エピローグ

「コッチダ! 早ク!」

 途中、ツゲンとレーカは、好戦的なロボットたちに遭遇し交戦していた。辛うじて逃げのび、岩山を駆け上がる二人。ツゲンは息のあがったレーカの擦り傷だらけの手を掴み、崖の上まで引っ張り上げた。

「こっちになにがあるの?」

「尖塔ダ」

「尖塔?」

 ツゲンは頷いて指をさした。その先には、尖った屋根を持つ一棟の塔があった。

「アノ建物ノ先デ、ロボットガ修理サレテ、過去ヘト送ラレテイル。アノ尖塔ハ、ロボットガ生ミ出シタ時間遡行装置ダ。君ガ、ソノ修理工房ヲ破壊スルンダ」

「でも、私がそんなこと……」

「大丈夫」と、ツゲンは胸になにかを感じながらも言う。「向コウノ世界ノ人タチハ、人間ニ対シテナニモシナイヨ。君ハ、キット歓迎サレルダロウ」

「あなたも一緒に来てくれるよね?」

「モチロン。ソレガデキレバネ」

 そうして二人は尖塔へと足を踏み入れた。


 はぁはぁと荒げた呼吸が響く。鋼鉄ともコンクリートとも違った頑丈な壁や床や天井の通路が続いている。走る彼女の足音と、その彼女の手を引く壊れたアンドロイドがギィギィ身体を軋ませながら走る音。それに、二人の背後からガシャガシャと無機質で恐ろしい音が通路を騒がしくさせている。

「コノ先ダ」

 彼女の手を引くアンドロイドが言った。

「ガンバッテ、レーカ」

「はぁ、はぁ」レーカは今までこんなに長い距離を走ったことがなかった。呼吸が苦しく、胸やわき腹が痛い。「どうして、私の名前を知っているの」

 問いかけたが、機械は答えない。しかし、やがて光が見えてきた。通路の出口だ。どうやら逃げ切れそうだった。ところが、無機質なガシャガシャ音は正面からも聞こえてきた――


「……行ッテ!」

 レーカが尖塔の出口へと向かい、ツゲンはロボット達に捕まりながらも、その緑色の二つの瞳は、彼女が光の中へと身を投じた様子を見届けていた。

「……ヨカッタ」

 頸部がねじ切られる直前、ツゲンはそう呟いた。これから彼女の身に起こる出来事を、ツゲンはすべて知っている。しかし、だからと言って今回の彼女がまた同じことを繰り返すとは限らない。

 時間は寛容だ。

 タイムパラドックスなんて存在しない。時間は、ただただ穏やかに流れていく。いつの日か、彼女の行動が、人間にもロボットにとっても平和な時を過ごすための礎になりますように。


 ツゲンはそう願いながら、自身の自爆コマンドを実行した。

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尖塔の果て 丸山弌 @hasyme

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