第3話 青の聖女

「ふぅ……、やっと止まりました……」



 ようやく中庭のようなところでスライムバスが止まってくれてルルはホッとため息を吐いていた。



「こいついいな。俺にくれないか?」

「ぜ、絶対ダメです!?」

「ぷー!」

「ちっ、仕方ない。スライムなら適当に狩に行くか」



 何やら不穏なことを言っている気がするが、ルルは気にしないことにした。



「それでここは――」

「『赤』、また派手な登場をしてくれましたね」

「くくくっ、今更だろ、『青』!」

「あ、『青』!? つ、つまりこの人が『青の聖女』様なのですか?」

「聖女なんて高尚なものじゃないぞ、こいつは。人を誑かせる魔女……。いや、魔女はお前の称号だな。それなら悪女辺りがピッタリだ」

「……魔女? もしかしてそちらが噂の『無色の魔女』ですか?」

「あっ、えと……、はい。ルル・アトウッドと言います」




 ルルは緊張しながらもお辞儀をする。



「そんなに緊張しなくて良いのよ。おおかた、『赤』なんて野蛮な人と旅をしたせいで怯えてるのね。ここではあなたを襲う人なんていませんからね」

「……お前が襲うだろ?」

「何か言いたいことがあるならはっきり言ってくださいね、『赤の狂戦士』」

「お前がおっかないと言っただけだ」

「あなたほどではないですよ。どうせそんな可愛い子にも戦闘をふっかけようとしたのでしょう?」

「あっ、はい……」

「こいつも同じ賢者なら力を持ってるはずだからな。しかも特例だぞ? 力を調べるのは当然のことだ」

「そんなこと、少し調べたらわかるでしょう? 私よりも聖女らしい力を持った小さな魔女さん」



――優しく微笑みかけてきてくれてるのにどうしても警戒してしまうんだろう?



 不思議に思いながらもルルはその本能に従い、一定の距離以上、彼女を近寄らせなかった。



「あっ、私の自己紹介がまだでしたね。私はこの水の都、クシュリナを治める『色環の賢者』。『青の聖女』、ユリス・クリュリナーデです。よろしくお願いしますね」

「あっ、はい。わ、私は『無色の魔女』と呼ばれてるみたいです」

「知ってるわよ。でも、私、その『無色』の魔法も興味ありますね。使って見せていただけませんか?」



 そう言われたのでルルは周りを見渡してみる。


 しっかり清掃が行き届いた白の建物は掃除が必要に思えないほど煌びやかに輝いている。

 他にも治癒が必要な人はここにはいない。


 念の為に瘴気がないかも調べるが、この場にはなかった。



――なんだろう。どこも怪しい場所はないはずなのに嫌な感じがする……。



 しかし、それ以上調べようがあることでもない。

 ルルはユリスの方を向き、首を振る。



「ここには使えるものがないみたいです」

「そうですね。それならこれでいかがですか?」



 何を思ったのか、ユリスは短剣を持つとそのまま自分の手を切り裂いていた。

 しかも表情を一つも変えずに無表情のまま。


 だからこそルルは一瞬反応に遅れてしまった。



「な、何してるのですか!?」

「ふふっ、あなたの魔法は『治癒』って聞いてますからね。これなら使って貰えますよね?」



 にっこり微笑むユリスだが、その手からは血が流れたままである。

 ルルは真っ青な顔をしながら慌てて彼女の下へと駆け寄る。



「だ、大丈夫ですか!? い。いま治療しますから」



 ルルの体から無色の魔力が発せられる。

 その瞬間にユリスの傷が治っていた。



「これは……すごいですね」



 ユリスは治ったばかりの手を動かしていた。




「あ、あの、治療したてはあまり動かさないようが……」

「確かに失った血は戻ってないようですね。治療のタイミングで大きく効果が変わりそうです」



 それから再び短剣を突き刺そうとして――。



「な、何をしてるのですか!?」

「どのくらい治癒の効果が続くのかを調べようとしてるのですよ」

「も、もう続かないですよ。それに何度も傷つけるなら私、もう治さないですからね」



――なんでこうも『色環の賢者』は何度も傷つけて調べようとするのかな……。



 ルルは頬を膨らませてそっぽ向いていた。

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無色の魔女 ~治癒チートで気ままな異世界旅~ 空野進 @ikadamo

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