謝罪会見 11
「こ、ここは……」
松本氏の口から漏れ出した声に鐘古氏はゆっくりと振り返った。
「アンダーグラウンド・ファンタジックワールドへようこそ、タカピー」
そう云って薄く笑う鐘古氏の顔をマジマジと見つめた松本氏はおもわずごくりと喉を鳴らし、それから視線を戻してそこに存在する風景をなんとか理解しようと努めた。
エレベーターのドアを出てすぐ目の前にはおよそ十畳ほどの広さの平坦な岩場があった。
そしてその先には黄砂を思わせる赤茶けた色の果てのない景色が広がっている。
地中奥深くにこれほど巨大な空間がある。
もちろんそれだけでも信じ難い眺望に違いなかったが、松本氏が本当に目を疑ったのはその澱んだ空気の向こうにぼんやりと影を映す光景によるものであった。
「これは、街……」
鐘古氏に続いて岩場に足を運んだ彼女は呟いた自分の言葉に愕然とする。
しかし、そう、これは紛れもなく街だ。
すり鉢状の急斜面にひしめき合うように建つ総じて粗末なバラック小屋の群。
やや底面に近いなだらかな場所には四角い石造りの家屋や小さなドーム屋根のモスクがバウムクーヘンのような分厚い円を描いて中心にそそり立つ小高い城壁を取り囲んでいる。
そしてその中央、城壁の内側に鎮座するのは半ば溶け落ちた蝋燭のような、あるいは魔物が咆哮する姿を模したようなおどろおどろしい形状の真っ黒な城であった。
「ここは黄泉の国に通じる街、ルンべ」
「ヨミ……ルンべ……」
「そう、言い換えれば死者の街ね」
平然とそのような非現実を口にした鐘古氏がフッと笑みを浮かべた。松本氏はなにか言い募ろうと口を開いて見るものの、それは言葉として形を成さない。
鐘古氏はクスクスと漏れ落ちてしまう笑声に口元を押さえる。
「まあ、信じられなくて当然ね。でもタカピー、今あなたが目にしているものは幻でも仮想世界でもなく現実よ」
「し、しかし、こんな……死者の街とはいったい……」
絶句する松本氏に鐘古氏は軽くうなずく。
次いで笑みを浮かべたまま目配せをした。
すると近藤がヘッドセットのマイクに向けて何か一言二言の通信を行い、すぐさま引き締めた表情を鐘古氏へと返す。
「那智氏の準備はすでに終わり、貨物エレベーターで輸送中です。あと1分少々でここに着きます」
「いいわ。それでチヅリーたちは」
「烏丸様たちも先程到着された模様です。そろそろエレベーターに乗り込まれている頃かと」
そう報告して左手首のカシオから目を切った近藤が恭しく頭を下げると鐘古氏はもう一度うなずいてようやく笑みを消した。
そして小さく鋭い息を吐くと、それまでとはまるで異なった硬い口調を松本氏に向ける。
「詳しい説明は全員がそろってからにする。けれどタカピー、これだけは先に言っておくわね。那智氏の恐山トリップ引き伸ばし問題。冗談のようだけれど、そのくだらない案件が神でさえ想像もできない深刻な事態を引き起こしてしまった。そしてその
松本氏が訝しげに眉を寄せると鐘古氏はその深刻さを嫌うようにふたたび笑みを浮かべた。
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