第五章 閉じ込められた鷹2

TEEEL……TEEEEL……家の電話が鳴る音が聞こえて……ぼくは眼を覚ました……

「楓……楓……電話」と楓を呼ぶが……楓から返事は無かった……ぼくは仕方が無く寝床から起きた……

どうせなら、もう切れてしまえば良いのにと思うが……電話は続いて鳴る……

久しぶりに、昼寝をしたから……まだ意識がはっきりとしない……そう言えば……最後に昼寝をしたのって……朱鷺に会ってからだった……眼を覚ましたら、知らない人が居て……でも……ぼくには関係無くて……ぼくは気にもしなかったけど……それは、母さんが話してくれた朱鷺と分かって……ぼくは……興味を持ってしまった……言うならば……単色ばかりの世界で楓しか色が無かった世界に……

新しい色が出来た……そんな感じだった……。

「はい、鷹羽です、御用件は……何でしょうか?」電話越しのせいか、いつもより、スムーズに言えた……だけど……相手の声を聞いた時……ぼくは……受話器を……落としそうになったが……なんとか耐えた……

「久しぶりじゃねぇか……凪」

岩倉丈(いわくら じょう)……ぼくと楓の……血の繋がった実父……過去の嫌な記憶がよぎる……

家事を押し付けられ……殴られ……お酒を注がされ……零したら殴られ……家から出るときは……常に一緒じゃないと出られなかった……出たいと駄々をこねれば……殴られ、蹴られ……簀巻きにされて、物置に閉じ込められたりした……

お母さんが……助けてくれるまで……ぼくは頑張って……耐えた……耐えた……なぜお母さんは……ぼくたちを捨てたの?見捨てたのと思う事があったけど……お母さんは……助けに来てくれた……助けてくれた……

「おい!なに黙っているんだ!」急に怒鳴られ……ぼくは意識を電話に戻した……

「何の用……ぼくは……お前なんかと話す事は無い!」

気押されてはいけない……気迫で負けたら……ぼくはまた……こいつに怯えてしまう……

「おいおい、お父様にそんな口をきいても良いのか?」

吐き気がする……吐き気がする……お母さんの溜めた財産を奪い食いつぶしながら……生きていた生活……こいつに父親らしい事をされた記憶もない……

こいつは……

「いい加減にしないと……今度こそお仕置きをするぞ!」

なにかあったか思い出せないが……そう言われた瞬間……体が強張って……なにも言えなくなった……。

「それで良いんだよ!お前にもう逃げ場なんて無いからな!」

逃げ場が無い?それはどういう意味だろう?

「なぜなら、お前の保護者は警察に捕まっているからな!」

ぼくの手は……今度は……受話器を落としてしまった……

「近々お前らを引き取りに行くからな!楽しみに待っていろよ」床に落ちた受話器から聞こえる声……ぼくは……床に座り込んで……茫然としてしまった……

「凪、ごめんなさい、洗濯物を干していたから……誰からの電話だったの?」

楓が……笑顔で……やって来るのを見ながら……ぼくは気を失った……こんな現実から逃げるように……



***

留置所に放り込まれた私は……しきりに思考した……

失敗した……後手に回りすぎた……ICレコーダーも没収されたが、私以外にはデーターを扱えないようにパスワードを入れているが……壊されたら元も子もない……

留置所のベッドに横たわりながら……私は考えた……いまは、何とか気持ちは落ち着いているが……

まさか……軟禁とか売春の容疑をかけられるとは……まあ……傷害罪の方は……あのレコーダーが証拠として提出されたら……なんとかなるだろうし……それで、名誉棄損で訴えて、あの男が貰う筈のなけなしの金を慰謝料で奪い……親権と引き換えの裏取引を持ちかければ……駄目だ……裏取引内容を前田が言う可能性がある……いや、裏取引自体が奴の目的だろう……私を陥れるのが目的で……そもそも……警察の中に手を貸すものが居るから……証拠をでっちあげられる可能性もある……


