#28 愚者の結末

「界域顕現。天界『龍吟霊峰』。」


反撃が始まろうとしていたあちら側で、こちらも一種の反撃…いや、蹂躙が始まろうとしていた


「何なんだこの界域顕現…!龍がいるだと!?生物系なのか!?」

「生物系…間違いやな。これはまごうことなき空間系や。森の中なのに暴風が吹き荒れ、天は曇天やろ?こんな形でも分類は天界なんや。その証拠に、ワイの後ろに、社があるやろ?」

「この力で…情報が一切ないだと…!?」


ゼオは、焦っていた。目の前の人物は、絶対に無視できない存在へと成り果てたのだから。


「ほら、あんたもそんな焦ってないで、隠し取る力ささっと解放したらどうや?後悔して死にたくはないやろ?」

「貴様…己の命が惜しくないのか…!」

「言ったやろ?それとも忘れたんか?アンタが持っている力の全てを確実に潰して、微かに抱いとるその希望も絶望にしたるって」


ソルグロスは、本気でやる気だった。その言葉に対して、ゼオは激昂する


「後悔することになるぞ…!」

「それもまた一興やな。後悔させれるもんならさせてみいや?」

「貴様には…神罰が必要だ…!」


その一言を放った途端、ゼオは詠唱を始めた


「大地に降りし大いなる国士の主宰者よ!その身に宿りし大地の力で、邪なるものを滅さんとす!"降神“!」


その詠唱が終わり、そして、莫大な力の波動をソルグロスは感じ取った。そしてソルグロスは、とんでもなく、今までになく気分が高揚していた


「やればできるやんけ!それがあんたの奥の手か!」


まった砂塵が晴れ、中から姿を現したゼオは、見た目が激変し、直刀を拵え、神々しく、神のような風貌に変化していた


「“神解”『大国主命』」

「随分と仰々しい形やな…それがアンタの本気か?」

「先程までと同じと舐めていると───」


ソルグロスが反応する間もなく、亜音速にも至ろうかという速度でゼオは迫っていた


「痛い目を見るぞ」

「!!」


ソルグロスは間一髪で避けることができたが、ゼオの方を見ると、直刀の薙ぎ払いで、木々が全て切り伏せられていた。


「規格外な力やな。なんなんや一体」

「"生大刀いくたち"。今のは本当にただの一振りだ。闘気も魔力も使っていない。ただの膂力…これが"十天守護者オクトヘヴンス"が持つ奥の手。"降神解"だ。」

「ただの一振り…マージで規格外な力やな…危険や」


ソルグロスは危機感を覚えた。勝率で言えば五分五分といったところだろうが、もし己が負けてメイプルたちの方へ向かった場合、最悪のパターンが起こってしまう。そして、この者を前に長期戦は周囲の環境に影響を及ぼしてしまう。それに対しての危機感だ。


「…本気でいくしかなさそうや。手加減して勝てる相手やないしな。膂力も速度も今までと段違いやし、正直楽しめそうや。」

「この力を見せつけられてまだそんな惚けたことが言えるとは…貴様の愚かさに呆れてしまうな」

「言ってろ。アンタもこの戦い、楽しむとしようや」


ソルグロスは、気分が高揚していた。久々に命の取り合いで、ここまで全力を出してもいいような相手が来たためだ。


「『滅閃・裂壊斬』」

「うぉっ!?」


その一振は、大地を割り、木々を消し飛ばす。驚異的な威力で、ソルグロスもその事に驚愕していた


「縦振りでこの威力…短期決戦で行くしかなさそうやな」

「短期決戦でいけるとでも思っているのか!」

「少なくとも思ってないとこういうことは言えへんやろ。屠龍武術”屠龍正拳突き“」

「『地起剛壁』!───なっ!?」


ソルグロスの正拳突きは、”神解”して強化されたゼオの技をいともたやすく砕いた


「言ったやろ。全力で行くって。屠龍武術“邪龍滅脚”」

「ぐっ…!?」


ゼオの防御も虚しく、界域内の木々を薙ぎ倒して深みへと進んでゆく


(まずいな…界域の効果をもろに喰らいながらの戦闘…神解を使っているとはいえ、これ以上の戦闘は───いや、無駄だな。この力を使った時点で、俺に残された択は死か生か…膨大過ぎる力をまだ扱えてはいない。…本当に不味いことになった)


ゼオは、ここまでのことを想定していなかった。いまはイレギュラーに対応しているのだが、このイレギュラーが想像以上に強い。だからこそゼオは全ての力を尽くして勝とうとしているのだが、それも難しそうなことは、ゼオも理解していた


