29話 妖精郷の果実酒はスゴく美味い

 さぁて困ったぞ!。

 

 目が覚めたけど現状が何も飲み込めない!。

 

 空元気で自分の気持ちを誤魔化してみたけれど、やっぱり無理だ。

 

 目が覚めたら牢屋の中だった。

 

 ほらね? 意味が分からないでしょ。

 

 異常に強固な蔦で厳重に手足は拘束されてるし、樹木で出来た天然の牢獄からは外の景色が一切見えずに外の状況を確認する事も出来ない。

 

 とりあえずファリクトとの戯れた怪我も治療されているから今すぐ殺されるとかは無いとは思うけど......。

 

 まぁ、最悪はファルシアが助けてくれるだろうから、慌てずにゆっくり休むとしようか。

 

 そう決め込んで自然の暖かさを感じられる床へ寝転んで久しぶりに何も考えずに休むとする。

 

 ......あれ、こう考えると俺って最後にいつ休んだっけ?。

 

 記憶を掘り起こす。

 

 ロディが来てからは色々重なって忙しかったし、その前はアレスの無茶振りで獅子宮殿総出で異常繁殖したワイバーンの駆除をしてたなぁ。

 

 結論は約一年振りぐらいじゃ無いか? こうやって休めるのは。

 

 そう考えると獄中生活も悪く無いように思えるな。

 

 後は看守さんが三食のご飯を出してくれれば完璧だ。

 

 おっワクワクしてきたぞ?。

 

 唯一問題があるとすれば、どうやって休めば良いかが分からないという事だけだ。

 

 ......よし! 寝ようか。

 

 それ以外にする事もないから進展があるまで寝ます! おやすみなさい。

 

「寝るなよ! ほら目の前に情報を聞きやすそうな看守が居るだろ! 話しかけろよチャンピオン!」

 

 鎧を着たエルフの青年が樹木の格子の前で必死に言葉を荒げていた。

 

 相変わらずエルフはイケメンしか居ねーのな。

 

 べっ別に嫉妬してる訳じゃ無いんだからね!。

 

 ......。

 

 俺のツンデレとか誰得だよ。

 

 おっと、それはそうとして事情説明してくれる系の看守かなキミは。

 

「はい! 国王様から伝言の魔工具をお預かりしています」

 

 わぁ厄介事の気配だぁ。

 

 俺の頭の中で様々な情報が1つに繋がった。

 

 ファルシアが帰郷する事になった発端の第3王子との縁談と突如現れた恋人役の俺。

 

 なるほどなるほど。

 

 どうしても婚約を成立させたい国王と俺と戦いたい戦闘狂のファリクトの策略に違いないな。

 

 こうして牢屋に入れている間に縁談を強引に進めようとしてるんだな。


 なるほどなるほど、見えてきたぞ真相が!。


 ふふん、ざまぁされたら探偵やるのも良いかもな。

 

「では再生します」

 

 覚悟は出来てる。

 

 俺は少しの間だけどファルシアの恋人なんだ。彼女が望まなければ妖精郷を敵にしてでも破談にしてやる。

 

『いやーごめんちょ、怒ってる? 後で美味しい美味しい果実酒を飲ませてあげるから許してね!』

 

 ......内容は分からないけど酒に免じて許してやる。

 

『シアちゃんのパパがねぇ、怒っちゃったの』

 

 おや、推理が瓦解しそうな予感がするぞ?。

 

『娘が急に恋人を連れてくるんだもん、僕ちゃんも可愛い可愛いホリムちゃんが恋人なんて連れてきたら......殺しちゃうよね』

 

 記録した音声を再生しているだけにも関わらず、牢獄内の空気が冷える。

 

 ふざけていても中身はファリクト達の長だ。

 

 その戦闘能力も恐ろしいが、それ以上に警戒すべきは年老いてもなお煮えたぎる闘争本能を秘匿する狡猾さがファリクト達以上に油断できない。

 

『それでねぇ、シアちゃんパパのファルシオンがねレオちゃんを投獄しちゃった』

 

 投獄しちゃった。

 

 じゃないよ。

 

 そんな『間違えて買っちゃった』みたいなテンションで言わないで。

 

『多分、すぐにでもシアちゃんがどうにかしてくれると思うからノンビリしててよ』

 

『あっ国王が他力本願で良いのかって思ったでしょ!』

 

 何故バレた。

 

 それどころかどうしてファルシオンさんを止めなかったのかとか言いたいことは山ほどあるよ。

 

『レオちゃんは知らないかもしてないけどね......シオンは怒ると怖いんだよ!』

 

 ............果実酒だけで許せるかな? 無理かもしれんね。

 

『それじゃあレオちゃん、また後でねー』

 

 何ともいえない顔で聞いていた看守の手元から音が消える。

 

 沈黙に耐えきれなくなったのか看守の青年はそそくさと退出してしまった。

 

 俺は眉間の皺を解しながら思わず呟く。

 

 アレが国王で良いのか妖精郷よ。

 

 でも実際に妖精郷は上手く統治されているからアレぐらい癖強くないといけないのか?。

 

『ひゃはー! 新鮮で強そうな人間だぁ!』

『ヒャハハ! 王都の紙幣なんて尻を拭く紙にもなりゃしねぇ!』


 以前来た時の記憶が蘇った。

 

 うん、アレぐらいじゃないとダメそうだな。

 

 俺は考えるのを止めて再びベッドで寝ることにした。

 

 それじゃあ、おやすみなさい。

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