「おい……大丈夫か!」

誰かに話しかけられ……私は思考を停止させ、檻の方を見ると……

立花警部が居た

「お前が捕まったって聞いて……急いできたが……その様子なら、落ち着いているようだな」

私の様子を見て、安堵して息を吐く

「お騒がせしています……なにを聞いたかわかりませんが、私は無実ですよ」

とりあえず、軽く主張する

「ああ、お前的には罪にはならないと思っていただろうが……親権も無いのに未成年を連れまわすのは……犯罪だぞ」

そう言いながら、立花警部は進行そうな顔をする

「今回の件はお前には不利な状況だ……証拠らしい証拠もなく」次の言葉で……私は……苛立ちを隠せなかった……

「ICレコーダーが紛失した」

「紛失って!あれには証拠となるものがいろいろと……」

あの時の私に飛びかかる岩倉の声もあの中には入っている

「ああ……俺もそう思って取りに行ったら……そんなものは回収してないってよ……」

回収してない?私は確かに取られた筈なのに……

「それで、ICレコーダーのバックアップとかないのか?前の会話で重要な分を別に保存したりとか……」

焦るように立花警部は私に聞く……まあ……データーの保存はちゃんと定期的にしている……

「家に戻れたら、そのデーターを出すことは出来ますけど……私は出れますか?」

「いや……残念だがそれは出来ない……まだ……お前には取り調べがあってな……俺で良ければ取りに行くが……」私は少し考えた……信用していいのか?いままで後手に回っている分だけ、出来る限り早く行動を起こさなければ……

「ええ……お願いします……パソコンの隣にある外付けのディスクに保存してありますので……」

それを聞くと、立花警部は親指を立てて、任しとけと言って出て行ったが……その顔には焦りしかなかった……

それから、立花警部から連絡があった、私の面会に二人が来ると言っていたが……いつまで経っても来ず……看守から呼び出しが、不安になっていたが、無事に来れたと思い、二人を安心させる為に……なるべく笑顔でいようと、ドアを開けると……頭に包帯を巻いた立花警部が居た……

「あれ?どうしたんです?二人は?」

私はほかに誰かいないのか見るが……隠れている様子もなく……

立花警部は下を向いていて……その表情はわからない……

「すまん」初めにそう言いだしたのは……立花警部だった……

その手には壊れたICレコーダーが……

「俺が家に着いた時……座り込んでいた凪ちゃんたちが居て……お前の部屋の場所を聞いていたらいたら……背後から……殴られて……気がついたら……家は荒らされていて……これが……俺の手に……」

それって……

そして……立花警部が地面に土下座を……

「すまねぇ……俺が傍に居ながら……二人を……二人をさらわれちまった……」

それを聞いた瞬間……私が抑えようとしていた何かが弾けた……

面接室の仕切りの硝子をドンと力任せに叩く……

「それって……それって……二人は……二人はどこに居るんです!探してください!

