謝罪会見 19

 不可思議な光景を目の当たりにしたあと、屋敷に戻ったこよみ様は死者の正体について族長にあれこれ尋ねました。けれど返ってくる答えはいずれもこよみ様を満足させるものではありませんでした。

 彼の話によれば族門には古来より死者の道を守護するという秘匿された役目が存続し、自分も長としてそれを受け継いでいるに過ぎない。

 そして死者とは何かと問われれば、それは名の通り、現世で死した者であり、おそらくは天界あるいは地獄へと向かう途中の存在であるとしか謂えない。

 彼はいくら問うてもそう答えるに留めるのです。

 ただ思うにそれは彼がそれ以上のことを知らないわけではなく、明かせなかったに過ぎないのだと思います。おそらくはその一切が秘伝であり、一介の行きずりである我々などに知られてはならない。そのような掟があったのでしょう。

 けれどそう考えると自然、新たな矛盾が生じました。

 であればいったいなぜそのような秘事を我々に披瀝したのか。

 首を傾げると彼は途端にその柔らかな笑みををこよみ様に向けました。


「それは貴方がとても強力な聖霊の加護に包まれているからです」

「え、聖霊の加護……」


 そしてまた怪訝な面持ちを体のあちこちに向けるこよみ様に族長は肯きました。


「ええ、とはいえご自分ではお分かりにならないはずです。そしてそのご様子ではこれまで誰かに教えられたこともなかったのでしょう。けれど私には視えます。間違いなく貴方の背後には聖霊守護の証であるハイパーオーヴが燦然と輝いているのです。そしてその光の強さといったらおそらくは……」


 恍惚とした表情でこよみ様を見つめていた族長はそこで言葉を呑み、やがて表情を引き締めたかと思うと、やにわに後退るような格好で平伏しました。

 そしてそれまでとは別人のように慇懃とした調子でこう打ち明けたのです。


「いまや、この世界は風前の燈です。生者が驕り、昂り、霊界との盟約を蔑ろにし続けているせいで冥府の怒りは頂点に達しようとしているのです。早く何か手を打たなければ、容赦無く冥王はその鉄槌をこの世界に振り下ろすでしょう。もはや一刻の猶予もありません。けれどそのような時節に貴方のような聖者が現れたのはきっと憂えた神の差配に違いないのです。鐘古様、おそらく貴方は救世主メシアであらせられます。どうかその尊いお力で世界をお救いください」


 思いも寄らないその懇願にさすがのこよみ様も呆気に取られるしかありませんでした。けれどいつまで経っても床に押し付けた頭を上げようとしない族長についに根負けしたこよみ様が、いったい何をどうすれば良いのかと訊くと族長はようやく顔を上げて、それからまずはある人物に会うようにと恭しく告げました。



「ある人物?」

 

 烏丸氏がその青みがかった切れ長の瞳を背後に流すと七倉氏に肩を借りて歩いていた近藤が恐るおそるといった風にうなずいた。


「ええ、その人こそ現世と死者、そして冥界との繋がりの詳細をこよみ様に諭し賜ったお方です」

「誰、それ。私たちが知ってる人なの、コンティー」


 緋雪氏が尋ねると近藤はまたも深く肯いた。


「ええ、ブロ子様ならきっとよくご存知のはずですよ。なぜならカクヨム界で懇意になされているはずですから」


 いきなり名を挙げられて戸惑ったブロ子さんは自分に指先を向けながら呟く。


「え、カクヨムで私がよく知っている人って……」


「お分かりになりませんか。ではこれではいかがでしょう。その人は流麗な文章を操り、稀に見る秀逸な百合小説の作者としても有名です」


「ゆ、百合……。まさかそれって」


「ええ、そうです。けれど百合小説の奇才作家は世を偲ぶ仮の姿。はたしてその実体は全世界数万人の霊媒師を束ねる秘密結社、通称イタコの大頭目、その名もで在らせられます」



 つづく


 おっひさっしぶりでございまーす!

 いやあ、怠け切ってしまいました。

 いえいえ、これでも文学賞の方もがんばってたんですよ。

 まあ、なんとかそちらも一作書き上げましたからね(イキってんなぁ)


 次は『月』作品もやらんと(まだ、一文字も書けてません)

 

 というわけで、今回ようやく豆ははこさんにご登場いただけました(パチパチパチ)

 まだ名前だけですけどね。

 でもイタコってそういう組織だったのかぁ(笑)


 って、豆ははこさんに怒られないでしょうか。


 次は豆ははこさんの語りといよいよ黒摩天に突入します。


 そういえばしばらく松本さんにご出演いただいてないなあ。

 

 そろそろ烏丸さんと共に暴れてもらいましょうか。


 ではでは

 

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