第24話 魔物の場所
3人には新しいスキルの練習をしてもらった。
門を出てすぐのところ。魔物が入って来ないように堀が作られていた。国全体を堀で囲んでいる。俺達がイメージする国と、こちらの国では規模が違う。1つの国が街1つ分ぐらいの大きさなのだ。街の中心には王都があり、さらに王都は堀で囲まれていた。
魔王を倒すことで魔物の存在が消える、と信じられている。
それぞれの国から勇者を召喚して冒険をさせていた。どの国の勇者が魔王を倒せるのかを競っていると聞いたことがある。
魔王に勝つことができた勇者を召喚した国は政治的に有利な立場になれるのだろう。詳しくは知らない。
堀の中には綺麗にすんだ水が流れていた。水源は川から持って来ているらしい。目を凝らせば川の中に川魚を見ることができた。
アイリのプラントグローズは攻守ともに使えるスキルだった。
彼女はバリアを張るように自分の周りをドーム状に植物を囲んでいた。
クロスは俺のことを隠蔽した。
「隠蔽」と俺の近くで叫んでいたのに、数分後には「もう無理だ」と言って地面に寝転がった。隠蔽は相当な魔力を使うらしい。ブーストをかけていない状態ではクロス自身を含めて2人を隠蔽するのがやっとだった。しかもスキルを保てるのは5分が限界だった。これは純粋に魔力不足なのもあるだろう。
マミは岩に向かってファイアーボールを撃っていた。だけど火の玉は狙い位置と違う場所に飛んでいき、木を燃やした。俺はウォーターボールで火を消した。
30分もしないうちに3人とも魔力不足になったらしく地面にへたり込んだ。
「だいたい新しいスキルの使い方はわかったか?」
と俺は尋ねた。
うん、と力なく3人が頷いた。
「先生、私もう森の中には入れません」
とアイリが言った。
「私も」「俺も」とクロスとマミが言う。
「大丈夫だ。回復するための団子は多めに持って来ている」
と俺は言って、腰につけた巾着から団子を取り出した。
「わぁーー、これうまいやつ」とクロスが言った。
女子2人は黙ってパクッと食べた。
3人が団子を食べて、魔力を回復したらしく元気よく立ち上がった。
「今日の目標は」と俺は言った。「昨日の場所まで行って帰って来ること」
「オークは倒さないの?」とマミが尋ねた。
「無理しなくていい。トラウマになっている昨日の場所に行って帰って来たらいいんだ」と俺は言った。
「ロトム兄ちゃんとシン兄ちゃんの物、なにか残ってるかな?」
とクロスが言った。
「探そう」とマミが言う。
コクリ、とアイリも頷いた。
3人は気丈に振る舞っているけど、昨日仲間が殺されているのだ。
3人の頭を撫でると金箔のような光が降り注いだ。俺の【愛情】のスキルである。効果はステータスアップ。さらに庇護下はステータスの上昇率が2倍になる。心なしか降り注ぐ金箔の光が多いような気がした。
森の中に入る。
昨日の出来事がフラッシュバックして体が震えた。もう少しで俺達は死んでいたのだ。
気丈に振る舞っていた3人も森に入れば口数が減った。
俺達の事を嘲るように、草木が揺れている。
魔物の気配を感じるように五感を研ぎ澄ませた。
辺りを見渡す。
オークがいない事を確認しながら前に進む。
俺達は大丈夫である、と自分に言い聞かせた。森に入る勇気はある。まだ冒険者としてやっていける。
そして昨日の場所まで、やって来た。
「アイリ、隠密を使ってくれ」と俺は言った。
大きな生物が歩く足音が聞こえたのだ。
「はい」とアイリが答えた。
「みんなもアイリから離れるな」と俺が言う。
2人がコクリ、と頷く。
アイリの隠密には許容範囲があるらしい。せいぜい半径2メートル。そこから出てしまうと気配で魔物に気づかれてしまう。
岩陰に隠れて、足音が聞こた方を見た。
そこにはオークがいた。
豚のような醜悪な顔。尖った耳。
デップリとした上半身は裸で、獣の皮を剥いだ毛皮を下半身に巻いている。
手には錆びた剣を持っていた。
そしてネックレスのように、2人の少年の頭部を紐に巻きつけて首からぶら下げていた。
戦利品として首に巻いているのか? いや、違う。誘きよせるために2人の少年を首に巻いているのだ。それじゃあ誰を誘き寄せるために頭部を巻いているのか? 殺した少年達の仲間である。
「帰るぞ」と俺は言った。
だけど遅かった。
クロスが鬼のように怒り、オークを見ていた。
「隠蔽」とクロスがスキルを唱えた。
目の前にいたはずのクロスがいなくなる。
咄嗟に俺はクロスがいたところに手を伸ばす。
でも俺はクロスを触ることができなかった。
まだまだ残っている枯葉を踏み締める足跡だけが聞こえた。
クロスは隠蔽を使ってオークに近づいて行った。
俺はアイリとマミを見た。
2人は泣き出しそうな顔をして、足音が聞こえる空間を見ていた。
「オークを倒す」と俺は言った。
クロスは隠密の許容範囲から超えてオークに近づいて行く。
オークは何かを感じているのか、首を傾げて何もない空間を見ていた。
「スラッシュ」とクロスの声が聞こえた。
オークに不意打ちの斬撃を喰らわしたらしい。
斬撃後、隠蔽のスキルは解除されてオークの目の前にクロスが出現した。
しかも不意打ちも致命症になっていない。お腹を切ったけど、錆びた剣はオークの脂肪に阻まれて奥まで入っていなかった。
オークがヨダレを垂らしてクロスの首を掴もうとした。
「サンダーボルト」と俺は叫んだ。
オークがクロスを掴む前に、俺のサンダーボルトがオークにダメージを与えた。
サンダーボルトで麻痺するのは10秒ぐらいである
「アイリ、プラントクローズでオークを拘束」と俺が言う。
「はい」とアイリが言う。
「プラントクローズ」と彼女が言うと地面から木の根っこが出てきてオークを拘束していく。
「クロス、今のうちにオークの首にスラッシュを決めろ」と俺は叫んだ。
「スラッシュ」
「スラッシュ」
「スラッシュ」
「スラッシュ」
とクロスは何度もオークの首に斬撃した。
何度目かのスラッシュで、オークから蒸気みたいな塊が飛び出してきた。初めて見るモノだった。
そして、その蒸気は分裂してクロスとアイリと俺へ飛んで来る。
『クロスのレベルが上がりました』
『アイリのレベルが上がりました』
『中本淳のレベルが上がりました』
女性のような、機械音のような声が脳内から聞こえた。
レベルが上がったのだ。
オークが死んでもなお、スラッシュを撃ち続けるクロスの元へ行く。
「クロス」と俺が呼びかけても、彼は斬撃をやめなかった。
腕を掴んで、彼を止めた。
クロスは泣きながら俺を見た。
「もうオークは死んでいる」と俺が言った。
勝手に飛び出した彼を怒るつもりだった。もしかしたらクロスが死んでいたかもしれないのだ。だけど彼の顔を見て、怒る気力を失った。
その代わり、俺は彼の頭を撫でた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます