。


「そこで、こいつを使う」


 サクヤが俺に見せてきたのは、ドローンだった。


「撮影用ドローンだ。全方位上下360度に対応。お前がどんな動きをしようが、必ずカメラに収める」

「おぉぉっ!」

「どうだ、これも凄いだろう」


 俺がさらに褒めると、サクヤの鼻がどんどん伸びていく。

 あれ……鼻が伸びてる。


「ステルス、自動回避……多岐に渡る仕様用途は、私が開発した中で最も高性能な物だ!」

「じ、自分で作ったのか……」

「発明家サクヤと呼ぶがいい、はっはっは!」


 流石はIT企業の御令嬢だ。


「私は父のことになると、頭が回らなくなるのだが……お前のことを考えると急に思考が回るのだ。不思議だな」

「そ、そう言われましても……」


 偶然だと思うけど。 

 あと俺には機能やらシステムやら、よく分からないけど、とにかくすごいことは分かった。


「ところでソラ、今日の配信はここで良いのか?」

「うん、渋谷や新宿ダンジョンはだいぶ人が多くてね。無理そうだったから」


 本当はいつもの場所でやろうとしたのだが、なぜか人がたくさんいたのだ。

 見つかった瞬間にたくさんの人に囲まれそうになったため、姿を消す術で逃げてきた。


 一体どうなってんだ、あれ……。


「今日は六本木ダンジョンファームにするよ」


 盛り上がっている配信向けのダンジョンとは異なるが、人が多いとそれだけ魔物に遭遇する確率も下がってしまう。


「それが良いかもな。人が多かったのは大神リカが復帰して、渋谷ダンジョンに潜った影響もあるだろう」

「あっ、そうなんだ」


 良かった。無事に復帰できたらしい。

 ってことは、俺が渋谷ダンジョンに潜ってたら、会う可能性があったってことか。

 

「まずは、お前のことを知ってもらうことから始めよう」


 サクヤ曰く、やっぱり俺は素を見せた方が良いとのこと。

 キャラを作ってもいつかバレてしまうことを考えると、楽で良い。


「陰陽師の術とか、配信で見せてくれ」

「オッケー」

「頼んだぞ」

 

 占術と星方位術とかで良いかな……。

 

「じゃあサクヤ、配信始めてくれ」

「え……もうか? まだ入ってすら……」

「入口手前から、ダンジョン内部で起こることを全部当てる」

「……ッ!? な、なに……?」

 

 俺の占術の精度はかなり高い。平安時代でも、ほぼ100%は命中する。

 ただ条件を絞ることが必須だから、全ての未来を先読みすることができる訳ではない。


 メリットは未来が読めることだが、デメリットもある。

 

 例えば、強大な悪や妖怪が出現するって占いが出たとしても、それによる影響が大きすぎて未来を絞り切れない。

 不安が人の心を支配して、怖気づかせ、妖怪や悪鬼たちの入り込む隙を与えてしまう。だから、占術は便利だが、使い手がミスれば逆に事態を悪化させる術だ。

 

 ただし、こうした小さい出来事であれば明確に絞ることは容易だ。


「わ、分かった……始めるぞ……」


 配信が始まると、通知が鳴る。


”おっ、配信始まった?”

”全裸待機してました”

”きちゃーwww”

”特級呪物の人だ、待ってた”



 こうして、ソラは第二の伝説を作ることになるのだが……本人はまだ知らない。


  ソラが地面に手を置く。

 そうして呟いた。

 

「占術」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る