第29話 恐怖の闇
森根にはメールで緊急の仕事が入った旨の謝罪の連絡を入れ、大事なスケジュールは先延ばしとなった。
山田の指示に従ってPCのシートに打ち込んでいく。評価の基本になる様々なチェック項目に段階評価を入力していく。
見慣れた職員の名前が次々に出てくる。他の課の係長、同じ課の先輩、同僚の名前も。見てはならないものをのぞき見ているように、ドキドキする。
『えーっ、あの人こんな評価なんだ』
普段自分が感じている評価とは著しく異なる。偉そうに威張っている先輩の評価が低い。更には心配だった自分自身の評価もそこそこ良好であった。やはり人事っておもしろい。
大事なデートをキャンセルせざるを得ない突発的な残業に初めはムカついていたが、すっかり夢中になって処理を進めた。
「ごめん!牧ちゃん、いいかな?少し喉が渇いちゃった。コーヒーでも飲もうか?」
牧野のヘルプにより予想外の進捗に気を良くした山田から声がかかった。
「1階の自販機で、何か飲み物を買ってきてくれるかな?俺はコーヒー、牧ちゃんは何か好きな飲み物買ってきて」
「はいっ、わかりました」
山田から千円札を受け取り1階の自販機に向かう。ちょうどトイレに行きたかったから急いで行こう。3階トイレとエレベータも利用できるが、どちらも庶務課から離れ、闇の中に埋もれているため階段を駆け下りた。
階段は照明を落としているため暗いが、2階の庶務課辺りの照明のみ灯っている。別の事務所ではあるが庶務課の人事って今の時期は忙しいのかもしれない。
牧野がこの事務所には帰属された時に、同じ系列の事務所として2階の庶務課にも挨拶回りをしたので、一応顔見知りとなっている。
同じ暗闇の中に人がいるのは嬉しいし心強い。2階の僅かは灯りに勇気づけられながら、再び闇に埋もれた1階のフロアへ続く階段を降りていった。
本当は飲み物なんか要らなかった。
1階になんか行きたくなかった。
一緒は真っ暗で何か怖いから・・・・・
1階に近づくにつれ、空気が冷え込んできたような気がする。不安感が増大し、背中が寒い、鳥肌が立つ、心臓の鼓動が早まる。
行きたくない、いやなんとなく行ってはいけないと頭の奥で声が聞こえるような気がする。
誰もいないはずの1階なのに、
何かがいるような気がする。
何かが待っているような気がする。
怖い、本当に怖いの、行きたくない・・・・・
見えない恐怖が潜む1階のフロアに、引き止めようとする不安に怯える足を下ろした。
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