第34話 天津と国津

 八王子の事務所から1人の若い女性が消えたまま、既に1週間が過ぎていた。


 深夜の残業中の建物の中、まるで神隠しにあったように、トイレの中で忽然と姿を消した女性職員。マスコミを通じて異様な事件として社会を騒然とさせた。


 その夜は、同じ建物の中に2人の男性職員が残業中であった。特にそのうちの1人は、消えた女性職員と同じ職場の同僚であり、事件との関係も十分に捜査されたが、動機や証拠など一切の手がかりもつかめないまま、現在、警察も捜査に行き詰まっていた。


 立川駅北口から7分ほどの距離にある大神ビルの5階と6階にはスポーツジム『立川スポーツスタジアム』が設置され、体力増強や健康維持を目指す人たちの利用で日々賑わっている。


 6階の一番奥に200㎡ほどの事務局があるが、この事務局はもう1つの別の顔をもっているのを知る者はほとんどいない。


 『神道研究会』が表向きの顔であるが、実態は『神聖教団』という社会的には認知されていない団体の活動拠点となっている。


 地球上に人類が誕生以来続く、我々が知る歴史とは異なり、通常目には触れない裏の歴史もまた、常に蠢き変動している。


 表の歴史は人類発展の歴史そのものであり、裏の歴史は人類の存亡の歴史といえる。


 無限に拡がる時空間の中で、現在・未来の人類社会の安定的発展を護り、人類に害する人外の存在を殲滅する役割は、古から『神』と呼ばれる存在であった。


 今は存在しない神々に変わり、人知れずその役割を果たしているのが、神々の子孫・末裔たちであり、その神聖な役割を担うのが『神聖教団』である。


 教団代表の大神宗助は、大学教授であり、大神ビルのオーナーでもある。日本最大の都市銀行を中心とした大神財閥グループの代表、大神宗一郎の長子である。


 大神家は、表社会では華やかな巨大財閥グループであるが、古より人外の存在から人類を護るという、神聖な役割を担う古き家柄である。


 教団は代表の下に副代表2人が置かれ、活動部隊は10人編成の10隊が組織されている。10隊は5隊ずつ『天津』と『国津』の2グループに別れている。


 天津Gは、1番隊の神谷真一隊長をリーダーとした1番隊から5番隊、そして国津Gは、6番隊長の小林神太郎をリーダーとした6番隊から10番隊である。


 神谷、小林ともに、副教団長を兼ねており、冷静沈着な神谷、大胆豪放な小林が代表大神の右腕、左腕といった存在である。


 大神をはじめ活動部隊のすべてが、古の神々の子孫・末裔であり、更には教団員の下で教団活動を支える『使徒』たちもまた、神々と何らかの関係を持つ者たちである。

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