第25話 ガンガンレベル上げして私達を守ってね
俺はオークが持っていた錆びた剣を拾った。殺された少年の持ち物なんだと思う。
俺が剣を拾った瞬間にみるみる剣に錆びが無くなって綺麗になっていった。
俺は驚いた。なぜ錆びた剣が新品になっていくんだろうか? ‥‥思い当たる節が一つだけあった。
『経済』というパッシブスキルがある。ドロップアイテムが高価になる、というモノである。
もしかしたらドロップアイテム‥‥戦利品は質が良くなるのかもしれない。
3人も目を丸くして、新品になった剣を見つめていた。
「コレはクロスが使え」と俺は言って彼に剣を渡した。
「ありがとう」と彼は小さく呟いた。
それから俺はオークの首にぶら下げられていた2人の少年の頭を外した。
頭部の側面に穴が開けられている。その穴に紐を通してネックレスにしていた。
『経済』の高価は少年の頭部には作用しなかった。
だけど紐の品質だけは良くなった。
もしかしたら金銭になるモノは質が良くなるけど、金銭にならないモノは質が良くならないのかもしれない。
2人の少年の頭部は、怯えていた。
アイリとマミが泣きそうな顔をして、コチラに手を伸ばした。
2人の少年の頭部を彼女達に渡す。
彼女達はうずくまるように頭部を抱きしめて泣いた。クロスも少女達のところへ行き、頭部に触れた。
俺は3人を横目にオークの左耳を切った。討伐の証拠として左耳を冒険者ギルドに提出しないといけないのだ。
そしてオークの胸を小刀で切り裂き、心臓を取り出した。空気に触れた心臓は結晶化していく。これが魔力石である。
2人の少年の頭部は門の近くに埋めた。いつでもお墓参りが出来るように。
クロスとマミとアイリは泣きながら土を堀り、頭部を埋めていた。
そして俺達は街に戻った。
「先生、ごめん」とアイリが震えた声で言う。
「どうしたの?」と俺は尋ねた。
「せっかく買ってもらった服を汚しちゃった」とアイリが言った。
アイリの緑色の服には、赤い血がついていた。
クロスとマミも自分の服の状況を確認した。マミは赤い服だから血がわかりにくいけど、クロスの服は汚れていた。
「洗い替えを買ったらいい」と俺が言う。
冒険者ギルドに行く。
オーク討伐の報酬は、金貨2枚だった。
そして魔法石も売った。すごく質が良い、と評価されたオークの魔法石は金貨2枚だった。
3人に1枚ずつ金貨を渡した。
「今日のご飯代と服代を先生に返す」とクロスが言う。
「私も」と2人の少女が言った。
これじゃあ俺が貰いすぎだ、と俺は思った。
「それじゃあ、こうしよう。この金貨で3人の服を、もう一着ずつ買ってあげる。それと晩ご飯はウチで食べて帰りなさい」と俺が言う。
「先生」と小さくマミが手をあげて言った。「私もいいの?」
討伐の役に立ってないけどいいのか? と彼女は聞いているのだろう。
「もちろん」と俺は答えた。
「次からは食事代を引いた4等分した金額が君達の報酬になる」
と俺が言う。
3人には美子さんの料理を毎日食べてほしかった。美子さんの料理には特別な力があるのだ。そのおかげで俺は、この世界に来てから病気や怪我で苦しめられたことがないのだ。
「うん」と3人が嬉しそうに頷いた。
後で一食の値段を美子さんに聞こう。
冒険者ギルドはお酒も提供している。テーブルには冒険者稼業をやっている者達が酒を飲んでいた。そんな飲んだくれの集団が嫌なことを語っているのを耳にする。
「この国の騎士団達はオークキングに負けて、帰って来ているらしいぞ」「それじゃあこの国もオークキングに攻められるのも時間の問題じゃねぇーか」「逃げるなら今か?」「どこに逃げるんだよ。隣の国も危険度は一緒だろう」
テーブルのあちこちで似たような話題を冒険者達がしていた。
冒険者ギルトを出ると古着屋に行った。3人は今着ている服と似たような服を購入した。別に好きなモノを買っていいんだよ? と俺は言ったけど、選択肢が多すぎてよくわからん、同じモノでお願いしまーす、みたいなノリだった。
そして3人を家に招いて晩御飯を食べた。妻は彼等を連れて来るのを見越して多めに作ってくれていた。
これから先も彼等と一緒にご飯を食べることを美子さんに伝えた。食事代を引いたお金を彼等に報酬として渡す旨も伝えた。
美子さんは3人が泊まれるように2階も片付けていた。だけど3人は泊まらなかった。家に仲間が帰って来た時に自分達がいないと探し回るかもしれないから、という事で、あのボロボロの孤児院に帰らなくてはいけない。
他の仲間は森に出かけて以来、帰って来ていないらしい。
ご飯を食べ終えると美子さんの指示で3人は食器の洗い方を教わっていた。自分で食べた食器は自分で洗う。子ども達が食器を洗っているから俺も自分の分の食器は自分で洗った。
「先生、ありがとう」
とクロスが手を振った。
「気をつけて帰り」と俺が言う。
「はい」とマミが元気よく返事をした。
「明日も赤ちゃんをいっぱい抱っこさせてね」とアイリが言った。
そして3人は仲間の帰りを待つために、あのボロボロの孤児院に帰ってしまった。
俺はネネちゃんを抱っこしていた。
小さな生き物が俺の服にしがみついている。
俺は片腕でネネちゃんを抱っこして、片腕で美子さんの背中をさすった。
「あの子達を受け入れてくれてありがとう」
と俺は言った。
「あの歳の子達を私は教えていたのよ」
と彼女が言った。
本当の先生は彼女なのだ。
「育児で大変なのに美子さんの仕事を増やしてごめん」
と俺は言った。
俺は赤の他人の食事を彼女に作らせているのだ。
「別にかまわないわよ」
とニッコリと美子さんが言った。
ネネちゃんが俺の腕の中で眠っている。
「これから俺は3人とレベル上げをして強くなる」と俺は宣言した。
飲んだくれの冒険者が言っていた事が頭を過ぎる。だけど美子さんを不安にさせるだけだから言わなかった。
「レベルは上がったの?」と彼女が尋ねた。
「上がったよ」
「それじゃあ強くなれるじゃない。ガンガンレベル上げして私達を守ってね」と美子さんが微笑んだ。
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