#27 道化たちの反撃

私たちは今、“道化ピエロ”として、死のサーカスに参加している。一度でもミスれば即死、生き残っても最終的に死ぬか、甚大なダメージを負ってしまう。一度もミスが許されない地獄のサーカスだ。


「はぁ、はぁ…剣は飛んでくるわ炎の輪っかが迫ってくるわ後ろからサイズがおかしい像が追いかけてくるわ…とんでもない地獄のものだったな…」

「多分、まだあるだろうから油断はしないでおこうよ…何が起きてもいいように、常に万全の準備をしなくちゃ」


第五演目『巨像蹴踏』は今までのどの演目よりとんでもなく地獄だった。象から逃げるのはまだいいにしろ、ステージギミックが厄介だった。それで大半の体力が奪われたと言っても過言ではない


「キミたちしつこいよ?いい加減に諦めてくれない?」


先ほどまでの司会者のような余裕さは消え失せ、すでに飽きたようにアグノラはそう言い放つ。


「諦める?ここで死ねって言うメッセージなら、拒否させてもらおう。お前には聞かないといけないことが山ほどあるんだ。お前の力も、レツハの居場所もな!」

「めんどくさいなぁ…まぁでも、その悪運もここで尽きたね。さぁ、第五演目、『死床球乗トートベシュタイング』。床が溶岩に変貌して、落ちたら体も溶けて跡形もなく無くなる…じゃ、頑張ってみてね?」

「頑張ってみてねって…どわあっ!?」


突然、床が浮き上がったと思えば、今まで乗っていた床は球体となり、その下に溶岩の海が形成されていた。


「バランス取るだけなら簡単だ!とか思ってたりしない?…違うよ、バランスを取るだけじゃない、その球は段々滑りが良くなって高速で回転するようになるるんだ。立ってすらいられなくなるかもね?」

「狡いこと…うわぁっ!?」

「危ないな!大丈夫か!?」


コケようとしていたところを、何とかヘインが支えて、私は落ちずに済んだ。


「あ、ありがとう!にしてもどうするのこれ!ほんとに少しずつ滑りが良くなってきてるよ!」

「あーだこーだ言ってても仕方ない!何とか攻略法編み出すぞ!」


そうだ。文句を言っていてもことは何も始まらない。何とか攻略法を考えないと、私たちは死んでしまう。冷静になれば…って、溶岩…?


「…溶岩…?…!マグマって確か…!」


溶岩は確か、粘性が強い液体だったはずだ。温度によって粘性は変わるが、粘性のある液体なのなら、私の支配下に置けてもおかしくはない。この量の液体となると、私自身が飛び込む他は無い、下手すれば即死、だが上手く行けば反撃の狼煙をあげるための重要な一手となる。だが…


(いや、考えるな!今は直感で、やれると思ったことをやれ!成功する確率が1でもあるなら、やった方がいい!)

「一か八か!」

「は!?おい!メイプル!何やってんだ!?」

「死に急いだね。馬鹿で助かったよ」


私は意を決して、溶岩の中に飛び込むのだった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「あんのバカ…!死にたかったのか…!?」


ヘインは酷く困惑していた。無理もない。先程まで戦っていた仲間が、突然無謀にも溶岩の中に飛び込んで行ったのだから。


「キミのお仲間、死んじゃったね?どうする?キミ1人じゃ僕には勝てないだろうし、大人しく死んどく?」

「その疑問にはいそうですねって答える馬鹿がいると思うか!」


だが俺の体力も限界が近い。1人じゃこいつのことを倒せないのも事実だ。おそらくこの界域顕現というものは結界とかではなく全く新しい法則を無理やり空間にねじ込むものだ。だから抜け出すことは不可能だろう。流石に詰みか。


