禍喰丸

そうざ

Ka-kui-maru

「あ~っ、まただぁ」

 言うが早いか、ヨシコは御神籤を丸めてぽいっと捨てた。

 結び所は既に大量の籤が括り付けられているので、誰も彼もその辺の地べたに適当に放り投げるが、直ぐに〔喰丸くいまる〕が掃除に駆け付けるから何の問題もない。

 ――ヴゥオ~ンオ~ンオ~ン――

「姓は齎崎さいさき、名はヨシコ。この神社は私を名前負けにさせたい訳ぇ?」

「最近はクレームが凄いんだろ。誰だって金を払って嫌な気分になりたくないから、ほとんど大吉が出るようになってるんだよ」

「もう一回引く」

「懲りないねぇ」

 ヨシコは掃除中の〔禍喰丸〕の首根っこを掴むと、胸のコイン投入口に百円玉を入れ、頭部を力任せに揺すって揺すって揺すり倒す。口から番号の書かれた棒が飛び出す。胴体に内蔵された小さな抽斗ひきだしから該当の御神籤を取り出す。

「ちぃっ、中吉って何? 中途半端のチューですかぁ?」

「せめて内容を確認したら?」

面倒めんどい。あんた、読んで」

「えぇと……己を信じ、突き進むべし。何事も継続が肝要。努力は報われ、道が開かれん……」


○願望:身の程を知れ

○失物:見付かるまで探せば出て来る

○待人:ほら後ろに誰か居る

○学問:中卒を見下せ大卒に媚びろ

○旅行:態々人混みに行く奴の気が知れぬ

○恋愛:だから身の程を知れ

○訴訟:土下座を勿体振るな

○転居:真夜中ならば無料

○健康:五十も過ぎれば話題の中心

○方位:続きはWebで


 聞く耳を持たないヨシコは、脳震盪を起こさせんとばかりに〔禍喰丸〕を揺すり捲っている。

 やれやれと籤を丸めて投げ捨てると、それが地べたに落ちる前に〔禍喰丸〕の腕が素早く伸びて受け止めた。

 ――ヴゥオ~ンオ~ンオ~ン――

「来たーっ!」

 ヨシコが自慢気に見せ付けて来たのは、大凶の籤。そして、ポケットから九枚の大凶を取り出して快哉を叫ぶヨシコ。

 合計十回大凶を引き当てると、向こう一年間いつでも無料で籤を引く事が出来るキャンペーン中なのだとか。

「無料期間中にまた大凶を十回出せば、更に無料期間が延長され、それを繰り返せば永遠に籤を引けるっ、一生ぅ安泰じゃーっ!」

「……籤って何だろね」

 ボクに訊かれても、という顔で肩をすぼめる〔禍喰丸〕。

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