喰らうモノ

 ようやく目標と接触することができた。


 助けてと少女達が言っていたこともあって、そのまま拳での挨拶となってしまったが、そこは仕方ないのだろう。


 見た目はまさしく怪物だが、思ったよりも吹っ飛んだのを見て、コルトの言葉通りだと納得してしまった。





 遡ることおよそ1日。



「はい、というわけで秋のはじめての服用者相手のイートタイムの時間がやってきたよ」


「そうか、魔獣相手に何度か試してみたが、とうとう服用者相手か…」


「不安かい?」


「そうだな、一度やってみれば要領は掴めるんだろうが、やってみるまではなんとも言えないだろう?」


「うん、それでもやってみないとなにもできないからね。やるんだろう?」


「ああ、


「大丈夫だよ、はじめての相手にふさわしい相手だからさ。適合率も他の服用者に比べると低いし、形成はできてるけど、はっきりいって見た目だけだね」


「そうか、だがなにが起きるかもわからないからな。できるだけ準備はしておくよ」


「うん、それでいいと思うよ。で、相手は小悪魔なギャルに弄ばれて捨てられた男性だね。力自体は弄ばれてた頃から持ってたんだけど、捨てられちゃってからストーカーみたいな感じになってさ。そろそろ手を出しそうな勢いなんだよね」


「…それはそのギャルの自業自得だな」


「そうだね、そのギャルや仲間の背景にもいろいろあるんだけど、それとこれとは別問題だからね」


「ああ、



「わかった、今回の目的は


「その通り、これまでの魔獣喰らいを検証するとだいたい予想はできるけど、実際にやってみるとなにか問題が出るかもしれないからね。


「ああ、あとはできるだけ備えをしてから行くとするか」


「うん、なにかのときのためにポーションとか持っていけばいいよ。あ、マジックポーション魔法の薬とは別物だから安心して使えばいいよ。一般人にも効果あるはずだし、もし怪我人がいたりしたら少なめに飲ませて試してみてよ。どのくらい効果があるか実験もしておきたいしさ」


「わかった」


「うん、それじゃ、準備ができたらそのまま行ってくれればいいよ。着いたら連絡してね、サポートに入るからさ。それじゃ、いってらっしゃい」


「ああ、いってくる」





 とりあえずコルトのオーダー通りに一般人へのポーション投薬はクリアした。


 実験対象は複数いた方がいいらしいから、このギャルの仲間の男に持たせて使わせればいいだろう。



『通報アプリの通報情報を送るよ。あとはヒーロー達がそっちにいくのをできる限り遅らせるために偽情報と他の場所での誤通報を複数送っておくから大丈夫だと思うけど、油断はせずになるべく早く終わらせるようにね」



 ガスマスクに備わっている通信機能でコルトからの連絡が伝わってくる。


 その情報を元にギャルの現在地を把握して、その場所に向かう。


 ポーションの実験のためにも男達も追ってこさせればいいだろう。


 また死にかけたりすれば実験台になるだろうからな。


 俺の聴覚に怪物と女の声が聞こえてくる。


 その姿が視界に入ったときにその声は聞こえた。





 ―――――――「「助けて」」―――――――





 聞こえてしまった以上は応えるべきなのだろう。





 ――――――――『任せろ』――――――――





 そう言うと同時に加速して全力の拳を怪物に叩き込んだ。





 そして今に至るわけだが、思った以上に弱いのか?



『うん、昨日も言ったけどさ、彼は適合率が他の皆に比べてすごく低いんだよ。それでも実験例としては使えそうだし、そのままにしておいたんだけど、秋のそれ試すなら彼が一番問題ないかなってことでさ。実際丁度いいと思うんだよね。色んな意味でさ』



 確かに服用者と一体化したマジックポーション魔法の薬を喰らうのを試す相手としては丁度いいんだろう。


 それにしても奴の目が金色になっているのはなにが起きている?



『ああ、それは力の暴走オーバーロードだね。感情の爆発で力を無理やり引き出したんだよ。その力の暴走オーバーロードを自分の制御下に置いて使いこなせば覚醒に至れるんだけど、彼の精神力じゃ無理だろうね。そのまま暴走で終わりだよ』



 暴走し続けるとどうなる?



