第42話 終わりは始まり

 FBIというガードマン付きでQホテルの一室を用意され、ゆづりは部屋でひとり食事をとっていた。あまりにも不可解で食事はすすまない。食事前にもデリアに連絡をしたが、マーティン・ホフマンを知らないのだ。

『なにかしらの方法で、そのマーティン・ホフマンの記憶は消されたかもしれないね。ウチの情報にもおかしな穴がいくつかあるから。』

 そして、香川みなみと会ったことを告げると

『そろそろFBIは引退して、私のもう一つの家業も継いでもらいたいもんだよ。血は繋がってないけれど自分の子として育ててきたんだ。今はあんなんでも旦那もいるし、危険な目に遭ったり人を殺ってしまったりしてほしくないもんさ。』

 話を聞いていると、デリアも一人の母なのだと思う。電話を切ってから呟く。

「お母様、か…。」

 いろんな思考が巡り、夕食は冷めてしまった。ゆづりはルームサービスに食事を下げるよう、フロントに連絡をした。


 まだ解決してないことはある。

 マーティンが消えてしまったこと。マーティンを知る者の記憶がなくなったこと。そして、マーティンは…本当は実の父親なのではないか。屋敷が火事になった後はずっと私を支えてくれた唯一の人物だ。あのお父様とは比べ物にならな…い…?


 あれ?


 お父様の記憶が変だ。

 お父様ってどんな顔をしてたっけ?


 いつも怖くて、あまり顔をみようとしなかったからだろうか?口元が…笑っているだけの、ぼやけた顔しか思い出せなかった。


 突然、頭の中で誰かがささやく。

(なぜ、ゆづりはお母さんのように人を殺せないのだろうね?)

 嘘よ…


(そうか、移植した人間なら殺せるわけか。)

 やめて…


『自分の子として育ててきたし…危険な目に遭ったり人を殺ってしまったりしてほしくないもんさ。』

 ふいにデリアとの会話が思い出される。


 はぁ…はぁ…

 息が苦しかった。


【自分の子を危険な目に遭わせたり、殺しをさせる親なんて…いない!】

 

 コンコン、コンコン…

『ルームサービスです。』



 松村は、以前見つけたデータを一之瀬に見せていた。

「神代家の火事で見つかった死体、損傷が激しくて解剖できなかったが、女性だったところから神代ゆづりの母親のマリエだろうと断定した。それと小学生と思われる子供のバラバラの遺体が5~6体。父親の消息は確認できていなかったにもかかわらず、捜査が打ち切られていた。」

「すると、父親は生きていると?」

「可能性ありだな。ただ、当時の周囲の記憶もかなり曖昧で、そもそも男性の出入りはなかった、という証言もある。FBIもこの組織を追っていたが、結局ボス=父親が掴めないままだったらしい。そもそも…戸籍もない。」

「じゃあ、神代ゆづりが言っていたマーティン・ホフマンは?」

「もちろんそんな人物はいなかったし、我々も覚えていない。謎だらけだよ。」

 そこへ電話が鳴った。


『大変です!Qホテルで警備してたFB複数名が殺されました‼』

「なに!神代ゆづりはどうした?」

『それが…消えました‼』


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死曲 ちはや @chi_haya

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