「クソが…打開策が一切思いつかない…!」

「なに当たり前のことを言ってるのさ。界域顕現に打開策なんてないよ。そのまま死ね!…でもほんとにしぶといな…もう少しでそれも終わるんだけど…」


朗報だが、同時に来て欲しくない報告だ。せっかく慣れたのに、それが終わりまた新しい演目が来る。それに2人ではないから負担が段違いだ。


「クッソ…!って、どわぁっ!?」

「…あ、終わった」


突然床で出来た球体が消え、一本橋が出来ていて、既に俺はそこに着地していた。


「え〜…第6演目『熔襲逃走ラヴァーエインフェーレン』。溶岩が後ろから迫ってくる最中、その一本橋を渡るって言う内容だよ。まあ普通に高難易度。生き残れるもんなら生き残ってみなよ。それじゃ、スタート」


アグノラの説明が、さっきよりも明確にめんどくさそうな感じを醸し出していた。だがその適当な説明からでもわかるくらい、とんでもない難易度、と言うよりも、クリアさせる気がないことが感じとれた


「どうやってこんなギリッギリの足場で逃げろって言うんだよ!クソが!」


流石に万事休すか。半ば諦めかけていて、その間に、溶岩は俺に覆いかぶさるようにして襲い掛かってきた

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「終わったね。やっと…はああああああ、しぶとすぎるんだよ!さっさと死ねばよかったのに」


ようやく、忌み者を排除できた。今までのどんな異形より、とんでもしぶといめんどくさい奴らだった


「なーんか無駄に体力使っちゃったな。…さっさとゼオの加勢に行かないと…ん?溶岩がなんか変な挙動してるな…どう言うこと?」


僕は違和感を感じていた。覆いかぶさるように行った溶岩が、下に落ちないのだ。まるで、中が空洞になっているような、そんな感じで


「…気にすることでもないかな。解除して向かうか。」


僕は界域顕現を解除し、ゼオの加勢に行こうとしたのだが…目の前で、信じられないことが起きていた。


「あっれ?なんで溶岩消えないんだ?一応界域顕現でできるものだから、消えるものだと思ってたけれど…は───?」


そして僕の気が緩んで、その瞬間に溶岩がビームのように僕に向かって飛んできて、僕は反応ができていなかった


「がああああああああ!?」

(右腕が焼けた…!なんで溶岩は僕めがけて飛んできたんだ!?)


その溶岩は何者かの手に収束されるように、一点に集まり、そして中から2人の人物が姿を現した


「ふー…賭けだったけど、成功してよかったよ。」

「なん…で、キミは生きてるんだ…!?溶岩の中に身を投げたはずだろ…!?」

「ふふ、なんでだろうね?自分で考えてみたらどうかな?」

「こんの…!性悪女が…!」


まずい。僕の力じゃ界域顕現を2回連続で発動できない。かくなる上は、アレを使うしかなさそうだな。そして僕はもう一度、異形と向き合って、抹殺の決心をしたのだった

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一か八かの思いつき、失敗したらヘインも死ぬ。そんなハイリスクなものを、成功できた。それにその溶岩を利用して、相手にダメージ、そして私は熱に対しては完全な耐性を得ることができた。リスクが大きいゆえに、リターンも非常に大きかった。それに、新たな発見も。


「血迷ったのかと思ったぞ、急に溶岩に飛び込むから…」

「敵を欺くなら味方から、ってよく言うでしょ?まあそれじゃなくても、一か八かだったけどね。」


目前のの敵は腕を押さえながらこちらを睨みつけていた。


「いいよ、片腕くらい。キミたちなんて片手で十分だ。」

「強がりはやめなよ。余裕ないんでしょ?」


十天守護者。屈指の実力者と言われているだけあって、とんでもない実力だ。それに、まだ余力を残していてもおかしくはなかった。


「…強がりなんてしてないよ!キミたち程度なら片手で相手どれるに決まってるさ!かかってきなよ!」

「あいつもそう言ってることだし、やるぞ。卑怯だなんて思わないでくれよ。支配人───道化たちの反撃の開始だ」


そう言って私たちはアグノラへ突っ込むのだった

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