謝罪会見 15
「さて、お伝えするとはいったものの、どこからにいたしましょうか」
立ち上がった近藤がふらつくと傍にいた七倉氏がとっさに肩を貸した。
すると彼は礼を云ってから、あらためて自分を囲む四人を見渡し、そして何か踏ん切りを付けるようにひとつ小さなため息を吐く。
「では、まずは、そうですね。こよみ様がこの下北半島を買い占めるに至った経緯からお話することにいたしましょう」
そして近藤は語り始めた。
ここは黄泉の一歩手前の街。
言い換えれば死者の国へ通ずる連絡路のようなところです。
と、説明したところでなかなか信じてもらえるものではないことは十分承知しています。
ただ、そう申し上げるしかありません。
ときにイタコと呼ばれる霊媒師が恐山にいることをご存知ですか。
カクヨム界の猛者である皆様のことですから、もちろん知識として持ち合わせていらっしゃることでしょう。
そうです。依頼者の求めに応じて霊魂を呼び出し自らに憑依させる、あれです。
まあ、しかしそんなことが本当にできると信じている人なんかほとんどいないでしょうね。
死者との交信など眉唾、子供騙し、芝居、そんなふうに思っている人が大半のはずです。
別にイタコにケチをつけているわけではありませんよ。
それが普通なんです。
かくいう私もそうでした。
一同は近藤の指先案内にしたがって崖下へ続く小石と砂の坂道を慎重に降りていく。彼は自分を負ぶった意外とたくましい七倉氏の背に揺られながら話を続けた。
あれはもう何年前のことになるでしょうか。
軌道エレベーター着工に向けた視察のため、南太平洋のある小さな島を訪れた時のことでした。
運悪く、予想より大幅に進路変更した猛烈なハリケーンに見舞われましてね。
当然ながら航空機も船も欠航。
視察メンバーはその南国の小島に数日間閉じ込められてしまったのです。
現地のガイドに図ったところ、原住民が暮らす住居の離れなら提供できるというので見に行きましたが、愕然としましたよ。
なぜならそれらは私の拙い常識から云わせてもらえば住居と称するのも憚られる、木材と葉っぱをつぎはぎに組み合わせたいかにも南の島らしい掘立小屋でした。
もちろん我々側近が了承するはずもありません。
そんなセキュリティーの欠片もない場所にこよみ様を寝泊まりさせるなどあってはならないことです。
けれどガイドの話によれば曲がりなりにも現代的な屋根と壁がある宿泊施設は島の裏側の集落にしかなく、そこに至る道が増水した河に寸断されてしまったため無理だということでした。
他に何か手はないのかと根掘り葉掘り聞きましたがダメでした。
それで仕方なく正直に打ち明けると、当のこよみ様はそんな面白い体験は滅多にできるものではないからとえらく乗り気になってしまいましてね。
結局、その高床式の住居に泊まらせてもらうことになったのです。
風雨が吹き荒れる熱帯樹林の中、迷路のような小道をたどってようやく着いたそこはとうてい村などと呼べる規模ではなく、椰子の葉葺きの高床式住居がほんの五、六棟というなんともこじんまりとした集落でした。
そして濡れ鼠になった我々が着くと五十歳とも百歳とも見分けが付かない皺深い顔の男が現れ、自分が族長であると名乗り、それから辿々しい英語でこう云いました。
「すべては慈悲深き死者の導きによるもの。あなた方を歓迎します」
そして皺深い顔をまるで紙屑のようにクシャりと歪めた彼はそう云うや否や踵を返し、我々を集落の奥へと導いたのです。
つづく
城への道すがら、コンティーの回想がまた長いんだなぁ、これが。
(反省の色なし)
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