第14話 暗躍するうっかりさんと悪夢

「本当に最悪ね、明日には牢屋が一杯になるんじゃ無い?」

 

 ミリシアと俺の目の前には積み上げられた浮浪者達が恐怖に怯えている。

 

 時は夕方、狐堂での買い物を終えて気分転換がてら散歩している時に問題は起きた。

 

「へへへ、おい! 女とその荷物を置いて失せっ」

「邪魔」

 

 用意された宿へ向かう途中の道で武器を持った大勢の浮浪者達に襲われたのだ。

 

 いや......ミリシアに一瞬で鎮圧されたから、襲われたってのは言い過ぎたかもしれない。

 

 けれどコレだけの人数に襲われれば嫌でも気づく。

 

 なぁコレって......。

 

「えぇ、おそらく誰かが裏にいるわね」

 

 浮浪者達が手にしていた武器は新品同然の剣やナイフだった。

 

 中には充填型の魔工具を持っていた奴も居た。

 

 明らかに浮浪者では買えるはずのない物を全員が持っているとなれば考えられる事は1つしかないだろう。

 

 誰かが浮浪者を集めて俺達を襲うように指示しているのでは無いか。

 

 そう考えて隣を見たいけれど......。

 

「コレはアレよね?」

 

 ミリシアが怖くて横を見れません!。

 

 顔は非常に晴れやかな笑顔で一枚の絵画が描かれそうな程に絵になってるんだけど......そのぉミリシアの後ろの空間が歪んでるんですよ。

 

 よく見ると背後でオーガが笑ってるし。

 

「この程度の小細工でアタシ達の邪魔をできると思われてるって事よね?」

 

 いやぁどうだろうねぇ。

 

 ハハハ......あっほら! 夕時の鐘が3回鳴ったからそろそろ宿で夕飯が出るんじゃ無いか?。

 

 お腹すいたなぁ!。

 

「......はぁ、まぁ良いわよ。コイツらに怒ったところでどうにもならないし」

 

 盛大に溜息と一緒に怒りを吐き出したミリシア。

 

 俺はミリシアのオーガが森へ帰るのを見届けてから声を掛けた。

 

 情報を持ってるかもしれんし、一応尋問しとくか?。

 

「うーん、流石に証拠は残さないでしょうね......残さないわよね?」

 

 言葉尻がドンドン弱くなるミリシアに俺もつられて不安になる。

 

 なんでそこで不安になるんだよ、少しぐらい下手人を信じようよ。

 

「考えてもみてよ、コレだけの人数でアタシ達をどうにかしようとしたのよ? それも夜襲でもなんでも無く正面から!」

 

 よし! 尋問しとこう!。

 

 万が一ということもあるし、この迂闊さから得られる情報があるかもしれないと考えて俺は尋問するために浮浪者へ近づいた。

 

 えっとファルシアに教わった通りに......。

 

 俺が手順の確認を頭の中で行っていると、後ろから圧を感じ。

 

「誰に雇われたか吐きなさい、吐かないと......分かるわよね?」

 

 静寂が訪れた。

 

 ミリシアの微笑みで顔色を変えた浮浪者達は次々に話を始める。

 

 太っていた、痩せていた、男だった、女だった、背が低い、背が高い......。

 

 一斉に情報が入ってくる、それを聞いて俺は判断をくだした。

 

 はい、情報なし!。

 

「そりゃそうよね、そこまで間抜けじゃ無いわよね!」

 

 なんで微妙に嬉しそうなんだよ。

 

 力が抜けたからだろうか、急に疲労感に包まれた。

 

 ミリシアも同じなのか肩を少し落として小さく息を吸い。

 

 そして。


 笑顔が消え、無の表情で積み上がった浮浪者を見た。

 

「次は無いわよ」

 

『ヒィ!』

 ヒィ!。

 

 一目散に逃げ出す浮浪者達、分かるよ! アレは怖いよね。

 

 小さく頷きながら浮浪者に同情しているとミリシアが一歩踏み出し振り返って俺を見上げた。

 

「なんかお腹減ったわね、さぁ早く宿へ帰るわよ!」

 

 やっぱりミリシアの笑顔は絵になるんだよなぁ。

 

 /////////

 

『さぁ......神へ身を捧げるんだ』

 

 いやっ......いやよ!。

 

 なんでパパもママも笑ってるの!。

 

