1章 修行と激戦

#11 旅立ち

村への襲撃があって数週間後。ヘインの痛みは完全に引き、万全の状態になっていた。しかし、回復に思ったより時間がかかってしまったことに対して、ヘインはとても不服そうな感じだった。メディさんからは


「内臓まで少し抉り取られてたんですから、治癒に時間がかかるのも仕方ないことですよ」


と言われていた


「だが癪だな。まさか人間如きにここまで深傷を負わされてしまうとは…」

「人間ごときに、って言っていますけど、仕方ないんじゃないですか?」


メディさんの言いたいことはわかる。確かに深傷を負って悔しいのもわかるが、それ以上に、今回は相手が悪すぎた。それに、相手にも消耗させてから撤退させた。そういう戦績を以前ヘインから聞いているため、元々、時間稼ぎだったのだから十分すぎる成果だ。おかげで、こうやって生きられているのだから


「何度も話を聞いた、だが相手が『十天守護者オクトヘヴン』だろうが、人間に負けたのが癪なんだよ」

「負けず嫌いですもんね。特に人間に対しては」


どうやらヘインと人間の間には確執があるようだった


「とにかく、次は絶対に負けない。だが、俺1人じゃやることが限られてくる。だからこの前、お前に戦い方を教えるって提案をしたんだ」

「なるほど…」


まぁあれを提案と呼んでいいかは定かではないけど…だってほぼ強制だったし…だがそれにしても、ヘインは自身の限界を理解しているようだった。何も無謀なわけじゃないことを聞けて安心した


「さて、そろそろここから離れるぞ。支度は整えたか?」

「あれ、もうそんな時間なんですね。」


元々ここには長期間滞在するつもりなんてなかったのだが、ヘインの完全治癒に時間がかかってしまったために、数週間ほど泊まらせてもらっていたりしていた


「これ以上迷惑をかけるわけにもいかんしな。それに、体勢を整えるのは早い方がいい。さぁ、用意が済んだならラルフさんのところに行くぞ。」

「わかりました〜」


私とメディさんはささっと支度をすまして、ヘインの元へ向かったのであった

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「本当にありがとう、ラルフさん」

「いえいえ!以前助けていただいたお礼とでも思ってくだされ!」


思い返してみれば、ここの里に住んでいる人たちはいい人ばかりだった。一文なしなのに止める施設も用意していただいて、とても今世に生きる人間の行動とは思えなかった


「そういえば、村が壊滅したのに、どこに向かうつもりなのですか?」


そうだ。確かに元々あった村は人間たちによって壊滅して、戻って残っていたとしてもとても生活できるような状況ではないだろう。


「ああ、それなら心配ないですよ。私たちの集落は一つではありませんから」


なんと異形が集まっている場所は一つだけではなかったようだった。


「そこに行き、事情を説明してそこで生活するつもりだ。次こっちのこれるのかがいつになるかは分からないが…時間があってこの近くを通ればまた寄るよ。」

「わかりました。手配はしなくて大丈夫そうですね。では、気をつけて行ってらっしゃいませ。」


そして私たちはラルフさんとレオくんに見送られながら、魔法陣の外へと出るのであった

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「さて、向かうぞ」

「はい!」


村を出てからこれからのことについて少し話し合ったのちに、私たちはヘインのいうそのもう一つの集落へと向かっていた。


「そういえば、集落ってもう一つあったんですね」

「そうですよ。言うの、忘れてました♪えへへ♪」

「お前なぁ…」


メディさんがテヘッという顔をし、それをみたヘインが呆れて嘆息をつく。


「少しだけ不自然には感じましたけどね。村がなくなったというのに、2人ともそこまで焦っていなかったんですもん」


そういうとメディさんは驚いた顔をして、


「メイプルちゃん、意外とそう言うとこみてますよね〜」

「いい観察力じゃないか。これから強くなってもらうんだから、その観察力はいろいろ役に立つかもしれないな」


意外だ、と言う感じで言われた。褒められるのは素直に嬉しい


「地獄の日々が待ってるぜ。覚悟しろよ」


ヘインがそう言って意地悪に顔をニヤつかせた


「絶対強さ抜かしてやるんだから…!」

「はっ、頑張れよ。新入りさん?」


ぐぬぬ…少し親睦を深め仲良くなったからだろうか。なんか言葉の一つ一つに棘がある気がして、非常に腹立たしい。


「どーどー、2人とも喧嘩するのはやめてください。それにヘインさん、この前2人で話したとき言いましたからね?もう無茶なことはしないって?」

「守れるかは分からんって言ってるだろ…」

「ね?」

「…はい」


メディさん、強い。あの意地悪棘人間のヘインがここまで言い返せなくなるなんて。さすがとしか言いようが無い


「そしてあんまりメイプルちゃんが怖がるようなことを言ってあげないでください。騒動が収まった後なんですから、楽しく行きましょうよ!」

「…メディの言う通りだな。少しは気抜いて羽休めするのも大事か…」


あのヘインがこんなことを言うなんて…私はそれに対してとても驚いていて、言った本人であるメディさんも驚いていた


「…メイプルはわかるがなんでメディまで驚いてるんだよ」

「まさかそうやって素直に言うなんて思いもしませんでしたから、つい…」


同感だ。前までのヘインなら、もっと厳しいことを言っていたはず。この変わりようは一体なんなのだろうか。


「…自分の強さを改めて見直して、追い詰めすぎてたってことがわかったからな。休みながら、己を強くしていく。それが、最も効率的ってことに気づいたからだよ」


どうやら、この数週間の間に、ヘインなりに自分のことを見つめ直したらしい


「なるほど…だから前まで言わないようなことも言うようになったんだ…」

「ま、そういうこった。さ、そろそろ着くぞ。ここが、第二の集落だ。」


話しながら森の中を進んでいると、どうやらもうすぐで集落に着くそうだった。


「…ようこそ。異形の住む集落へ。ここの統括者に話してくるから、そこでメディとでも話しながら待っといてくれ。」


そう言って、ヘインは村の奥へと進んでいくのであった

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