第4話

 さすがに毎日お弁当は悪いと思い、私はお金を封筒に入れて渡そうとしたが……。


「僕の昼食用におんなじやつ作っていて、君のはついでだからいらないよ」


「でも、お世話になりっぱなしじゃ悪いし……何かお返しを……」


 私の言葉に困った顔をする栗栖くるすさん。その反応に、この人は心から善意でしてくれてるのだとわかる。


「あの……じゃあ、私、農作業手伝います!したことないから、役にたてるかはわからないけど、草むしりでもなんでもします」


「ええええ!?いや、でも……日焼けしちゃうよ!ダメだよ!」


「断る理由が日焼けなら、私、ちゃんと日焼け対策して行きます」


 ええええ!?とまだ驚いている栗栖さん。私も私に驚いていた。久しぶりに自分から何かをしたいと思ったかもしれない。


「だって、桜音おとちゃんは体弱いし……心配になるよ。倒れたりなんてしたら、僕……」


「大丈夫です。最近、調子良いんです」


「そ、そう?……じゃあ、一度してみる?いや、でも、そんな頑張らなくていいからね!?」


 ハイッと私は言って、携帯の番号を交換した。


 携帯電話、聞いちゃった。私は登録して新しく、栗栖千陽くるすちはると入れた名前を何度も何度も携帯を開いて確認し、眺めてしまったのだった。色素の薄い髪と目と幼さのある顔を思い出す。横にはフカフカのムーちゃん。


 夜になってもなんだか嬉しくて携帯をチェックしてしまう。メールきたりしないかな?と思っていると、いきなり電話がかかってきた。


 『お母さん』そう表示されていた。


「……もしもし?」


『桜音?元気なの?ちゃんと学校へ行ってる?』


 久しぶりの母の声。電話の向こう側はなんだか賑やかな声がする。


「うん。元気。大丈夫。ちゃんと学校へ行ってる」


『毎月の生活費を振り込んでおいたわ。ちゃんと一人でも生活できてるわよね?もう高校生だものね?』


「ちゃんとしてる。大丈夫、大丈夫!」


 明るく私が返事をすると、お母さんは安心したように、そうよねと言った。電話の向こう側の人にオーイ!まだか?と呼ばれて、ハーイと返事をして、慌てて私に言う。


『じゃあ、またね。ちゃんとするのよ!』


「うん。わかってるよ。大丈夫」


 プツッと切れた。ズキズキと頭痛がしてきた。何度も大丈夫って言った。でも本当に大丈夫だもの。一人でも大丈夫。


 頭痛薬どこいったかな?ゴソゴソと薬箱から取り出して水と一緒に飲む。


 食欲は無い……今夜はもうお風呂に入って寝てしまおうかな。宿題はもう済ませてある優等生の自分を褒めたい。……ほら、ちゃんとしてる。私は学校のことも一人でも、ちゃんとしている。


 ガタンゴトンと遠くから電車の音がした。早く朝になればいいのに。頭痛の薬が効くまで、テレビの音をつけて、ソファにうずくまった。

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