第12話 冒険者の少年
馬車から降りた俺達は、グリア領の街中を見て違和感に気付いた。
「活気が無いわね」
あぁ商人も冒険者も少ない。
見渡す限りではあるが、大通りで開いている店のどれもが活気がなく寂れているのが見て取れた。
「逃げられたわね、まぁ普通の冒険者は命までは賭けないから仕方が無いわ」
ダンジョンは確かに利益が大きい。
けれどそれは攻略が進んだダンジョンである事が第一前提だ。
命を賭けて名声や富を得ようなんて酔狂者はごく一部、大多数は比較的安全に利益を得て良い生活を送りたいだけだろう。
とりあえず今は冒険者ギルドへ顔を出そうか。詳しい状況を聞いておきたい。
「それもそうね、さぁ行くわよレオス!」
背筋伸ばして堂々と歩くミリシアの隣を歩く。
少し歩くと静かな街並みに誰かの怒鳴り声が聞こえた。
「何かしら? 冒険者ギルドから聞こえるみたいだけれど」
面倒事はひとつで十分なんだけどなぁ。
「どうする? 帰るのも良いんじゃない?」
なんて魅力的な提案だ、帰りにここの名産品でも買ってくか!。
「って、出来たら良いんだけどね。さっさと入るわよ」
やだなぁ、このまま直行した方が早い気がするぞ。
俺の嫌な予感は程良く当たるんだ。
「そこはよく当たるにしておきなさいよ、字面が間抜けよ?」
だってたまに外れるし、嘘はいけないよ。
「そうね、嘘はいけないわよね。ところでこの前、アタシのプリンを食べたのは?」
アレはマオ。
「......さっさとギルドに入るわよ」
えぇヤダなぁ。
とはいえ、いつまでも立ち尽くす訳にはいかないよな。
俺はミリシアの冷たい視線に負けて冒険者ギルドの扉を開けた。
そこに居たのは。
「どうして入れさせてくれないんだよ! アニキが生きてるかもしれないんだ!」
ギルドの受付で声を荒げる少年とその仲間であろう少女達。
受付の女性はそれをどうにか宥めようとしているが頭に血の上った少年は聞く耳を持たない。
さてどうするか......あの言葉を聞く限り、あの少年は全滅した銀級の冒険者の家族なのだろう。
ミリシアと目を合わせてどうするか思案していると受付の女性が俺達を見つけた。
「あっレオス様にミリシア様ですよね!」
うわぁ最悪なタイミング。
隣でミリシアが小さくため息を吐いたのが聞こえた。
「レオス? ミリシア?」
ほらぁ! 少年が食いついた。
「もしかして『冒険王』と『剣聖』の! あっあの!」
こう言う時は必ず言われることがある。
「俺達と一緒にダンジョンへ行ってくれませんか!」
だろうね。
言葉の断片しか知らないけれど、状況で推測するのは簡単だ。
だからこそ俺の言うことは決まっている。
キミのその勇敢な気持ちは素晴らしいし理解出来る。
でも。
「悪いけれど足手纏いを連れて、不確定要素の多いダンジョンへ連れてはいけないわ」
ミリシア。
「(良いのよ、こういうのは苦手でしょ?)」
一歩前に出たミリシアを止めようとするが、先に言葉に反応した少年がミリシアへ詰め寄る。
「なんでそんな事を言うんだよ! アンタら強いんだろ!」
「えぇ、強いわ。自分の限界も測れない貴方達とは違ってね」
それに、と言葉を止めて。
「リーダーの暴走を止められない仲間がいるチームと組むなんてゴメンだわ」
「なっ! アイツらは関係ないだろ!」
ミリシアに睨まれた少女達は怯えたように肩を震わせて俯いてしまう。
それを庇うように少年が立ち塞がりミリシアを睨んだ。
はぁ......。
「レオス?」
流石に仲間の後ろに隠れてるのも情けなくてな。
少年、少しだけ言わせてくれ。
ミリシアと少年の間に立ち、敵意を滲ませ始めた少年達を見る。
少年、さっきも言ったがキミの気持ちは理解できるし、コレが平時ならダンジョンへ潜るのも付き合うよ。
「なら!」
首を振って少年の言葉を否定する。
1つ聞こう、キミたち3人でしっかり話し合ったか?。
「え?」
キミは自分の生きているかも分からない家族のために仲間に命を賭けて欲しいと説明したか?。
「あっアイツらなら分かってくれる! それにアンタたちと一緒なら......」
質問に答えろよ。
人の意思を勝手に推測して知った気になるな!。
もし、キミが死ねば苦しむのは彼女達だぞ。
もし彼女達が死ねばキミは死にたいと願うほどに後悔するぞ!
あの時は止めれば良かった。
あの時にこうしていれば。
あの時に......。
てな。
「ロイドくん......」
「ロイド......」
キミ達はチームなんだろ?。
一度、冷静になって話し合ってみてくれないか?
「はい......でもアニキが」
それこそ、俺たちに任せろ!。
自分でいうのもなんだが、俺とミリシアは獅子宮殿内でもダンジョン攻略のプロだぜ?。
俺を信じろ少年!。
/////////
「俺を信じろ少年!」
レオスが少年達に屈託のない笑みを見せると、ギルド内の空気一瞬で軽くなる。
敵意と緊張が消えて、レオスの持つ暖かな太陽のような覇気が満ちた。
本当に憎いぐらいカッコいいのよね......。
レオスの笑顔はある意味では兵器のようなモノよ。
あの笑顔を向けられた相手は年齢や性別問わずに魅了させられてる気がするわ。
「あの......少しみんなと話し合ってみます! ミリシアさん、失礼な事を言ってすいませんでした!」
良いわよあのぐらい、私も強く言い過ぎたわ。
ごめんなさい。
「あっ頭をあげてください! そんな事させたらミリィに怒られます!」
慌てる少年の後ろで鬼の形相に変わった女の子が居たけれど彼女がミリィかしら?。
「ちょっとロイド! なにミリシア様に頭を下げさせてるのよ!」
「えっちょっ! イダダダ! 耳を引っ張るなよミリィ!」
「あっ......レオスさん、ミリシアさん! ご迷惑をおかけしました!」
「ハハハ! 気にしなくて良いよ。ほら早く行かないと置いていかれるぞ?」
少年はミリィちゃんに耳を引っ張られてギルドから出ていっちゃった。
その後を大人しそうな子が頭を下げながら後を追っていくのをレオスは微笑みながら見送った。
「ありゃ女難の相が出てるな」
アンタが言うな。
そう言いたいのを我慢して小さく息を吐いた。
「さぁ、ロイドくんに言ったからには早く行ってやらないとな!」
そうね、どんな形でも見つけてあげないと。
私は最悪の状況を考えないようにしながら、レオスと一緒に受付へと向かうのだった。
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