独白

@SuzukazeE

第1話 本気

俺が何かに本気になったのはいつだろうか。もしかしたら中学の頃の恋が最後なのかもしれない。中学の頃は良かった。好きな人に一直線で他に何も考えなくて、周りなんか気にせずにひたすらに好きなものを好きであり続けた。でも、今は違う。いつからだろうか。何もかもに本気になれず、なぁなぁで中途半端でやり過ごすようになったのは。中学時代俺に対する周りの評価は散々だった。それを痛感したのが高校生になってから。自分はここまで嫌われてたのか、ここまで嫌われてるのにそれに気づかずに、もしかしたら気付かぬふりをして縋り付き、仲良くしようとしてきたのか。自分がとても惨めに感じた。好きな人と短い期間ではあったが、両思いになれた。それさえあればいいはずだ。でも、周りからあれは『仕方なくだ』と言われるといつも『そうなんじゃないか』という思いが頭をよぎる。本人からも聞いた。自分で見て感じて両思いだと思った。でも、もしかしたらと考えてしまう。俺は俺が感じたことを信じ切ることが出来ないし、振られた彼女の言葉も信じきれなかった。周りからは嫌われていて、仲良しだと思っていた人間は仲良しではなくて、好きな人は俺を好きじゃなくて、だから別れて、そんな中過ごした中学3年は楽しかったのだろうか。きっと楽しくなかったんだろう。俺は弱い。だから、周りが期待するからかいに応じ、道化を演じて自分の心を保っていたのかもしれない。この時固く閉じた、否、騙し騙しで包み込んだ心は開いていない。この時から人を本気で好きになることが無くなった。何となく、好きそうになり、告白し振られたら未練なく引き下がり諦める。そもそも、好きになんてなってないのかもしれない。好きになるのは幸せだが、辛い。気持ちが大きければ大きいほど幸せになり、辛くなる。中学のとき、両思いになりこの幸せの大きさを知った。中学のとき、別れてこの辛さの大きさを知った。周りからは気持ちが重いのだと言われる。だが、気持ちが重くないとはなんだ?ならば、気持ちが軽い方がいいのか?それで付き合う必要があるのか?そんな疑問が浮かんでは消えてゆく。でも、好きという気持ちを『重い 』と一蹴され、片付けられるのはとてつもなく辛い。今までこの人を好きだと思ってた、自分が誇りに思っていたこの気持ちには、なんの価値もなかったのかと絶望したくなる。でも、どんなに悲しくて辛くてもこの大きくて重い気持ちは消えてはくれない。好きな人に否定されてもなお、縋り付こうとし、相手が欲するモノへと重くない気持ちへと見せようと努力する。頭のどこかでは無駄だと分かりながら。一旦崩れたものは治ったりしない。崩れて更に歪んだものなら尚更だ。だから、俺は本気になるのをやめたのだろう。本気にならなければ、重いと言われることもない、辛くなることもない。だかそれは同時に、幸せでもない。なぁなぁで中途半端な俺は周りからも中途半端にされる。そして後悔する。なぜ、意志を持たなかったのかと。なぜ、本気にならないのかと。昔本気になれたのだ。今本気になれないはずがない。あとは、この心を包む誤魔化しの布を取るだけだ。

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