30話 誰がロリコン二股野郎だ馬鹿野郎め!

 やぁおはよう。

 

 看守すら居ない寂しい牢獄に俺の挨拶が虚しく響いた。

 

 あのクソジジイがファルシア来るまで待ってろとか言ってたけど一晩明けたぞ?。

 

 もしかして何か問題が起きたのだろうか......とりあえずすぐに行動できるようにはしておこう。

 

 手足に力を入れた瞬間に入り口の扉が開き昨日とは別の看守が入ってきた。

 

「チャンピオン、飯っすよーって手錠を壊してる!」

 

 あっバレた。

 

 ゴメンゴメン、どうにも締め付けられたとこが痒くてさ。

 

「いやまぁ事情は聞いてるから何も言わないですけど......それってドラゴンの捕獲にも使われるぐらいの強度な筈なんすけど人力でキレるんすね」

 

 どこか呆れたような視線を感じるけれど気のせいだろう。

 

 へぇコレってそんなに頑丈なんだ。

 

 後で獅子宮殿で仕入れられないかファルシアに聞いてみよう。

 

 そんな呑気な事を考えていたのが迂闊だった。


「チャンピオン! 逃げてください!」

 

 遠くから聞こえた誰かの悲鳴に似た叫びに反応出来無かった。

 

 目の前の壁が歪み、弾け飛ぶ。

 

 その勢いは凄まじく、俺を閉じ込めていた格子も全て弾け飛んだ。

 

「レオス!」

「クソガキめ!」

 

 吹き飛んできた壁に巻き込まれて看守の青年は強かに全身を叩きつけられて意識を失ってしまう。

 

 その際に手に持っていた食事も宙に舞ってしまったが、どうにかパンだけは口でキャッチすることが出来た。

 

 うん、こんな状況じゃなければ味わいたいぐらいに美味しいね。

 

 それで? 何のご用ですか、フォレジア国王陛下にファルシオン宰相。

 

 爆散した壁の前で鼻息を荒くして今にも飛び掛かりそうな程に殺気を撒き散らす国の重鎮達。

 

 エルフ族には珍しい精悍な顔つきと豊かに生えた髭が特徴の国王であるフォレジアが髪を逆立てそうな程の怒気を放ちながら口を開いた。

 

「身に覚えがないのか......答えよクソガキ!」

 

 国王の怒気で周囲の壁が圧に耐えきれずに軋みを上げる。

 

 マズイな、心当たりが一切ないけど答えを間違えると襲いかかって来そうだな。

 

 どうする、どう答えるのが正解だ?。

 

 一瞬の思考の時間。

 

 その隙間を逃すほど目の前のエルフは甘くはない。

 

「まさか、本当に心当たりがないのかいレオス」

 

 一歩、ゆっくりと穏やかな表情のエルフの男性が近づいて来る。

 

 国王の憤怒とは対照的に静かに深く、深く澱んだ怒りを発露させる青年と見間違いそうになるエルフの男性。

 

 そもそも別の種族では他種族の外見と年齢は結びつきにくいけれどエルフが1番分かりにくい気がする......あまりの理不尽に思考が逸れた。

 

 心当たりがあればこんな状況になってませんよファルシオンさん。

 

 そんな事は口に出せない。

 

 物凄く声を張り上げて言いたいけれど、そんな蛮行をしたら目の前の修羅達がどう動くか想像のできない。

 

 あっ嘘、普通に想像できた。絶対に襲いかかって来るよね。

 

「クソガキ......アレほど言ったよな」

「レオス、信じていたのにキミは裏切ったんだ!」

 

 だから何がだよ! 主語を言えよ主語をよ!。

 

 コッチはな、何でファルシオンさんのオマケでクソジジイが着いてきてんのか理解できてねぇんだよ。

 

「信じて送り出したシアを手籠にしたキミを私は許さないぞ!」

「ホルムちゃんの心を誑かしたんだ! 万死に値する!」

 

 さぁて冤罪担当の弁護士は妖精郷に居るかな?。

 

 ファルシアに関しては、まぁ恋人のフリをしたから誤解しても仕方がない......いや、娘の色恋に首を突っ込んで宰相の権力を使うなとか言いたいことは山ほどあるけど今は置いておこう。

 

 だがジジイ、テメェはダメだ。

 

 ホルムちゃんってあの子だろ? 昔来た時に会った小さい子よな、まだ9歳ぐらいだろ!。

 

「昔はなぁ『パパと結婚するっ』て言ってくれてたのに......今日の朝だ!」

 

 両目から血涙を流しかねない程に目を見開き涙を流し始めるジジイ。

 

 中々に気持ち悪い事言ってるのを自覚してるのかな。

 

「『レオスお兄ちゃんとシアお姉ちゃんと一緒にデートするー』って顔を赤くして言ってたんだぞ!」

 

 あらやだカワイイ。

 

 良い子じゃん、スゴく可愛らしい事言ってくれるじゃんか。

 

 よーし、レオスお兄ちゃんが何でも買っちゃうぞー!。

 

「貴様、鼻の下を伸ばしたな」

「陛下」

「シオン」

 

「「この罪人を今ここで始末しなければならない」」

 

 2人同時に拳を構えて同時に左右に分かれて近づいて来る。

 

 色々ツッコミたいけれど、今は目の前のバカ親2人の対処が先だ! こんな意味の分からない事で殴られたくないぞ!。

 

「覚悟しろレオス!」

「コレがパパの愛の力だ!」

 

 拳が目の前に迫る。

 

 どうする! こんなのでも一応は一国の主だぞ! 

 

 とりあえず受け流して......冷静になるまで相手をするしかないか。

 

 そう決めて、拳を握った。

 

『お父様にジア伯父様、少し頭を冷やしてください』

『ケンカはダメ!』

 

 声が聞こえた瞬間に牢獄が蠢いた。

 

 足場が揺れ、天井も壁も動き始め......そしてバカ親2人が天井と床に押し付け潰された。

 

 圧倒的な質量に呻く2人の後ろからファルシアと......小さな子供が顔を出した。

 

 もしかしてあの子がホルムちゃんかな?。

 

 あーコレはジジイが可愛がるのも分かるぐらい可愛いね。

 

「ぐぬぬぬ! 動けん!」

「シア! こんなロリコン二股野郎を庇うのか!」

 

 ファルシオンの魂の叫びをファルシアは全て無視して無慈悲な死刑宣告を行う。

 

「後でお母様と伯母様からお話があるそうなので覚悟してくださいね」

「乱暴なパパも叔父さんもキライ!」

 

 あっバカ2人が固まった。

 

 やーいやーい! ざまぁ!。

 

「無意味に煽るのはやめてくださいレオス様」

 

 はいスイマセン。

 

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