突如平行世界にふっ飛ばされた俺氏、探偵にジョブチェンするも毎日ポニテに蹴られる。

寝不足コーラ先輩

第1話

 空、さんさんと太陽が照る六月某日。

 


この間まで梅雨前線があったはずなのに…と疑問を持ちながらも俺は上機嫌である。なぜなら…

 


 雨が降ってると歩きながら本読めないじゃろがっ!!!

 傘を持ち本を読み雨に濡らさないように気をつけるとかそういうマルチタスクは俺にはできん!そもそも本読みながら歩くなだと?!うるせえっ!本が面白いのが悪いんだよ!

 


 ということで今日も下校のお供をしてもらう。よろしく頼むぞ!

 


学校の門を出ようとしたその時!

「うわ、なにあれぇ〜!」

「読書家アピール?危なくね?バカじゃん」

 俺はマッハで振り返り、声の主をキッ!と睨みつける。

「…誰がバカだとぉ〜!!!」

 俺はヘラヘラしている男2人組に殴りかかる!そして腹を拳が抉り上げる。

「げぼぉおっ…ごほっ」

「す、すみませんでしたぁ〜」

 ヘラヘラを二匹やっつけ!俺はその強さから学校の番長となり!ハーレム!ハッピーエンド!


 …とここまでがいつもの妄想。

 そもそも周りの生徒は俺が歩き読みしていても気付かない。どうしてかって?

 …ぼっちすぎると話題にすらしてもらえない、そういうことさ。


 俺の心の友は本!本のみ!人と馴れ合うなど言語道断!!!本との対話にこそ真のなんとかがあるのである!

 …ふ、名言だな。心の自伝にメモしておこう。カキコカキコ…


 さて、歩いていたらもう本屋に着いてしまった。あれ、さっき下校って言ってなかったっけ?と思ったそこの君、本屋は俺の家なのさ!下校先はここ本屋なのさ!

 …ここで本屋の主な構造について解説しよう。本屋には大体目立つところに人気の本を置いている…しかし俺が読むような「アングラ」なヤツはもっと奥…マンガコーナーの近くにあるのだ。素人は入ってすぐの雑誌こーなーだけ見て本屋というイデアを構築(的当)しているが!それは氷山の一角ということを忘れてはならない。

 書店員になりたい人がいたらぜひ言ってほしい、俺が本屋について解説してあげよう。お礼は図書カードでいいぞ。


 さて、箱ティッシュ先生の新刊はどこに…


「アングラ?これが?」


 むむ、なんか反論が出たが気のせいだろう。なにせこの地文は俺の心の声であって、某児童小説のようにひとりごとという意味で使ってるわけじゃないからな。俺の精神は誰にもわからない…


「ただのライトノベルでしょ。どこがアングラなの?」


 いやぁ、ちょっと調子乗って「アングラ」って言った、ていうか、カッコ良さそうに聞こえるからなぁ…と。深い意味は全く…


「本が友達とか言っておいて、基本的な語彙もままならないんだ」


「す、すみませんでしたぁぁぁぁっぁぁぁっぁぁぁっぁぁ!!!!!!!」

 華麗にきまるジャンピング土下座!そして俺は頭と手のひらを強打!

「いってぇぇぇぇっっぇ」


 俺が頭を抱えながら起き上がると…そこにいたのは高校生くらいの女の子、と。

「うわーこいつおもしれぇ〜!!なんの脈絡もなくあやまってるんだけど!うける〜」

 中学生くらいの…へらへらした男…。


「中学生にみえる、だってさ。」

「まじで?今年で高1なんだけどなぁ〜」

「高1も中3も変わらないでしょ」

 ああぁぁっぁJKがネイビーのツインテールを揺らしながら心の声を読んでくる〜なんなんだこれはぁ〜!

 …ラノベみたいだな。真顔。

「え、え、あ、あのぉ〜」

 あぁ〜俺の声がド隠キャボイスすぎてぇ〜つらい〜!


「な、なんで俺に話しかけてきたんですか、じゃなくてなんで心の声読めるんですか…つか本が友達のあたりまで聞いてたってことは俺の跡をつけてきたってことですか?語彙がないから?本と友達になるのはだめなんですか?え?え?え???」

 ツインテールに迫る俺!ちょっと落ち着けと言っている自分もいる!だが普通、本屋で突然「語彙ないね」なんて言われたら誰でも怒っていいはずだ!さあ謝れ!謝れよ!この世の全てに!(?)


 うじうじしていると、ツインテールがついに口を開いた!!!


「本というか、ラノベばっかり読んでるただのオタクだね」

 突如俺の背景は真っ黒に。辺りにはエコーがかかる。


 ただのオタク…ただのオタク…ただのオタク…


 がくっ。

「…俺の、俺の正体を見破ったな。そう、たしかに俺は…オタクだ…文学面白いよねオーラを出したいけどラノベしか読めないただのオタク…ぼっち隠キャオタク…」


「あ〜、落ち込んでるとこ悪いんだけどさ、俺たち君に話したいことがあるんだ」

 ヘラヘラ高1が言う。

「なに?なんですか?死体蹴りですか????」

「いやその話はもう終わっててぇ〜」

 そういうとヘラヘラは上着から紙を取り出した。

 俺は突き出されたその紙に、驚愕。


「任意同行願います」

 …へ?


