第三章 3.誰かの言葉

楽しい

久しぶりにそんな感情を思い出していた

大切な人を失い……もう、二度とこんな気持ちになるとは思ってはいなかった

もうこんな気持ちになるものかと思っていた。

それなのに……大切な人が困っているときにも、何も出来ず……

最後まで信じていたのに……助けてくれなかった相手に……

心を揺れ動かされていた……

誰も味方はいない

誰も信用できない

それなのに……助けてくれなかった相手だったのに……

私は信用してしまった……

頼ってしまった……

あの人は……母の言っていたような……優しい人だった……

私たちを引き取ってくれて……母のことを助けきれなかった自分を悔やんでいた……

まだ、ほんの少ししか一緒にいなかったけど……

私は、その人を受け入れてしまった。


本当の家族のように……受け入れることが出来る

受け入れてくれるのでは、ないのかと……信用してしまった……


でも……もし……そうなったら……彼は……自分の夢を……捨てる事になるかもしれない……

大切な人と同じ様に……失うかもしれない……

そう考えてしまうのに……私は……このぬるま湯の様な関係に……居たいと願ってしまった……

いつかは、崩壊してしまうこの関係に……



***


「すいません……誘拐だと勘違いして……」

通報した女性に謝られながら、私はデパートを後にした。

まさか……デパートに遊びに行っただけで……こんな目に会うなんて……

私は時計を見て……顔をしかめた

二時半……約束の時間まで三十分も無いし……持っていくお菓子も……

「どうしたんです、朱鷺さん?」動揺が顔に出て、それを楓さんが心配した。

「いや……ちょっと、知り合いに会いに行くんですけど……手土産を……」

ふと、先程のクレープ……おやつ時の物としては良い……

「どうしたんです?」

「手土産にさっきのクレープ屋で、買って行こうと思ったんですよ~」

私はとっさにそう答えた。


「確かに、あそこのクレープは美味しかったですね」

楓さんは、手を顔の前でパンッと叩くと微笑んだ


「……楓は食いしん坊……」

そんな楓さんを見て、凪ちゃんはそうつぶやく

「なんで食いしん坊になるの!」

「お土産で……買うのに……また食べられると……考えてた」

ああ……また二人して喧嘩を始める……そう考えた私は……


「はいはい、時間がないから、喧嘩はなし!」

そう言って二人をなだめた。


そもそも、二人の為の用事を二人が潰したら、元も子もないのだ。

それなのに……

「喧嘩って……私のせいじゃありません!凪が私に……」

楓さんが……

「ぼくだって……喧嘩したいんじゃない……事実を述べた……だけ……」

凪ちゃんが……

自分は悪くないと言い争いを始め……彼女たちを預ける時間を無くしてしまった……







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