『神が直々にアナタをお呼びして下さったの......さぁ早く身を清めるのよ』

 

 こんなのおかしいよ!。

 

『おかしくなんて無いんだよ、神へ身を捧げればみんな幸せになれるんだ......ミリシア、お前も』

『えぇ、そうよ。神にその身を委ねなさい』

 

 パパ、ママ......いや!。

 

『待てミリシア!』

『待ちなさい!』

 

 アタシはにげた。

 

 パパもママもおいて。

 

 仲の良かったロディもおいてにげちゃった。

 

 どうしよう......家には帰りたく無いよ。

 

『おい、ガキがなんで夜中に出歩いてんだ』 

 

 ひぃ! だっだれ?。

 

 アタシが声におどろいて見上げると、そこに真っ赤な男の人が立っていた。

 

 凄く綺麗な金色の髪もカッコいい鎧も真っ赤に染めた怖い人が居た。

 

『クソ、山賊を潰した帰りに迷子とかツイてねぇな』

 

 でも、怖い人だけど目はパパみたいに暖かい。

 

『あ? なんだよっ......おい!』

 

 緊張の糸が切れたからか涙が溢れ出てきた。

 

 怖い人が慌てているけれど、その場に立ち尽くして泣き叫ぶ事しかアタシには出来なかった。

 

『落ち着いたか?』

 

 怖い人の腕に掴まりながらパチパチと燃える焚き火を一緒に見つめていた。

 

『ほらよ、最後の1つだから大事に飲めよ』

 

 差し出された暖かくて甘いコーヒーを飲みながら、おかしくなったパパとママの事を話した。

 

『なるほどな......親の性格が変わったか』


 うん......あの変な人が持ってきた本を見てからおかしくなったの。

 

 それからパパ達は変な人に言われるがままにお金を使って......。

 

 今日だって!。

 

『胸糞ワリィな......おいガキ、コレを渡してみろ』


 手に渡されたのは綺麗な十字架のペンダント。

 

 華美な装飾がされているわけじゃ無くてシンプルなのに凄く綺麗。


『コレはクソ聖女のクソみてぇな祈りが込められてんだ』

 

 お兄さん、汚い!。

 

『チッ、ウルセェな......んな事より話を聞け』

 

 アタシ何もおかしな事言ってないのに......。

 

『どういうわけか、コレには精神系の状態異常を治す効果がある』

 

 ?。

 

『......コレを渡せばテメェの両親が治るかもしれねぇって事だ』

 

 本当に!。

 

『あくまで『かも』だからな』


 ありがとう! お兄さん!。

 

『だから......はぁもう良い』

 

 そう言って、アタシの頭を乱暴に撫でるお兄さん。

 

 パパと違って下手で乱暴だったけど、とても優しかった。

 

『コレで治らねぇならもう一度ここに逃げてこい。無理そうなら大声で叫べ、助けるぐらいはしてやる』

 

 一緒に来てくれないの?。

 

『俺は余計な面倒ごとは嫌いなんだ。......俺は強いからな、テメェが叫べば瞬きの間に駆けつけてやるから不安そうな顔してんじゃねぇよ』

 

 うん......でもコレで治ったらパパとママと一緒にお礼しに来るから待っててね!。

 

『へいへい、俺が飽きなければ待っててやるよ』

 

 約束だよ! 絶対待っててね!。

 

『しつけーな、早く行けクソガキ』

 

 そうだ! お兄さんのお名前教えて!。

 

『あ? 一回しか言ねぇぞ』

 

 お兄さんの背中から暖かい陽が溢れる、力強くて優しい目から目が離せなくなった。

 

『俺の名はレオス、ただの冒険者レオスだ』

 

 この最悪な日にアタシは初めて運命に会った。

 

 それは無愛想で血生臭くて言葉遣いが悪いけど......暖かくて優しくて格好良かった。

 

『ミリシア! 少し待ってくれ......はぁはぁ』

『少し休ませて.....』

 

 ダメ! 早くお兄さんにお礼を言わないと!。

 

 アタシは急ぐ、泥が跳ねてもお構いなしで走る。

 

 お兄さんと一緒に甘いコーヒーを飲んだ焚き火の場所へ向かって。

 

 おにーさん! お兄さん?。

 

 そこにあったのは火が消えた焚き火の後だけだった。

 

 /////////

「おはようミリシア!」


 ......バカ。

 

「朝から酷くない!?」

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