第2話 獅子宮殿

 体に力が入らない。

 

 その全てを見透かしているような瞳の先には情けない顔の俺。

 

 まるで自分の体が自分のもので無いような......本能で察する。

 

 勝てないと。

 

 もしやコレがざまぁ。

 

「たぶん違います。さぁ飼い主の方がいらしてるので猫ちゃんを返してください」

 

 無慈悲。

 

 目の前で抱えられた猫はあんなに俺とは離れたく無いと鳴いて......無いね。

 

 なんなら喉を鳴らして飼い主さんに甘えてるね。

 

 無慈悲である。

 

「さぁ依頼完了の報告へ行きますよ。ロディさんも完了の流れを見ていて下さい、いずれは1人で行いますので覚えておいて損はありません」

「はっはい! よろしくお願いします!」

 

 目の前でロディへ懇切丁寧な指導を行う、知的な眼鏡エルフはファルシア。

 

 ファルシアは俺達のギルド『獅子宮殿』の書類や雑用を率先してやってくれている。

 

「レオス様、何時まで呆けて居るのですか早く行きますよ」


 はーい。

 

 どうして俺がこうして迷い猫の捜索をしていたかというと、しっかりとした理由はある。

 

 ロディの様子見。

 

「それにしても......リーダーである貴方が猫と触れ合いたいからとワザワザ着いて来て恥ずかしく無いんですか?」 

 

 恥ずかしく無い!。

 

「なら、商業ギルドに猫カフェ出来たらしいので一緒に行きますか?」


 恥ずかしいです。すいません調子に乗りました。

 

「あの、レオスさんは猫ちゃん好きなんですか?」 

 

 勿論!。

 

 猫だけではなくモフモフな動物なら大体好きだし愛でたい。

 

 けれどコレでも一応はチームのリーダーだからな、他の冒険者から侮られないように気をつけてるんだよ。

 

「今更、貴方を侮る愚者が居るとは思いませんが......まぁそう言う事にしておきましょう」

 

 話が分かるファルシアさん大好き!。

 

「調子に乗らないでください! 良いですかロディさん。この人は平気でこう言う言葉を吐き出すので絶対に真に受けないで下さいね」

「えっ? あっはい......(一回で良いから言われて見たいかも)」

 

 え? なんで睨まれたの?。

 

 なんで脇腹を抓られてるの?。

 

 ファルシアは気にしない方向で行こう。

 

 とりあえず気にせずにロディの事はファルシアに任せて別行動する。

 

「ほどほどでお願いしますね」

 

 なんの事か分からないなぁ。

 

 適当に手を振ってロディ達と別れた。

 

 /////////

「さて、ウチの新人に何の用かな?」

 

 手を振るのを止めたレオスの顔には笑みは無く。空気が軋む程の敵意を滲ませている。

 

 それを見て1人の男が転がるように建物の影から飛び出して来た。

 

「そっそんな怒るなよ冒険王。ただあの女、ロディは俺が狙ってたんだ」

 

 焦りはどこへ消えたのか、劣情を隠すことも無い下劣な笑みを浮かべて男はレオスへ語りかける。

 

「アイツのギフトはイマイチだが顔と体は申し分ねぇ。どうせアンタもアイツの体目当てだろ?」

 

 聞くに耐えない。

 

 既にレオスの思考は男から外れ、ロディが無事に事務手続きを覚えてくれるかが気になって仕方がない。

 

「もしアンタが飽きたら俺に寄越してくれれば良い、それはそれで箔がつくしな」

 

 『獅子宮殿』には数多くに冒険者が在籍しているが事務系の仕事が出来るのは本当に少ない。

 

 ファルシアが居なければレオス自身が過労死するのではないかと言うレベルで少ない。

 

「そうだ」

「へ?」

 

 レオスの腕が一瞬だけブレて消えると男は気を失い崩れ落ちた。

 

「デルタもコイツを衛兵に突き出して来たら広間に来てよ、日頃の感謝にスイーツ買ってくからみんなで食べよう」

「......ん」

 

 少女の声はするが姿は見えない。

 

 けれど見えずともそこに居る。

 

 デルタの声が響くと男が影へ飲まれていく。

 

 まるで影が意思を持ち動いているようだ。いや実際に動いている。

 

「......じゃ後で」

 

 気配が消えた。

 

