紫陽花一人

紫陽花一人

雨が降る濡れる紫陽花（あじさい）見る蛙　蝉（せみ）と蛞蝓（なめくじ）、出ん出ん虫よ

紫陽花（あじさい）は雨中無防備（むちゅうむぼうび）濡れそぼる蝉（せみ）は見下（みくだ）す高い木の幹

紫陽花（あじさい）は蛞蝓（なめくじ）うごめく花の上見た目悪くて近寄りがたく

紫陽花（あじさい）の濡れた葉と花空いた穴丸い目覗く湿った蛙

紫陽花（あじさい）を喰い物にする出ん出ん虫ここにはいない蝸牛被（まいまいかぶり）

雨が降る腐らせたいか延々と雨にさらされ紫陽花（あじさい）一人

雨上がり濡れた紫陽花（あじさい）嗤う蝉（せみ）　蛙、蛞蝓（なめくじ）、出ん出ん虫よ

紫陽花（あじさい）を取りまく木々よ蝉（せみ）達よ呼吸合わせて楽しいものか

紫陽花（あじさい）の花影密（はなかげひそ）か蛞蝓（なめくじ）よまるでやすりでこの身削られ

紫陽花（あじさい）は悲鳴上げずにただ一人満足げな目醜い蛙

紫陽花（あじさい）はまるで涙に濡れたよう花に居座る出ん出ん虫よ

雨上がり静かな夜に悟る花安息の夢紫陽花（あじさい）一人

微睡んでしおれ消えたい花は言う甘く優しい泥沼の中

夢の外鋏片手に庭師達安寧（あんねい）の夢見る間は無くて

花咲けと手を尽くされど願われど肥料撒かれど水を撒かれど

なぜと問う色の異なる紫陽花（あじさい）よ思う通りに咲けと言われど

なぜ咲くか理由求めて花切られ枯れる能（あた）わず咲けど喰われて

気味悪い血色の空の蜩（ひぐらし）よまるで冒涜紫陽花（あじさい）一人

世の中よ蛙鳴蝉噪（あめいせんそう）限りなく安寧の夢見るの叶わず

日記帳紫陽花（あじさい）一人上表紙（うわびょうし）安息の色真っ赤な血色