休息
町歩きⅠ
「にしても、目的の吟味がやっぱり足りてないよねー」
モネはあくびを噛み殺しながら、肩のストレッチをしつつぼやく。カーテンの隙間を縫う陽光が照らし、そんなでも様になっている。
朝である。
今日は先日の体美派体験からのリフレッシュでもっとこの町を回ってみようということになった。
朝だというのにホテルのやたら畏まった食事をとり、出かける。そろそろもっと簡素でわかりやすいものを食べたいリベルである。アユの塩焼き、あれは美味しかった。焼けてパリッとした皮に、歯を進めればジューシーな身に達し、そこから出た汁が塩と溶け合ってみるみる間に骨だけになったものだ。
「おおーい!大丈夫かー!」
口内に唾液に溜まる思いで放心していたところ、現実に引き戻される。見てみれば、建物が倒壊している。確か、蛍光のペンキをぶちまけてかなり尖ったハートフルさを備えながら、一階に比して二階部分が出っ張っており、前衛的という字をそのままに受け取ってもしまったような外観の建物だ。跡を見るにやはり倒れ込むように崩れたらしい。
周りに集まった内の数人が、呼びかけ、救護活動なのか瓦礫をどかしていっている。他の人間たちはただ見ているだけの者が多い。
「そりゃあ、倒れるわよねー。デザインはよかったけど」
と、女が言う。
「ふむ。しかしまぁ、ここに住んでいたやつとは知り合いだったが、自分でデザインしたこの家に満足していたようだからのう。むしろそれの崩壊とともにあれたのは喜ばしいことだったんじゃないかのう」
と、爺が言う。
「はぁ?何がデザインがいいだよ。あほくさ」
と、男が言う。
「あほくさいのはアンタでしょ。自分の心血を注いだ芸術に、つまりは自分自身に潰される。それは限りなく極限に自己を表現できたということでしょう?」
と、最初の女が言う。
その後は、一層に議論が白熱したようだが、モネとリベルはあまり関わらないように通り過ぎた。
しばらく歩いて、先ほどの喧騒が聞こえなくなったところでモネが上に大きく伸びをする。凝り固まった背中が伸びて気持ちがいいのか、その顔はしっかり動きに連動している。
「あの男の、あほくさの一言に尽きるよねぇ。建物なんてまず第一にはちゃんと立つことでしょ」
「そうなのか?」
「そうだよ。じゃさ、リベル、私たちが今泊まってるホテル、あれが崩れたらどう思う?」
「崩れたらどうなる?」
「うーん、そこからかー」
額に手を当て大仰に溜息をする。
「すっごく痛い」
すぐさま、リベルに全力のデコピンを食らわせる。
「痛って!!」
涙目になるリベル。
「ど?建物の下敷きになったらこんなもんじゃすまないよ」
「すごい嫌だ」
「でしょ。あの建物、見た目は中々攻めてて私も嫌いではなかったけど、美しいにしてもまずもっと前提をしっかり確認しておくべきなんだよ。この間の連中もしかりね」
まだ額をさするリベルは故人を思い出していたが、痛みが引いて前を向くと当人が通り過ぎていった。
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