二人に何かあったら……何かあったら……」私は……頭をぶつけた……何度も打ちつけるように……

視界が赤く染まる……意識が乱れる……誰かが私の肩を掴む……私はその手を振り払い……動きを止めた……

「すいません……取り乱して……それで……何かわかったんですか?」

いま私が取り乱したら、助けられるものも助けられない……

いまにも狂いそうな気持ちを抑え……私は……警部に聞いた

「わからない……だが……いまのこの状況を考えれば……犯人は1人しかいないだろう……」

そう考えると確かに……岩倉しか思いつかなかった……

だが……此処に居たままでは……なにも出来ない……なんとか此処を出る術を……

「私はここから出れないのですか?」

だが、ダメモトで警部に聞くと……警部は神妙な顔をして……首を横に振りながら

「駄目に決まっているだろう……おい!こいつが逃げないように、監視を手配するぞ」

そう言って部屋から出て行った。その眼に何か悟ってくれという予感を感じさせながら……

それから、留置所に戻され……少し経って……制服を着て変装した立花警部が……やって来た……


そして……私の牢屋のカギを開けると……監視の俺から逃げなかったら、外に居ても大丈夫だ……そう言って、私を連れ出した。



「それで、岩倉の居場所について何か心当たりはあるのか?」私がそう聞くと……周囲を警戒している警部は、ああ……と軽く返事をして……私の先を歩く……

そして、人通りの少ない道に着くと

「一応出る前に、ある程度は調べた……それと……ほら、携帯だ……メールは見てないから、さっさと、連絡したければするんだ」

私は携帯を調べる……なにか変な物は付いていないようだな……

新着を調べるとメールが何通か入って着ていた……

皇帝からのメールと編集者からのメールだ……


皇帝のメール内容は……どうやら一足違いだった内容だった……

二人の親権は父親に移っている事……ハガキが来ても独りで行くな、警察を信用するなと言う事だ。とことん手遅れだった……

もう一通は……情報を仕入れたから、添付していると簡略に書かれていた。

「なるほど……そう言う事か……」私はそう呟いた

「何かわかったか?」

警部の質問に私ははいと答えて説明した……。

「鷹羽家……つまり、私の実家は……もともと狙われていたんですよ」

頬に傷のある人たちに……

「あの土地は鷹羽根家が所有する唯一の財産と言える土地である、地脈も悪いとは言えない」

だが、それくらいなら……別に誰も狙いはしない……だが……一つの噂があった……

鷹羽家の財宝の噂だ……鷹羽家は古くからあの土地に住んでいたが、この土地に前は、京で位の高い立場に居た。

だが、国を裏切り追われることとなり、その際に、たくさんの宝を持って逃げあの土地に移り住んだと……

「つまり……あれか?お前の家は、そんな真実かもわからないくだらない事に奪われたっていうのか!」根も葉もない噂に踊らされた哀れな話を聞いたように警部は答えたが……私には……この噂には真実が含まれていた為に……すべてを否定できなかった……

国から追われた……それは事実だ……その際に、なにか奪っていてもおかしくは無い…………

「そんな理由で私の実家は襲われてますが……それが真実じゃなくても……あの土地は別の価値があります」

警部が私を見る……

「あの土地……温泉が通ってます」

正確には、地下だが天然の温泉がある……そこは当主見習いの修行場で使われていて、昔……両親が存命の頃、私も入った事がある……あの湯を浴びれば……どんな疲れもたちどころに癒される気がした……

「温泉か……確かに……温泉があれば……何かしらと良いかもしれない」理由はどうであれ、奪われた実家はどうでもいい……

「それで、私が狙われる理由はもっと信じられませんよ」

私は一呼吸置く……

「弁護士……前田孝雄は……自意識過剰の大馬鹿野郎です。自分の名刺を雑に扱われたことに腹を立て、私に嫌がらせを始めたようです」

あの男は、いままでも、同じように自分の扱いを下に見てきたものに嫌がらせをしてきた。

今回もそれでだ……金を賭けてでも……相手を不幸に陥れる……蛇のような男だ。

そして、その蛇な様な男はヤクザ達の弁護を金さえ払えば汚い手を使ってでも黒を白と言わせ、白を黒と言わせ続けてきた……

今回の方法は専門弁護士という立場を利用し、鷹羽家をヤクザに売り捌いた……

「金銭面で困っていた岩倉を誑かし、二人を引き取らさせて……そのあとに、あの二人を買う算段だろうか……」立花警部がそう呟いた……

つまり……もし居るとしたら……二人の居場所は……岩倉の家じゃない!

「警部……近くに前田の家、もしくは、前田に弁護してもらっているヤクザの施設は?」

「ちょっと待て……手帳に、候補は書いている……部下の連絡では……今日、出入りが密かにあった場所は……港の倉庫だ!」そう言って走り出した警部に……私はついて行った……


***

「あの~朱鷺さんが……此処に居ると聞いたんですが……」慣れない街を歩き、やっと警察署を見つけた。

「だから……あの道を……右に……行けば……」

凪が歩き疲れたと言いながら、座り込むのを、止めながら……

「立花さんに地図を描いてもらった地図ではあの道だったんだから……凪ちゃんも地図は見たでしょ?」

凪が玄関で急に倒れたので、看病をしていたら、息を荒げた立花さんが家にやって来て、朱鷺さんが警察に捕まったと話を聞かされた……その瞬間、凪が眼を開け……朱鷺が捕まったと気が動転したが、立花さんがパンッと両手を叩いた音で……私たちは落ち着いた……

それから……すぐに警察署までの地図を描いてもらった……一緒に行かないのかと聞いたら……朱鷺から持ってくるように頼まれたものがある、その後に向かうと言われ、私はこの地図を頼りに行動をした。

「でも……看板は……違う方向」確かに看板は違う方向だったが……

「警察署と言っても、いろいろあるから、きっと間違えたのよ!」私は凪にそう言い聞かせると共に自分を納得させる……早く……朱鷺さんに会いたい……朱鷺さんに会って……無事な姿を見たい……誤解が解ければ、すぐに出られるよと……笑っている朱鷺さんに会いたい……そう思うと、足が自然と速くなる。

受付の人に私の思いが通じたのが、受付の人が走って戻って来ると……私は……自分の耳を疑った……

「鷹羽朱鷺さんは、立花警部と脱走しました!何か心当たりは無いですか!」

受付の人が凄い剣幕で私を見る……

見ないで……

「ほんの些細な情報で良いんです……なにか……」肩を掴まれる……

触らないで……

受付の人の息が荒い……

気持ち悪い……汗ばむ……臭い……

見るな……そんな目で……私を見ないで……私の意識は……遠ざかる……


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る