第三章 2.トラブル 2

「朱鷺さん、顔の怪我は大丈夫ですか?」私は、濡れた布で頬を楓さんに押さえて貰いながら、そう尋ねられた。

「大丈夫です~痛っ……」大丈夫だと言おうとしたら、少し強く頬を触られて、顔をしかめてしまった


「嘘つき……痛いじゃないですか……」今にも泣きそうな顔で、楓さんはそう言った

「まあ、この怪我のおかげで、警察の方からも、疑われることも無く、あの学生だけを連れて行ってもらえたのですから……」



まあ、その為に、初めの一撃だけは、ちゃんと喰らったのですけどね~それ以外の攻撃は全部受け流したり、防いだりした。



「それでも……朱鷺さんに……万が一のことがあったら……」そう楓さんが言いかけたとき……

「朱鷺……怪我……駄目……」

今の今まで気にしないようにしていた、後ろから私を抱きしめていた凪ちゃんが、

そう言いながら、私の背中に顔を擦りつけてきた……

「心配をかけないようにすると……考えていたんですけどね~」

私はそう言い、二人の頭に手を乗せ……

「大丈夫!!私は強いですから!!絶対二人を危険な目に合わせませんから!!安心してください!」

そして、二人の頭を撫でた。

「卑怯です……そんな言い方されたら……怒れないじゃないですか……」

「厄介ごとは……ぼくたちが……呼ぶから……怒れない……」

私はその返答に苦笑いをし……

「二人の為に……何か出来る事に……私は、力を惜しみませんよ」

私は二人の頭から手を離した。



そして、私は二人の服装を見て、自分の服装を見た。

「どうしたんです?」私の動作を見て、楓さんは自分の服を確認する。

「いや~和服を着た方が二人に合うかな~と考えていたんですけど……」

私は周囲を見て……

「周囲から浮いてしまいましたね~」私は頬を少し掻いた

「でも……私服……和服以外……」借金か……


「服を買いに行きましょうか~」私は、微笑んだ

「えっ!?でも……和服はありますし……」やはり、まだ他人行儀だ……だが、いつか甘えられるように、今は私が手を貸そう


「良いんですよ~もともと、服を買いに来る予定でしたから~その……流石に……和服だと洗濯が面倒で……クリーニング代もバカになりませんから……」

私がそう言うと、楓さんは顔を赤くして、頷いた

「じゃあ……よろしくお願いします……いつかバイトをして……お返ししますから……」

まあ、今はこの時点で妥協しか出来ないだろうと思うだろうが……私が保護者なのだ、妥協は無い!!

「これは、お礼なんですよ」私はそう呟いた

「お礼?」私の呟きに楓さんは反応する

「ええ、私たちが出会うことの出来たお礼です」

そう言って、楓さんの手を握る

「悲しい事があった、辛くて苦しいことがあった……何度も挫折しかけた……その末で、出会うことが出来たお礼です」

私がそう言うと、楓さんは、呆然としていた

「あれ?セリフ滑った?」

私がそう呟くと、彼女は、正気に戻り

「あっ、ありがとうございます……ちょっと感動しちゃって……」

私はその言葉に少し疑問を感じたが、まあ、気にしないようにした。

「じゃあ、服を探しましょうか~と言っても、私に服のセンスは無いので……」

「そのまま見とくのは駄目ですよ」

「朱鷺……作家……目指すなら……センスを磨く」

私の目論みは二人の言葉で打ち砕かれた……女性の服売り場を歩き回るのは、男として恥ずかしかった……

何より、恥ずかしかったのは……

「朱鷺……ちょっと……来て……」春の流行の服とか見せられて、疲れた私を、凪ちゃんが引っ張ってどこかに行こうとする……

もし、このとき、服を着替えている楓さんがいたなら、どこに行くか聞いて、止めてくれただろうに……

その場所とは……


「朱鷺……この服……似合うかな……」

「凪ちゃん……下着ショップに連れ込むには……間違いじゃないのですか?」

そうなのだ……凪ちゃんは、私を……下着売り場に連れ込まれたのだ……

周りの目がキツイ……

「朱鷺……この黒いの……可愛い?」

歳に合わない様な下着を見せてくる……

「年頃の女の子なんだし……羞恥心を……」

「なら……普通の服……朱鷺が選んで……」凪ちゃんは下着を元の場所に戻し、私を見る

「服なら……店員さんが……」今まで見てきた服も、全部店員さんがお勧めしてくれる服だ

「それじゃ……嫌……朱鷺が選ばなきゃ……」

「でも……私にセンスなんて……」

「それでもいい……朱鷺が……選ぶから……嬉しい……」

凪ちゃんは、少し眼に涙が出てきていた

「……わかりました……その代わり、変でも文句言わないでくださいね!」

私は、涙に負けて、そう言うと、

凪ちゃんは、私に飛びついてきた

「なっ……凪ちゃん!?」

「朱鷺~トキトキ~」

凪ちゃんは、顔をこすり付けるように喜ぶ

なんだか、私も嬉しく思える……

親代わりとして、ここは抱きしめるべきかと、

手を動かそうとしたとき……

「朱鷺さん……凪……随分と仲がよろしいいわね……」

背後から来た声に、私の手が止まった……



「かっ……楓さん……」

「私が着替え終わって、朱鷺さんに意見を聞こうと思ったのに……二人ともいないなんて……

それで、一生懸命、探したら……こんな下着売り場で抱き合っているし……」

ああ……どうしよう……このままじゃ……

「楓……」

「なによ!!」

「朱鷺が……服を選んで……くれる」

その発言に……楓さんの動作が止まった

「え?朱鷺さん!!本当ですか!!」

そして、楓さんは、私の顔を掴み、無理やり、自分の方に向けられ……

「ホントウデス」

これからが、地獄だった……

次々と見せられる服……

片方を褒めればもう片方が機嫌を損ね……

対抗するように、派手な服を着ていく二人……

「朱鷺さん!!これはどうです!!」

胸元がよく見え目のやり場に困るような服で楓さんが私に感想を訪ねてくる……

周囲の目が……白い目が……痛い……

「朱鷺……この服……似合う?」

凪ちゃんが……紺色の……学校指定の……って!!

「凪ちゃん!!それ服じゃなくって……スクール水着!!」

しかも、なんで胸元には“なぎぃ”って刺繍が……

「当店の自慢のサービスです」

いつの間にか横に居た店員が、私にそう笑いかけた……

「凪!!なんて姿をしているんです!!洋服を買いに着たんですよ!!」

楓さんがそう怒鳴ると、凪ちゃんは機嫌を損ね……

「楓……そんな服……露出狂?」

「なっ……そっ……そんなんじゃありません!!」

売り言葉に買い言葉……

私には苦笑いしか出来ない……いや、笑うことすら疲れる……

ふと、悪寒が走り周囲を見る……


人ゴミの中からこちらを見ている一人が……携帯で……


「警察ですか?いま〇〇デパートの3Fの洋服店で……」

通報された……



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る