第33話 餌狩り

 凍える寒さ、肌にまとわりつく重い闇、立ち尽くしたまま、影の前まで闇を滑って行く。歩いてなどいないのに・・・・・


 『バチッ、バチッ』


 遠く電撃音を背中が聞いていた。溶け落ちた壁が徐々に閉じていく。まるで時計を巻き戻すように。もう戻れない・・・・・


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 「おい、今日の調達はもう済んだのか?」


 「いや今日は適当な餌が見当たらなかった」


 「本当か?なんかうまそうな臭いがする。血の臭いがするぞ。口についているのは血じゃねぇのか?オマエ、勝手に喰らったな!」


 「おいっ、デカイ声を出すな。ボスに聞かれたらまずい・・・・・」


 「バカ野郎、勝手なことしやがって。掟を守らなけりゃ、命がねぇのは分かってるだろう」


 「な、頼むよ。頼むから見逃してくれよ。まだたっぷり残っているから、オマエにも喰わしてやるから。ボスには黙っていてくれ」


 「オレにも喰わせるのか?本当だな?どんなヤツだ?早く教えろ」


 この人間牧場には、4体のハイエナ顔の獣魔が食料を管理している。管理と言っても元来は互いに争い喰らい合うのが魔物の本性であり、より強大な力をもつ妖体が力で支配し弱い魔物を操る。逆らえば引き裂かれ喰らわれるのみである。


 薔薇の香りの墓荒しと呼ばれるボスの「墓荒(ボコウ)」は体高3m、残りの3体とは同じ種族ではあるが、強さと凶暴さは抜きん出ている。逆らえばもちろん殺され喰らわれるだけである。もう既に2体は墓荒の腹の中で眠っている。


 妖魔界と人間界は別の時空間ではあるが、墓荒の妖魔から与えられた異能力により、人間界の満月の前後、磁界の乱れに同調し空間接続が可能である。


 満月の前後数日間、妖魔界と人間界はつながり、獣魔たちが侵略し餌を狩る。家畜や犬猫などは喰らっても問題ないが、人間は連れ帰り牧場で育て増やすのが掟となっている。


 墓荒も、獣魔たちが餌狩り時に、何人かの人間を喰らっているのは分かってはいたが、餌狩りを行うハイエナ獣魔が残り3体のため、多少ことは見逃していた。


 牧場の裏、幽かな青い月明かりの下、廃棄場に2つの影が見受けられる。


 「ゴリッ、バキッ」


 まるで硬いものを噛み砕くような異音が聞こえる。口の周りを汚して2体の獣魔が何かを喰らっている。剛毛に覆われた太い腕、鋭い爪が、まるでマネキンの手足のような物を握りむさぼっていた。


 青い月明かりの下、甘い薔薇の香りのなか幽かな血臭が漂っていた・・・・・

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