「あれ、こうですよね〜南伊センパイ?」

「出すのが急すぎだ。段階的に説明してあげて」

「いや〜俺頭悪いんで、こういうの苦手なんよねぇ〜、西荻くんの質問に応える形式なんてどう?」

 俺の名前が知られてるだと!え!個人情報!

 …つか任意同行ってまさか…


「そう、お話を聞きたくてぇ〜」

 次の瞬間頭が真っ白になった。


 「署で」


 俺は何か悪いことをしでかしただろうか、多分してないんだが、これは冤罪というヤツなんだろうか、というかなんで警察官じゃなくて高校生が任意同行…


 ちょっとまて!さっきから流されすぎだろ俺!

 さっき質問答える形式とかいってたから……

 「あ、あのぉ…」

「はい?」

 笑ってる……?んだろうけど……声の調子といい眉毛の傾きといい……

 こここ 、怖〜い、ヘラヘラ君が怖〜い!そもそも陽キャは大体怖〜い!!!

「このままじゃラチがあかないから私が説明する」

「いや、そもそも自分でやればよかったじゃん…」

 ふごぉっ!といってヘラヘラは倒れた。いや……ツインテールの回し蹴り、こぇええええ!


「私たちは平行世界から来た」

 んん????急に話がぶっ飛んだぞ?任意同行もぶっ飛んでるけどね?

「ああ…そういう設定ですね……」

 はいはいよくあるやつ…。ツインテールはむっとしているが。

「まあいい……この写真を見てもらいたい」

 写真?

 俺は見せられた写真を見て、またまた驚愕。


 数年前に死んだはずの妹が、制服を着て笑っている。俺の隣で。


「これはこことはまた別の世界で生きている君たち兄妹だ。」


 ああ……。CGだって……。そんな。


「別の世界では君の妹は7歳で死なず、君と同じ18歳になっている。」

 明里……

「私達についてくれば君の妹の生きている姿を見れる。どうだ?西荻くん」


 俺は拳を握った。

「そんな……そんな嘘で釣るくらい俺の気を引きたいのかよ……」

「平行世界は無限にあると推測されているが、その中で人類が誕生した世界は7つのみ。そのうちの一つで殺人事件が起き、容疑者は逃亡して別の世界に渡った。それがここ、君が住んでいる第6世界だ。」

「お、おい皆井、話を詰め込みすぎだし…相手の様子見ろよ」

「容疑者の名前は西荻春人。そう、別世界の君が犯罪を犯してこの世界にやってきてる。そいつは君を殺して成りすまそうと息を潜めてる。君は安全な場所にいたほうがいい」


「うるさいっ!」

 俺は叫んだ。

「さっきからごちゃごちゃ妄想ぶつけやがって!別世界の俺?別世界の妹?俺が……」

 俺は崩れ落ちた。

「あのとき…明里を…助けられなかった…他の世界のやつは助けられたのに!!なんで!」

 本屋に俺の声だけが反響する。


「ドンマイ!」

「は?」

 何をいってるんだヘラヘラは。

「過去を振り返ったって結局ドンマイって感じじゃん?」

 俺は胸ぐらを掴んだ。

 ……が……


「お前に俺の気持ちなんてわかんねえもんな……」

 諦め。ため息。呆れ。

 孤独。

 俺は手を離した。

 

「話をまとめよう。君は殺人犯から保護するし、生きている妹も見せてあげよう。こういうことを言ってるの。君にはメリットしかない。しかしこれは任意同行。断ることもできる。……できるだけ君の死体は見たくないけど」


 どうする?こいつらについていったって結局ドッキリでした〜とか、そういう可能性しか見えないぞ。ましてや俺の妹の話までしやがって…失礼だよなぁ。


 でも何処かで、小さいときの俺の声が聞こえたような気がしたんだ。

 

 明里に、会いたいよ―


 俺は助けられなかった。だからこんな声、俺は出しちゃいけない。そう思って閉じ込めていたものが、フッと現れた。

 明里のいない家を少しでもあかるくするために、俺は勉強を頑張っていい成績を取り続けた。両親からは喜ばれ、俺も笑った。でも今になっても夜泣いていることを知っている。

 俺は、俺だけは泣かないようにしよう。泣いちゃいけないんだ。

 会いたいなんて言っちゃだめなんだ。


「言っていいんじゃない?」

 俺は顔を上げた。

「あ…会わせる顔もないし……」

「じゃあ私が許可しよう。もし君が会いたいと言って誰かが君のことを傷つけたら、私が守る」


「あ…」

 気が付くと、涙が出てきた。

 そうか、俺は、守ってもらいたかったのか。

「おねがい…します…」

 俺は二人を見つめて言った。

「付いて行きます。その平行世界へ」



「よし、じゃあ手伝ってもらう。ここの床に六芒星を書け」

「え……」

「マーカー出して、ほら!」

「え…?」

「あー早く早く、店員さん来ちゃうから〜」

 と言ってヘラヘラは何処かへ走っていき、

「じゃ、スプレー持ってくるから」

 とツインテールも何処かへ走っていった。


 これやばくね?!

 え!?

 いや絶対床に六芒星描いた罪を作らせようとしてるよね!?

 二人とも逃げたし!


「な、なんなんだよぉぉぉぉぉぉ」


 俺はそのまま目の前が真っ白になり―


 ぶ っ た お れ た 。










 

 

 

 

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突如平行世界にふっ飛ばされた俺氏、探偵にジョブチェンするも毎日ポニテに蹴られる。 寝不足コーラ先輩 @cora-umai

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