「奴が強すぎるな…ここで死を覚悟するしかないか…己の正義のために、やつはここで滅ぼさなければならない。たとえ己の命を賭してでも、やつはここで屠る!」

「大層な思想やな?できるもんならやってみいや。どうせ無理やろうけど。今のでわかったわ。アンタその力抑えきれてないやろ。まあそりゃそうやな。そんなでかすぎる力、扱える方が凄いわ」


ゼオは”神解”によって得た力を御せる力を持っていない。ゼオは、その身にあまりある神の力を宿し、それを持て余しているのだ。


「冷静な状況説明だな…だが、扱えきれていないかどうかは、まだ分からないだろう?」

「ならもうちっと検証してみよか?多分扱えきれてないんやろうけど、アンタがその気ならその猿芝居にとことん付き合ってやるで」

「抜かせ!『神閃・生大刀』!」

「屠龍武術“龍咬”」


ゼオの渾身の一振を、ソルグロスは少し後ずさりしたが、両手で刀身を持ち、止めていた。


「馬鹿な…!膂力はこちらの方が上のはず…!違う!いくら上でも、神器”生大刀”の一撃を素手で受け止めるなんて、人外の域だろう…!」

「舐めんな。そもそもワイらは人の形保っとるだけの人外や。何当たり前のこと言っとんねんアホ。」


ソルグロスは剣を受け止めながらゼオと話す。


「異形だろうが神器の一撃を受け止める奴がどこに───!」

「ここにおるやろ、がいっ!」

「くっ!」


ゼオはまたも吹き飛ばされ、社の場所まで吹き飛ばされた。ソルグロスも一瞬のうちに追いつき、ゼオと会話を始めた


「この界域の効果説明してなかったなぁ、この界域内じゃあ暴風によるこの鎌鼬によって切り傷を作り出す効果と、あと2つメイン効果があるんや───まぁ、実践して見せた方が早いかもな」


ソルグロスの界域効果は『相手への持続ダメージ』、そして『龍攘虎博』。効果は、相手と自身の”力“、”魔力“を同等に分けるというもの。超過分の力は“龍神社”に吸収され、保管される。そして最後『竜吟虎嘯』。互いの闘気の流れを把握でき、行動を先読みができるようになる。だがこれは平静でなければ発動することができない。


「さっきその“神剣”の一撃を止めることができたんも、この界域内での効果だからってだけの話や。単純な話、アンタの力とワイの力、今同等っちゅうことや。理解できたか?」


ゼオは恐怖した。ゼオは己を絶対的強者だと自負していた。本当に自分よりも強い奴などいない。本気でそう思っていたがために、自身を超える実力の壁に目を背けていた。だがこうやって今、その事実を叩きつけられている。


「反撃してきたらどうや?さっき言った通り、あんたとワイの実力は今は互角、勝算がないわけではないやろ?もっとその気概、見せて欲しいなぁ」

「舐めるなァァ!『滅閃・裂壊斬』!」


ゼオは恐怖を振り切り、決死の技を放つがそれも簡単に避けられてしまう


「ほんっとに危ないなぁそのパワー。流石のワイも当たったらひとたまりもないで」

「帝国剣術一式”飛燕“!」

「ただの返斬りやんけ。屠龍武術”龍咬“」

「『滅閃・裂壊斬』!」


近距離での技がぶつかり合い、その場のとんでもない衝撃波が生じる、ソルグロスは受け身を取り、ゼオはバックステップでその場をひいた。が、ゼオはその場で血反吐を吐いた


「技術は均等にはならんのやで?均等なるんはあくまで“力”と“魔力”や。その証拠にほら、あんたしかダメージ負うてないやろ?」

「ぐ…クソ!なんで勝てない!?なんでお前はそこまで強いんだ!?」


ソルグロスは呆れた表情をしながら、ゼオに言い放つ


「なんでって、実践経験とかの差やろ。アンタはその強大すぎる力を扱えきれていない。技術の差ってやつやな。言ったやろ。ワイがアンタで言う絶対的強者ってやつや」

「認めるか…認めるかあああ!!」

「醜いなぁ。守護者がどんな顔してんねん。アンタは終わりや。そろそろ、楽にしたるからな」


ゼオは恐怖で顔が引き攣った。己の死が着実と近づいていっているから。もう、覚悟するしか無かった


「やめろ…!やめてくれ…!」


その姿にはすでに、当時の余裕のもった表情や勇ましい面影はなく、今はただ死に恐れ慄く1人の人間にしか見えなかった。そしてソルグロスはゼオの頭を強化された異形の腕で鷲掴みし言い放つ


「アンタらが今まで殺してきた異形の分、しっかり悔いて後悔に溺れながら死ねな。サヨナラや。」


グシャッと、生々しい頭蓋が割れ砕かれるような音が鳴り、ゼオは地に伏せたのだった


「ここで眠れ。勇敢に闘った哀れで、自身の強さに溺れた愚者よ。」


その一言で、大地に元の静けさが戻ってきたのだった

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