干渉

「返して。それは私の大切なものなの」


 思わずカーテンを開け、窓から外を見降ろすと、二人の人間が対峙している。私服姿の彼女と、正体不明の黒ずくめの男だ。

 男は彼女からひったくったとみられるストラップを手にぶら下げている。小さい頃、僕が彼女にプレゼントしたものだった。


 男は声を発することも無く、ニタニタとした笑みを浮かべ、ストラップを自らの顔の前にぶら下げると、長い舌でぺろぺろと舐めまわした。


「やだ……やめて……」


 彼女の顔に絶望の色が浮かぶ。

 なぜ彼女が僕の家の前にいるのかは想像がつく。

 午前中に僕が学校を抜け出したのを見かけ、心配でやってきたのだろう。


 自意識過剰ではなく、彼女がそういう人間なのだということを僕は知っている。


「返して……返してよ!」


 彼女の反抗もむなしく、男は絶えずストラップに舌を絡め、汚い唾液で汚していく。

 ――不意に、男はこちらに目を向けた。


 来イ。


 黒いハンチング帽の下に、ガン開きにキマった異常者の目。

 その目は明らかに僕を挑発している。


 自分の中で何かが切れる音がした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る