#30 激戦の収束

「…なんだか、根から悪い子じゃなかった気がする」

「先に手を出してきたのはあっちの方だ。…俺たちは悪くない」


ヘインはそう言っているが、表情は暗く、少し思い詰めているのは明確だった


「ヘイン、さっきのこともあるんだから、今は無理しないでいいんだよ?」

「無理はしていない…ただ、あの子供は悪人ではなかった。少し、後悔はしているかもしれないな」


実際、最後に言った言葉が“死なないように頑張って”だ。私たちのことを恨んでただけで、本当に根からの悪人ってわけではなかったはずだ


「…ソルのところに行こう。多分、あっちも終わってるから」

「ああ、そうだな。」


そして私たちは、ソルグロスがいる方向へと歩を進めた


「終わったね」

「…ああ、そうだな。小さな騒動だったが、こうやって無事に終わってよかったと思う」


まぁ私たちは少なくとも無事ではないけど…最後の攻撃で重傷を負ったし…でも、致命傷以外はかすり傷…みたいな感じになるのって、異形も意外と悪いことばかりじゃないみたい


「…メディさん、心配してるかな」

「俺はメディのこと振り切ってここまできたんだからな…多分帰ったら説教地獄だ」

「あはは、簡単に想像できるね」


ヘインがメディさんに説教されている。そんな風景はいつもの雰囲気から、容易に想像することができ、1人で勝手にほっこりしていた


「…レツハの集落も、襲撃にあってボロボロだ。…賭けに出ようと思う」

「賭け?何するつもりなの?」

「…あいつの勧誘をのむ。安全な場所なはずだ。…今の俺たちの状況じゃ、断るなんてことはできない」


確かにそうだ。私たちはもう、この短期間で二つの集落を無くしてしまった。だからこそ、安全に生活できる場所が欲しい。


「…わかった。私も賛成。あとは2人の意見を聞くだけだね」

「あぁ、ありがとう」


そうやって話しながら進んでいると、ソルグロスの姿が見えてきた


「ソルー!だいじょーぶー!?」

「ああ、終わったんやな。そっちも」

「うん。なんとか…って、わあああああ!?」

「何にそんなビビって…ああ、そういうこと。」


ソルグロスの前には、頭のない、とてつもなくグロテスクな遺体が転がっていた


「すまへんな。ワイ、確実に息の根止めとかんと気が済まん性格なんや。許してな」


ソルグロスはカラカラと笑い、いつもの雰囲気で私たちに接してきている


「まぁ、無事でよかったわ。ささっと帰って、お嬢ちゃんたちに報告せんとな」

「そ、そうだね」


あまりにもグロテスクだったがために、私は少し吐き気を覚えていた


「ヘイン…ちょっと肩かして…」

「別にいいが…どうし…ああ、なるほどな。まぁ、無理もないか」


そう言って私はヘインから支えられながら、メディさんたちが避難した方へと歩を進めるのだった

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「あの…メディ先輩?そんなにソワソワしなくても…」

「いやわかってるんですけど…心配で…」


私はメディ先輩と共に、臨時的な避難所に来ていた。


「あの2人ならきっと大丈夫っすから。そんなにならなくても…」


先ほどからメディ先輩は、ヘイン先輩とメイプル先輩が帰ってくるのを心配しながらそわそわしている


「!足音…!」

「え?足音?聞こえるんすか?」


全然聞こえないんだが。もしかしてメディ先輩、やばいくらい耳がいいのでは?


「鉄の音も聞こえる…!クレアちゃん、人間が来てるかも…!」

「静かにしてればバレないっすよ!ここは安全っす!」


そして外から人間の声が聞こえた。会話の内容まではわからなかったのだが、どうやら異形を見つけ次第始末しろ、という感じの内容だった


「慎重に行くっすよ…バレないように、息を殺して…」


そして私が忍足で進もうとした瞬間ポキっと、小枝が折れる音がした


「まずっ!?」

「そこか!全員、その場にいるものを追え!」

「メディ先輩!逃げるっすよ!」


失敗した。ここから離れようとしたのが間違いだった。遠くからの大きい音が鳴り止むのは聞こえたから、おそらく戦いは終わったのだろう。帰りを待てばよかった。


(後悔先に立たずっすね!とりあえず生き延びることだけ考えないと…!)

「うくっ…!」

「メディ先輩!?大丈夫っすか!?」


そうだ。メディ先輩はさっきも襲われて、それで怪我を負ってるんだった。そこを把握できていなかったウチは、自分に対して何してんだ!と思い、メディさんを担ごうとしたのだが


「私のことはいいです…!クレアちゃんだけでも…」!

