第46話 勇者の剣

「えっ、なにココ?」と勇者はベッドの上で戸惑っている様子だった。

「家だよ」とネネちゃんが答える。

「誰?」

「ネネちゃんだよ」とネネちゃんが答える。

「ネネちゃんって誰?」

「ネネちゃんはネネちゃんだよ」

 とネネちゃんが答える。


 俺は恐る恐るベッドに近づいて行った。美子さんもアイリもマミも一緒に近づいている。

「わかんないかな? ネネちゃんがどこの誰か聞いてるの」

「ネネちゃんはネネちゃんだもん」

 とネネちゃんが答えている。


 美子さんがカーテンをゆっくりと開けた。

「起きたのね」と美子さんが言う。

「日本人?」と勇者が首を傾げた。

「そうよ。日本人よ」

 と美子が答えた。

 勇者が身構えて、少しだけ緊張が走った。

「そういっても私達は勇者じゃないんだけどね」

「勇者じゃない?」

 不思議そうに勇者が首を傾げた。

「そうよ。私も旦那も勇者じゃない」

「旦那?」

 勇者が首を傾げた。

 美子さんが俺を手で示した。

「やぁ」と俺が言う。

 やぁ、は間違えたかもしれない。

 初対面ではないので、初めましてとは言えなかったのである。

 それにしても「やぁ」は馴れ馴れし過ぎた。

「本当に勇者じゃないの?」と勇者が疑いながら尋ねた。

「本当だよ」と俺が言う。

「魔王を倒したら日本に帰れる。その戦いには参戦してないの?」

「してない。俺達は一生をココで生きていくつもりだ」と俺が言う。

 一生をココで生きていく。

 言語化していなかった事実を俺は自分の口で言った。

「そっか。それじゃあ敵じゃないんだ」

 と勇者が言った。

「他の国の勇者は敵なのか?」

 と俺は尋ねた。

「ほとんど」と勇者が答えた。

「俺は一度、君に助けられている」

「覚えてない」

「いいんだ。コチラが覚えている」

「ココは?」

 と勇者が尋ねた。

 美子さんは国名を答えた。

「帰ってこれたんだ」

 と勇者が安堵の溜息を漏らした。

「どうして君は瀕死だったんだ?」

 と俺は尋ねた。

「最悪」と勇者が呟いた。「スキルを封印する敵と出会って……」

 彼女はそう言って、自分のステータスを確認した。

「マジ最悪」

「どうしたの?」と美子さんが尋ねた。

「スキルが封印されてる」

 はぁ、と勇者が溜息をついた。

「1カ月はスキルは使用不可みたい。でも、いいっか。1カ月、この家に泊めてよ。休息する」

「……それはできない」と俺は言った。

「なんで? 私アナタの命の恩人なんでしょ?」

「そういうことじゃない。この国にサリバン軍が向かって来ている」

 勇者の顔が青ざめる。

「最悪じゃん」と勇者が呟いた。


 みんな黙る。

 もしかしてサリバン軍との対決は負けか?


「瞬間移動が使えたの」

 と勇者が答えた。

「えっ?」と俺が聞き直す。

「さっきの答え」

 さっき何の質問したっけ?

「スキルが封印される前に、瀕死状態のまま始まりの国に瞬間移動したのよ」

 と勇者が答えた。

「君は誰かと戦って死ぬギリギリで瞬間移動をしてきた」と俺が確認した。

「そうよ」

「今は瞬間移動はできない」

「瞬間移動どころか、何のスキルも使えない。生きていることがハッピー」

 と勇者がテンション低めに言った。


「お姉ちゃん」とネネちゃんの声が聞こえた。

「この剣、カッコイイね」

 とネネちゃんが呑気に勇者の剣を握っていた。

「人のモノ勝手に触っちゃダメよ」

 と美子さんが言う。

「その剣」と勇者が言う。「勇者しか持てない剣なのよ」


 勇者の剣がネネちゃんに合わせてサイズが変わっていく。

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