第3話 当たり前の感謝


 

 煌が今居る集落、の、ような所には、

記憶の無い人達が、よく訪れる。

 

 どこからか現れるその人達に、

 

どこから来たのか、

何をしていたのか、

訊ねても、いつも、

分からないとだけ帰ってくる。

 

 その人達が答えられる事は、

名前だけ。

 

 そんな人達が、いつしか自然と棲みついた場所、

それが、この地だった。

 煌自身も、

ここに来る前に、何をしていたのか、

どこから来て、

どこへ向かおうとしていたのかも分からない。

気づいたら、ここに居着いてしまった、

それだけの事実しか持ち合わせていない人々。

 ただ、それだけの事。

 

 燈も皆も、

思い出せないものは思い出せないし、

分からないものは分からない、

そう腑に落として、日々を生きてきた。

 

 しかし、それは悲観的状況でなく。

 

 腑に落とす動機が、この世界にはあった。

それは、自由と考え感じるまでも無く、

当然の様な「自由」に夢中になってしまう事だった。

 

 誰もが得る開放感。

 誰もが笑い合える安心。

 

 それらが、この世界にはある。

 当たり前の様で、当たり前ではない、それらが。

 

 この世界での特別な事が、一つだけある。

 

 それは、空を飛ぶ人や透明な体になれる人、

大きくなれる人など、時折、

他の人がどんなに頑張っても出来ない事が出来る、

 

変わった人が居る、と言う事だ。

 

 他人に寛容なこの世界の住人は、

それらの特別性を、

凄い、凄い、と笑みをこぼしながら喜ぶばかり。


 特別性を否定する者など存在しないこの世界。

 


 煌も、それらの存在に、都度心を踊らせていた。

 今もまた、心は踊っていた。

 

男の髪の色を見て、

男のくせに、何だ、と思いながらも、

あんな髪の色なのだ、きっとまた面白い人なのだろう、と。

 

 早く会って、話してみたいな。

 そんな面持ちで、


 急く気持ちのまま走り出し、人の群れを勢い良く掻き分けた。

 

 「今日はこの辺で終わりにしよう!

 全員相手にしてたら疲れちゃうよ。」

 

 よし!後は挨拶だ!

 「私は煌、宜しくね。」

 

 次は、握手だ!

 

 何か、戸惑ってるな、この子。

 

 「俺は、伊吹、宜しく。」

 

 何か、ちょっと引いてる!初心、男のくせに!

 でも、ちょっと、新鮮だな!

 

 煌は、そう思った。

 そして、

 また新しい出会いに感謝をした。

 

 

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