推しのヒーローが弱すぎる ~ 敗北率100%の少年スーパーヒーローを私が推す理由と、彼が地球に平和をもたらすまでの物語

朽木桜斎

01 地球最弱のヒーロー

「お姉ちゃん、ごめん……今日も、負けちゃったよ……」


 15歳の少年スーパーヒーロー・ウルトラかなたんこと時実奏多ときざね かなたは、めそめそと泣きべそをかきながら嗚咽おえつした。


「いいじゃない、奏多くん。奏多くんが無事なら、わたしはそれでじゅうぶんなんだよ?」


 泣きじゃくる少年ヒーローを、3歳年長の秋野メイあきの めいは慰めた。


 彼女は近所に住む幼なじみのひとりであり、奏多のことを実の弟のようにかわいがってきている。


「うう……また、雷牙らいがくんが、助けてくれたんだよ……」


 櫛灘雷牙くしなだ らいがもまた、二人とは幼なじみの仲であり、「地球最弱」と揶揄やゆされる奏多に対し、彼は「地球最強」のポジションをキープしつづけている。


「なんで、僕は、こんなに、弱いんだ……僕なんか、僕なんか……生まれてこなければ、よかったんだ……!」


「奏多くん……!」


 メイは奏多の肩を強く握った。


「弱いですって? 奏多くんが? 今日だって敵が現れても、逃げずに立ち向かっていったじゃない? そんな奏多くんの、どこが弱いっていうの?」


 彼女は凛とした表情で、目の前の少年戦士に向きあおうとした。


「負けるか勝つかなんて関係ない、正直に言って、どうでもいい。目の前の敵から決して逃げず、懸命に戦おうとする存在。そんな奏多くんに、わたしは最大限の敬意を表する!」


「……お姉ちゃん」


 メイの真剣なまなざしに、奏多は心を動かされるところがあった。


「負けたっていい、泣いたっていい。本当の敗北というものがあるのなら、きっとそれは、心が屈するということだと思うんだ」


「う……」


 真を突いた言葉に、少年戦士はすっかりと打ちのめされた。


「だから奏多くんは、いまのままの奏多くんでいてちょうだい?」


「……うん、わかった……お姉ちゃんの、言うとおりだよ……」


「よしよし、もう大丈夫だね? ケーキを買ってきてあるんだ。いっしょに食べよう!」


「うん、ありがとう、お姉ちゃん!」


 心が屈しなければ負けではない、負けではないのだ。


 最弱の少年スーパーヒーローは、そうみずからに言い聞かせた。


   *


 数時間前、総合病院の診察室。


「疫学統計上、メイさん。あなたの余命は、もってあと半年というところです」


「そう、ですか……」


 時間がない、託さなくては。


 一番大切なものを。

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