『力が尽きるまでそのままだね。犠牲者は出続けるだけだよ』



 そうか…なら、さっさと終わらせよう。


 奴のパワー自体はそれなりだが、動きは俺よりも遅いし、動きも単純だ。


 力任せに突進してきて手足を振り回すだけ。


 なら、それに合わせて右腕の爪牙を硬化、抜き手のようにしてぶつけるだけでいい。


 穿


 まずは腕を、次は足を、それだけで奴の動きを抑えられた。


 そのまま爪牙の一閃で奴の体を抉り取り、右腕の爪牙についた奴の血と肉をそのまま取り込み喰らう。


 手を緩めずに追撃、翼がある以上飛行も可能と判断し、翼の付け根にもう一度爪牙の一閃で翼を切り取る。


 切り取った翼をそのまま喰らうことでその様を見せつけることになった。


 喰らうのには少し時間がかかるが、逃さないように機動力と翼を片方奪ったから問題はない。


 だが、油断はせずに奴がどう動いても対応できるようにしておく。


 翼を喰らい終わったのを確認したら、次はさっき穿った方とは違う方の足を爪牙で引き裂き、



『ウアァァァァァ!!』



 奴の悲鳴が響く。


 生きたまま喰らわれるのは想像を絶するものなのだろう。


 その金色の目は恐怖で染まっているように見える。


 けれど、容赦はしない。


 続けて残っていたもう片翼も喰らい尽くす。


 翼にも痛覚が繋がっているのか、それとも喰らわれる恐怖故なのか、その悲鳴は止まらない。


 これで奴の機動力は完全に奪った。


 喰らったことで一部だが奴と一体化していたマジックポーション魔法の薬を俺のものとして取り込めたことも確認できた。


 


 ただ、気をつけなければならないのは


 


 あと悲鳴がうるさいのも厄介なところはあるから、声帯部分も潰して喰らっておこう。


 騒がれたことでヒーローや魔法少女に来られても厄介だからだ。


 悲鳴が止まって声が小さくなったところで心臓の付近に右腕の爪牙を突き刺し、喰らうはじめる。


 ギャルやその仲間の方を見てみると顔色を悪くして、口元を抑えている。


 喰らうときの咀嚼音のようなものとこいつの現状に引いているのかもしれない。


 まあ、それは


 そのまま喰らい続けていると奴の姿が少しずつ怪物から人のものに戻っていく。


 目の色も金色から赤色になったので、奴に適合していたマジックポーション魔法の薬をだいぶ除去できて、俺に取り込めているということなのだろう。


 俺の中のなにかが濃くなっているのがわかるから間違いはないと思える。


 とはいえ、このままだとすべて取り込む前に死なせてしまいそうだ。


 



『おい、もう君達には必要ないだろうから、さっき渡したポーションを渡せ』


「え、あ、ああ…」



 男の方に渡すようにと手を出すと、恐る恐る手渡してきたので受け取った。


 



「おい!なにを!」


『このままだとこいつの中の力を除去しきる前に死にそうだからな。そうならないために回復させる』


「そう、なのか…」



 そう言って男はまた少し離れた位置に移動した。


 回復して声が少し出るようになったのか奴が助けを乞う。



「ごめんなさい、許してください、もうしません、助けてください!」



 言う必要はないから言っていなかったが、一応説明はしておいた方がこいつに取ってもいいのかもしれない。



『ああ、すまない。なにか勘違いさせてしまったようだ。。正確には君の中の力なんだが、そこは気にしなくてもいいだろうか。わかりやすく説明すると、。だから、君がこれからどうすると言っても、



 そう伝えたが余計に怯えさせてしまったようだ。


 殺すつもりはないことは伝えたし、あとは死なせないことも伝えておいた方がいいのかもしれない。



『大丈夫だ、君は死なせない。どれだけ死にそうになったとしてもこのポーションがあれば持ち直すことができる。今の調子なら持ってきているポーションが全部無くなる前には君の中の力を喰らい尽くすことはできるから安心してくれ』



 ポーションの数も伝えておいたほうがいいか一応コルトに確認すると問題ないとのことだったので、それも伝えておこう。



『ちなみにあと4本ポーションは残っている。おそらくだがあと2本くらいで終わると思うが、。俺としてはそれはそれで構わないが、余計な時間がかかるのも事実だから、できれば大人しく喰らい終わるまで我慢してくれると助かる』



 そう伝えると彼は泣きだしたが、


 あとはただ彼の中から力がなくなるまで喰らい続けるのみだった。


 こうして、彼の目が黒くなったことで、はじめての俺の服用者相手の仕事は終わった。

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