第33話

 キーファウス殿下は、ゴルザーフ陛下が生存している限り、毎月王金貨百枚ずつをゴルザーフ個人に対して支払うことを契約しました。

 ただし、いくつか条件があり、受け取る際は必ずブブルル王国に滞在し、国の再建に努めることと加えています。

 ゴルザーフ陛下は、それでも満足したかのようであっという間に契約を締結させてしまいました。


「ふむ、ではこれにて契約は魔法付与の書類で締結した。書き換えられることはないですな。しかもこれだけ大勢の証人がいる前ですので」

「あぁ、わかっている。話のわかるキーファウス殿で助かった」

「ではこれにてゴルザーフ国王との対談は終了とします」


 ゴルザーフはそのまま玉座の間から出ようとしましたが、ふと、停止しました。


「なぜ皆ともに戻ろうとしない?」

「「「「「…………」」」」」

「なぜ無視をする。大臣よ。なにか言ったらどうなのだ?」

「いえ、我々はメビルス王国に助けを求める所存でここへ来ましたので、まだキーファウス殿下に謁見を望んでおりますゆえ」

「な!? 話は済んだだろう。ブブルル王国へ戻らねば」


 しかし、残った人たちはゴルザーフ陛下の話を聞こうともしませんでした。


「またいつ危険なモンスターがでるかもわからない場所に戻っても、民たちが納得しないでしょう。しかも王都は完全に壊滅しています。ならば、安全なこちらで暮らしたほうが得策でしょう。たとえ我々の地位が平民になったとしても」

「ふざけるでない。私はブブルル王国の国王だ。私の命令を聞くのが当然のことだろう」

「いえ、もう再建は無理かと……」

「もうよい。貴様など聖女同様解雇だ。私の元でしっかりと仕えられる有能なものだけ連れて帰る。キーファウス殿よ、約束は守ってもらうぞ」


 そう言ってゴルザーフ陛下は出ていきました。

 しかし、ゴルザーフは一人で戻ることになってしまったようです。

 あとから民も追ってくると想定していたようですが、誰も追いかけることはありませんでした。

 ぼっちになったゴルザーフ陛下は大丈夫なのでしょうか……。


 ♢


「二ヶ月か……。思ったよりも早かったな……」


 ゴルザーフ陛下が失踪したのか息を引き取ったのかはわかりません。

 毎月の約束である王金貨の引き渡しに現れなかったようです。


 あれから私はかなりの負担はかかったものの、聖なる力をメビルス王国、ブブルル王国、そして近隣の国含め、ひとつの大きな大陸全体に結界を張るようにしました。

 もちろんブブルル王国にもモンスターは出なくなったため、安全面では保証されたようなものです。

 それでもゴルザーフ陛下が姿を消したのは……。


「結局、たった一人ではどんなに身分が高かろうが生きてはいけない。そのことをあの者は理解していなかったようだ。人をゴミのように扱ってきた者の末路だな」

「それでキーファウス殿下はあえてあのような条件を?」

「一年くらいは支払いを覚悟していたのだが。諦めるのも早かったようだ……」

「とんでもないことを提案して、あのときはびっくりしましたよ」

「すまない。ヴィレーナのことを考えていたらロクな扱いをしなかった者に対してなにかしなければと思って」


 キーファウス殿下は頬を掻きながら目をそらしました。

 これはさすがに反論します。


「国のことでなく私個人のことであのような政策を!?」

「やがては王妃になる予定の私にとって大事なお方だ。それに、ブブルル王国のことも調べていたのでな。あの国王の評判を考えれば、一人になることくらい想定できた。さらに近隣国はブブルル王国の王は入国禁止になっているそうだし」

「では、どこにも逃げられなかったのですね」

「どんなに金貨を持っていても、使い道もない。金貨は人がいるからこそ成立する貨幣であることを理解せぬような者が国の代表だなどありえんことだ」


 キーファウス殿下は国のことを一生懸命考えていたからこそ動いていたのですね。

 私も、もっともっと国のことを勉強していって貢献できるようにしないと!


「ヴィレーナよ、まさか今、『私も国のことを勉強しないと』などと考えていなかったか?」

「なんでわかるのです?」


「いつもヴィレーナのことを見ているからな。毎日大陸ごと聖なる力を発動し結界を作っている。おまけに所々に訓練用として初級モンスターだけ出るようにしてだ。おかげで騎士団はどんどん強くなり、王都の警備としてもより強力なものになっている。ヴィレーナのおかげだということを忘れるな」


 それでも、私は聖女としてだけでなく、キーファウス殿下の妻としてしっかりと支え、笑い者にされないようもっともっと努力しなければですね。

 神様からいただいた規格外の魔力と聖なる力のおかげで、私はようやく幸せを掴めたような気がします。


 さて、キーファウス殿下を国王になってもらうために、もうひと仕事することにしましょうか。

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転生社畜聖女は前世の記憶とチート魔力を駆使して破産寸前の隣国を再建します 〜『キミは命の恩人だ』と、女に興味がなかった王太子がグイグイ口説いてくるのですが、跪かないでくれませんか?〜 よどら文鳥 @yodora-bunchooo

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