第2話 旅立ち

 ユートピアでは、何をする事も自由だった。

誰しもが誰しもの行動を制限する事も、その必要も理由も無い。

 犯罪の心配も必要無い。物がコストゼロで製成されるこの世界で、

何かを人から奪う理由が無い為だ。

 

 誰かに危害を加える理由が存在しない、それがユートピア。

 

 お金も、働く事も必要無いこのユートピアには、

好きな事をする以外の理由が存在しない、とも言える。

 

 好きな事をする為に生きている人々。

 

 生きることにゆとりを持って取り組む事が出来るこの世界の住人は、

皆それぞれに寛容であり続ける。

 

 今日も皆が皆を称え合い、いつもと同じ風が吹く、それがユートピア。

 

 しかし、今日の煌は少し、心持ちが変化していた。

煌は、この日、唐突にふと、一人思い立っていた。

 

 旅に出ようと。

 

 朝目覚めてからずっと、新しい地に想いを馳せていた。

まだ見ぬ、新しい地を。どんな景色、人々に会えるのかに期待を寄せていた。


 どこに行く事も、いつ行くのかも、自由なユートピアで、

思い立った事を、後伸ばしする必要も理由も無かった。少なくとも、煌には。

 

 早速、僅かばかりの食料を用意する煌。赤く艶やかな髪を櫛で溶かし、鏡に笑顔する。そして、皆がいつもの様に集まりだすタイミングを待った。

 タイミングを待ったのには理由がある。それは、

ここにいる大勢の人々と会わない様に、ひっそりと旅立つ為だった。

あんな大勢の人達に挨拶していたら、せっかく思い立ったのに、

出発の日にちが遅れてしまうからだ。煌は気が早い方だった。

 

 妙に急かしてくる、旅の衝動を堪えながら、

煌はどちらの方向に向かおうか、果てしなく続く緑を見回しながら、感性の赴く方角を感じようとしていた。煌は、唇を指で触れながら、目を凝らした。

 

 その時、皆が集まっている方向が騒がしい事に、煌は気づいた。

誰かが、何か良い曲でも作り出して沸いているのか、何か面白い芸でも思いついたのかと、煌は思い流しながら、感性の赴く方向を探していた。

 

 その最中、

 

 煌は見つけてしまった。そして見入ってしまった。感性が赴いたかは、煌自身も

分からなかったが、

 目に留まるものが、確かに煌の視界に現れた。そして、

それを見た感想がようやく訪れる。

 

 

 何だあれ!

煌は、心の中で叫んだ。

 

 煌の目には、同じ歳程の若い青年、だが髪は見た事も無い色をした男が写っていた。

 

 何だあの色!男の癖に趣味悪!変な奴だ!

煌は、そう思った。

 そして、それと同時に、自身の思いに驚いた。

 

 不思議だ。人の事否定する事なんて、今まで無かったのに。

 

煌は、心がくすぐったい感じに笑みをこぼした。

 

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