「何言ってるっすか!2人で生きるんすよ!さっきも言ったはずっす!先輩が死んだら悲しむ人いっぱいいるんすから!」

「でもわたしに構ってたらクレアちゃんが逃げられないですよ!それだけはダメなんです!」


こうしている間にも、人間は近づいてくる。その度に、ウチの焦りは増していった


「手貸してください!担いで逃げるっす!」

「そんなことしたら遅れちゃいますよ!どうか本当に…!」


気づけば既に、そこまで人間が来ていた


「異形の感動物語というやつか?どちらも仲間思いでとても感動的だな」

「…!いつのまに!」


人間は声を高らかにして笑い、とても愉快そうにしていた


「ははは!お前たちがそこで色々やってる間に来たに決まっているであろう?非常に感動的だったが、見逃す道理もない。ここで始末してやる」


そして死を覚悟した瞬間に


「それはいただけなぇな!爆ぜろ!」

「何者!?」


そして爆発ともに、そこに現れたのは


「あっぶねぇ!なんとか間に合った!大丈夫か2人とも!」


レツハ先輩だった


「なんでレツハさんがここに…!」

「なんでって、俺自身にかけられてた能力か魔法だか何だか知らねぇけどそんな感じのモンが消えたみたいでな!メディさんの姿が見えたから静かについて行ってたんだよ。だからここにいる!

!」

「いやそういう意味じゃなくて!レツハさんソルグロスさんとの話はどうなったんですか!?」

「話ってなんのことだ?俺さっきまで人間の子供に囚われてたんだけど…」


メディ先輩は顔を青ざめる。一体何があったのだろうか


「まぁ、あいつらのことは心配しなくていいと思うぞ。俺よりもはるかにつええし、なによりソルがついてるからな」


メディ先輩は少し安心したようで、先ほどよりも顔色は良くなっていた


「ぬぅっ!」

「うおっと!」


爆発した時に発生した煙の中から、突然人間が切り掛かってきて、レツハ先輩のことを切り付けた


「忌み者どもめが!俺がお前たちを全員殺して、感動的な最後を飾ってやる!」

「クレア、メディさんを連れて逃げてくれ、あてならあるし、この先に行けば心強い奴らがいるはずだ」

「わかったっす!」


そうしてうちは、メディ先輩を連れて、レツハさんが行けと言った方角へ逃げるのだった

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「もう激戦は終わったんだ。お前が出る幕じゃねぇ」

「やかましいわ!帝国剣術二式“断鉄”!」


帝国兵士が放ったその一撃は、レツハの体を斬る。


「そんなんじゃ俺は殺せねえよ!『爆壊エクスブレイク』!」


その爆発は兵士を襲うが、それを兵士はもろともしていなかった


「マジかよ」

「帝国剣術五式“跋扈”!」


そして連続切りはレツハの体を襲った


「ははは!この血飛沫!感動的だな!」

「さっきから感動的だ感動的だってウルセェんだよ…じゃあ俺ァお前で感動的な芸術作品を作ってやるよ」


兵士は不満そうな顔をし、レツハの方を見てこう言い放つ


「これだから男は嫌いなのだ。女の方が、もう少し感動的な声を出してくれるというのに」

「じゃあ俺に聞かせてくれよ。その感動的な悲鳴ってやつを」

「ならば女子供を連れてくるのだな。そうすれば聞かせてやらんこともない」


レツハはその言葉を鼻で笑い何言ってんだ。と言い


「鳴くのはお前だ。クズ野郎。」

「何を言って…む?なにか…熱い…?」


兵士はここにきて自身に起きている異変に気づく。服の方がさきほどから妙に暖かいのだ。そしてそれは、無視できないほどにまで上がっており


「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!なぜ火がついているというのだぁぁぁ!!」

「いい声で鳴くねぇ。これがお前が言う感動的ってやつなのか?」


兵士は理解できていなかった。なぜ自身が燃えているかを、当然、あたりには燃える起因のようなものは存在していない


「理解できてねぇって感じだな。俺の異形は自身の血液を可燃性、爆発性を持つものに変えれんだよ。お前さっき散々俺の事切り散らかしたろ?そん時の返り血が今発火してるわけだ。分かったか?ま、もう聞こえちゃいねぇだろうが。」


兵士の肉体は既に焼け焦げ、誰かも判別できないほどになっていた。当然、そこにもう生気はない


「さて、ひと段落したことだし、メディさんの方へ向かうとするか」


そうしてレツハは、メディが向かった方向へ歩を進めた。こうして、各地で起こった小さな激戦は、終息を迎えたのであった

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