第5話
もしもモンスターの兆候の光が青であれば、騎士団や魔導師がいればなんとかなるとは思います。
しかし、現実はそう甘くありませんでした。
「光の色は赤。中級種族かあるいは」
「なんということだ。仮にも上級種族が出てきてしまえば、我が国は壊滅だ……」
モンスターが生まれる際、その場所に数時間前から不思議な光がでます。
普段の光は青や黄色で、ほとんどが初級種族のモンスター。
しかし赤色の光が出ることは稀で、もしも出てしまえば最低でも中級種族という、騎士団たちが総出でかからないと倒せないようなモンスターが誕生してしまうそうです。
カイン騎士団長の体力はまだ回復していないはず。
万一にでも王都に向かってきたら、このままではこの王都は大きな被害を生んでしまうでしょう。
ここは勝手に……。
「おまえ……、たしかブブルル王国の聖女は辞めたと言っていたな?」
カイン騎士団長が、私に訪ねてきます。
すると、真っ先に過剰反応したのがキーファウス殿下でした。
私は構わずカイン騎士団長に返答します。
「へ? あ、はい。辞めたというか辞めさせられたというか」
「頼む! 誕生の阻止をしてくれないだろうか?」
「もちろんです。念のために確認ですが、この辺り一体全てに展開しても平気ですか?」
キーファウス殿下に確認をとります。
ブブルル王国では、あえて訓練用に聖なる力を展開しないような場所も作らされました。
それでも滅多にモンスターは生まれなかったので、私がいなくても関係ないと思われていたようですが。
「あ、あぁ。今は目先の大災害の阻止が最優先だ。頼む」
「では……」
お願いされて聖なる力を使うのなんて何年ぶりでしょうか。
こんなときに不謹慎かもしれませんが、なんだか自分力を発動できることが嬉しくなってしまいますね。
私は今までブブルル王国で毎朝発動していたときと同じように聖なる力を発動させましたが、褒められたりお願いされるようなことはありませんでした。
さっそく力を発動します。
「「「「「「おおぉぉぉ!!」」」」」」
私の周りからは金色の光が放たれ、そのまま壁を貫通して辺り一帯に力が放出されました。
この光を見ていたキーファウス殿下やカイン騎士団長、護衛たちも驚かれていたようです。
それにしても、ちゃんと放たれたか心配になってきました。
今まで発動した直後は、毎回グッタリと全身の力が抜けるような感覚がありましたが、今回は全くなく、疲労感すらほとんどありません。
「たぶん……、ちゃんと発動できていればモンスターが生まれる前兆の光は消えたかと思いますが」
「きみ、確認してきてくれたまえ!」
「は、はい!!」
モンスターの知らせをしてきた男性は、再び慌てながら部屋を出ていきます。
そして数分後、大慌てで戻ってこられました。
「消えています! 確かに赤い光が消えていました!!」
それを聞いて、一番ホッとしたのは間違いなく私でしょう。
それにしても、今日は調子が良かったのでしょうか。
などと考えている猶予はどこにもありませんでした。
「ヴィレーナ殿よ! 本当にありがとう!!」
「へ!? 頭を上げてくださいよ。次期国王陛下ともあろうお方が……」
「王都が救われたも同然のことをしたのだぞキミは」
今まで当たりまえのように聖なる力を毎朝放ち、それが当たりまえのように王宮の人たちから言われてきました。
それが、メビルス王国の中でも二番目に偉いお方が私に対して頭を下げてくるなどもったいなさすぎます。
「私にできる当たりまえのことをしただけですよ。そんなお礼を言われることはしていません」
「……ヴィレーナ殿は謙遜しすぎだ……。ところで、この力はどれくらい持続するのだ?」
「そうですね……。今回は急いでいたので、二日くらいでしょうか」
「なんと! 二日間もモンスターの警戒をせずとも済むのか……。ありがたい!」
また、『ありがたい』だとか『ありがとう』と言われてしまったのです。
「ヴィレーナ殿よ、ありがとう!」
キーファウス殿下は群青色の優しそうな瞳を輝かせながら、私に再度お礼を言ってくださったのです。
私が謙遜しているのではなく、この国の人たちが優しいのだと思いました。
こんなに感謝されるなんて想定外だったので、私はとても嬉しい気持ちになっていたのです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。