 レオスは相変わらずなデルタに小さく笑って、行きつけの甘味屋へ向かって鼻歌を歌いながら歩いていく。

 

「あっロディの好み聞いて無いや」

 

 /////////

 ファルシアさんと一緒に冒険者ギルドで色々な事を教えて貰えて嬉しかった。

 

 前のチームではひたすら雑用だけやらされてたけど、こう言う仕事は初めて。

 

「今日はコレぐらいにしておきましょう、ロディさん疲れてない?」

 

 ファルシアさんの綺麗な瞳がボクを映した。

 

 ボクなんかが知り合える筈もない、月とマッドタートルぐらい違う美人なファルシアさんと話してるだなんて少し変な感じ。

 

「ロディさん?」

 

 えっあっあの......少しだけ疲れたかもです。

 

 ボクの弱々しい言葉に小さく微笑んでファルシアさんはウィンクして。

 

「みんなに内緒でケーキ食べていこうか」

 

 まっ眩しい!。

 

 ファルシアさんが美人すぎて直視できないよ!。

 

「ちょうど商業ギルドに美味しいお店が......」

 

 ?。

 

 ファルシアさんの言葉が止まった。どうしたんだろう?。

 

「ふふっ、ほらあそこ」

 

 ファルシアさんが指差す方向を見るとそこには。

 

『ちょっと買いすぎたかなぁ.....まぁ多ければ俺が食えば良いな!』

 

 大量の袋と箱を抱えたレオスさんの姿があった。

 

 スゴイ一杯買い物したんだ。もしかして次の依頼で使うのかな?。

 

「違うわよ、あの箱のマークは行こうとしてたお店のモノなの」

 

 それじゃあ、誰かに渡すのかな?。

 

 やっぱりリーダーって大変なんだね。

 

「ふふ、ケーキは後にしてゆっくり『獅子宮殿』へ帰りましょうか」

 

 ボクたちは世間話をしながら帰路へついた。

 

 世間話出来たかな? ファルシアさんの話し上手に甘えてた気がするけど大丈夫だったよね?。

 

 あぁ少し不安になって来た。

 

「    」

 

 拠点内から声が聞こえる。

 

 慌ただしいような、でも切羽詰まってるような気配は無いし......大丈夫かな?。

 

「まったくリーダーは......ロディさん、扉を開けて」

 

 えっはい!。

 

 ボクはファルシアさんに言われた通りに大きな扉を開ける。

 

「おっ来たぜ!」

「......ん」

「リーダー! ロディちゃん来たよー」

「ロディ! コッチに座って!」

 

 また話した事が無い先輩3人とミリシアちゃんが円卓に座って美味しそうなケーキを食べていた。

 

 もしかしてパーティの邪魔しちゃったのかな?。

 

 ファルシアさんを見ても微笑んで背中を押してくるし。

 

 ボクが戸惑いながらミリシアちゃんの隣の席に座ると丁度レオスさんが大きなケーキを持って執務室から出て来た。

 

「ちょっお前ら! 普通、主役より先に食うか?」

 

 主役?。

 

「美味そうなモン買ってくるお前が悪い!」

「まぁ良い、お前らに常識は期待してねぇ!」

「ほらほら! 何時ものやろうよリーダー!」

「ん!」

 

 ボクを置いてみんな席を立つ。

 

 慌てて席を立とうとするけどファルシアさんに押し留められてしまう。

 

 え?ボク何かやっちゃったのかな?。

 

「ロディ! ようこそ獅子宮殿へ!」

 

 レオスさんの言葉を聞いて頭が真っ白になった。

 

 それに続いてみんな歓迎の言葉をかけてくれた。

 

 そこでようやく飲み込めた。

 

「えっちょ! なんで泣く! 苦手な味があったか?」

「ガハハ! 泣かしたなレオス!」

「あーあー、泣かしたぁ」

「ん!」

「ほらロディも泣かないの!」

「それだけ今まで苦労して来たと言う事でしょう、ロディさんベリーの実を食べますか?」

 

 ボクなんかが仲間になって良いのかな。

 

「当たり前だろ? ほら色んな種類を買ってきたから好きな味を好きなだけ食べて良いぞ!」

 

 レオスさんの優しい言葉を聞いて、また泣いちゃった。

 

 それを見て慌てるレオスさん、それを見て笑うみんな。

 

 ボク、ココに入って良かった!。

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