体美派

体美派Ⅰ

 朝の広場はその灰白色を黄色味の強い日差しが染め上げ、段々と温まる予感としんとした静けさが融け合い、とても気持ちが良い。リベルとモネは周縁のベンチに横並びに座って、行き交う人々を観察していた。リベルはうつらうつらとし、モネはというと飽きが来たのか足をプラプラとさせ退屈そうだ。


「どこから始めるのがいいのかなー」


 リベルは口をポカンと開けたままで、なにも返事をしない。どうもそのままでは気が済まないようでモネはリベルの肩を揺らす。四度五度すると、意識を取り戻して来たらしい。


「そんなに揺らすなよ。頭が痛くなる……う、気持ち悪くなってきた」


「朝っぱらからサウナなんかに行くからそうなるんだよ。昨日は見てくれる人がいてよかったものの、君はイマイチまだ加減ってものを分かってないからね」


 うなだれ、リベルは朝のサウナを振り返る。より我慢を重ねればあの解放感も増すだろうという安直な考えのもと、水分補給もせずにこもった案の定の結果であった。ただ、今度は心配の顔を見れたのでそれはそれとして満足したらしい。


「で?どこから始めるかだっけ。そんなのぼくに聞いたところで分かるわけないだろ。モネに考えがあるんだと思ってたんだけど?全然ないの?本当に?」


「君、どこでそんな煽りスキル手にしてきたの。ま、ないわけじゃないけど。具体的な中身までは決めてなかったんだよね」


「それならとりあえず、今のところの考えを言ってくれ」


「そうだなー……。まずは体美派にお邪魔したいんだけど……っと」


 モネが前のめりになって目を凝らし、辺りの人間たちを見定める。左右二往復したのち、勢いよく一人の人物を指した。


「あれ!あの人間にまずは聞いてみよう!こんなところで見せびらかすんだからきっと新規加入者の募集も前向き以上だよ!」


 リベルもその指先に視線を合わせる。指されていたのは腹筋が割れ、大胸筋の分厚い、まさしく上半身が逆三角形の男だった。昨日も確かこの広場にいた。ポーズをとるたびに白い歯と汗がキラリと光るようで鬱陶しさすら感じる。


「アイツに近づくのか。なんだか変に眩しくてちょっと嫌だ」


「え?君、太陽好きじゃない」


「あれはなんか、違和感があるんだよ。手作り感っていうのか」


「ふーん。よくわかんないね。でも、君の意見を聞いたうえでの結論であるからして、異論反論は一切受け付けませーんよ」


「意見を答えたっけか?」


 モネは数度目を瞬かせ、何事もなかったかのように男の方へ歩いて行った。リベルも今は別段に異論も反論もないためついていく。


「こんにちは!おじ……お兄さん!いい筋肉だねー!」


「おお!君もこの肉体美が分かるのかい!やっぱり最高の美は肉体にこそ顕れるものサ!そういう君も筋肉こそないが、素晴らしいプロポーションだ。線の細さと透き通るような白い肌が闊達な君の顔に反して繊細さを助長させ静と動のバランスを感じるよ!うーーん!!ウツクシイーーッッ!!」


 話しながら男はポーズを変え変えし、締めには大げさなグッドポーズをお見舞いしてきた。モネも応え、グッドポーズを歯が見えるほどのスマイルでもってお返しする。男はさも通じ合ったかのように頷きを繰り返した。


「もう私は十分に美しいんだけどね。私、もっと美しくなりたいんだ。十二分になりたいの。どうすればいいかわかるかな」


「フム。そうか。君も体美派なのか。であれば協力を惜しまないっ!さしあたっては私の所属するジムスポーツ総合センターに来るといいサ!そこなら筋肉のためのトレーニングはもちろん、各種スポーツもできる!君のような子には水泳とかが向いてるかもしれないね!どうだい!?私でよければ案内するよ!」


「そっか!水泳か!いいかも!それじゃ、案内をよろしくね!あ、この子も行くけどいいかな」


「もちろん!体美派の友は私の友!ともに美の極致を目指そう!」


 リベルは今朝のサウナのせいか、揺れながら立ち上るような男の熱に嫌気が差すも、こうした事々は見るべきだろうという直観から疑義を唱えることはせずについていく。

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