仮想少女

笹原 篝火

仮想少女

 じりじりと太陽の照る夏の昼間、俺は錆が浮き穴だらけのトタンの小屋の中にいる。幸い窓・・とはいいがたいが、無理矢理穴をあけたその場所から時折吹く夏風が入ってくる。うだるような暑さの室内。その狭い空間に幼い幼女と二人きりで・・。

 しかし、なぜ俺は・・幼女と二人っきりでこんなところにいなきゃいけないのか・・。


 ***


 彼女との出会いは初夏の頃だった。中堅企業で仕事していた俺は6月に転勤を言い渡され、地方にとばされた。

 まぁそこそこ大きな企業に勤めていれば転勤とか単身赴任は仕方がないかと。

 今は不景気だ。わがままを言えば職務を減らされるか、最悪の場合は首を切られる。会社の意向には従わなければならない。

 で、引越をおえ新しい会社に勤務を始めた。しかし新しい環境・新しい同僚になかなかなじめず、ストレスを溜めがちになってしった俺はついに体を壊してしまった。

 やむなく休職となり、引っ越してだしてない段ボールだらけの部屋で寝込むはめになった。いつくるかもしれない解雇通知に怯えながら・・・


 ***


 ある日、ある程度体調が落ち着いたので近所を散策することにした。太陽の光を存分にあびなければ体によくないとおもったからだ。

 引っ越してきたとはいえ、すぐ会社で仕事に追われたため、自分の住まいの回りは全然目にはいっていなかった。 あたらめて散策すると本当に色々と見えてくる。こんな自然豊かな場所だったのだと。

 通勤などで電車や車をつかっているとまるっきり回りの些細なことが目にはいらなくなる。そうゆうことだ。

 本当に新鮮に回りが見えた。なぜこんな場所で俺は心を病まなければならないのかと、本当に哀しく思えてきた。

 ・・と、ふと、一人の少女が自分とすれ違う、年齢は大きくちがえど、やはり女性は女性だ。ふと目でおってしまう。

 彼女は、バケツをもって河辺に降りていく。水くみ・? 田舎だから水道が通ってないのか?・・ってそれはないだろう。

 あどけない姿もあいまって心配に思い、上の道から様子を眺めた。なんかぎこちない様子で川の縁に座り水を汲もうとしている・・の瞬間、案の定バランスを崩して川に彼女が落ちた。

 これはやばいとおもった俺はいそいで土手を駆け下り川に入り彼女に駆け寄る。

 「お! おい! お嬢ちゃん!! 大丈夫か?」

 「あー もう パンツまでびしょびしょだよぉ・・」

 「・・て、怪我ないのか?」

 「・? おじちゃん誰? ロリコン? 通報してほしいの?」

 「ち! ちがうよ! お嬢ちゃんがなんかあぶなっかしいことしてたから・・」

 「んー まあいいや。せっかくだから水くんだバケツもってきてくれる?そしたら通報しないから」

 「ちょ・・通報って・・」

 「ん!」

 彼女は強引に水のはいったバケツを押しつけてくる。どこまでもっていくかは分からないが幼い子がバケツを持ち歩くのは大変だと思い、もっていって上げる事にした。

 「じゃ! ついてきて?」

 「あぁ・・」

 彼女は元気に手をふりながら歩きだす。近所の子供だろうか。しかし身なりが少し良くない感じにも思えた。しかし、鼻歌を歌いながら歩く彼女の後ろ姿を見ていると少し元気が貰えるような気がした。


 ***


 「・・・ここは・・」

 下流に向けて歩き、一回り大きな橋の下についた。そこにはトタンで囲んだ小さな小屋が一つ。回りにはいろんな家電品・・いや・・ ゴミなのか・・ とにかくよく分からないものがたくさん転がってた。

 小屋の前には彼女の着ているような同じような服が掛けてある。

 「なーに、じろじろ見ているのよ」

 「あ・・ いや・・・ 一人なの?君」

 「そーだよ、ここに住んでる」

 「ひとりって・・ 親御さんは・・?」

 「ん?いないよ。そんなの。それよりバケツもってきてよ」

 彼女は親指で小屋の中をさし、俺に指示をした。

 「あ! あぁ・・ わかった・・」

 彼女に言われるがまま小屋の中に入った。部屋の中もまた殺風景・・ 寝袋に・・ 七輪にやかん・・・ しかし、場違いな物がひとるある。パソコンだ。なかなかレトロな感じなATXのタワーpc・・そして今時もうみないレトロなCRTモニターだ。電源は入っているらしく、なにかのアプリケーションを開いているのが目についた。

 「これって・・・」

 「さわるな!!!!!」

 「あ!!」

 急な彼女の怒声、情けないことに身をすくめる。

 「あ・・いや、なにをやっているのかなって・・」

 「なにって、水くみの間にマイニングやってたの。時間がもったいないでしょ?」

 「・・はぁ・・」

 それよりも、謎なのが電気と回線だ・・。電源ケーブルとLANケーブルを目で追うがどこにつながっているかなぜかさっぱり分からない。 常時通電はしているらしく、かつネットにも繋がっているようにみえるが、マイニングといっていたからネットには間違いなく繋がっている。

 「・・で・・どっから電気とかもってきているの・・?」

 「ひみつ! って女の子の秘密について聞いてくる?デリカシーないんだから!」

 「・・ごめん」

 とにかく謎の力でも働いているんだろうか・・ 細かいことは突っ込まないことにした。

 「ところで、お嬢ちゃんはここで一人で暮らしているんだよね。生活費とか大丈夫なの?」

 彼女はパソコンの前で体育座りをし、マウスをカチカチと操作している。なにかぶつぶつながらキーボードを打ち出す。

 「・・ねぇ・・」

 「うるさい!! マジで通報するよ!?」

 「・・! あ、ごめん・・」

 自分に向かい、また怒鳴るとふいと、またモニターに顔を向けパソコンを操作しだす。そしてパソコンを操作しながら教えてくれた。

 「んー、水は川の水を湧かせば飲めるし、水にはこまらないかなー」

 「へぇ・・ でも、食事のほうは・・」

 「ご飯代はこれ一台でかせいでいるの! 仮想通貨よ!!! いま一番熱いんだから!」

 拳をにぎって俺に向かい満面の笑顔でアピールしてくる。

 「へ・・へぇ・・ でも入金とか出金はどうしてるの・・? 子供は口座作れないよね・・」

 と、言った瞬間、彼女は冷めたような顔になりまたパソコンに向き合う。

 「それも乙女の秘密かなー」

 「そ・・そう・・」

 その後はお互いに沈黙・・・ 聞こえるのはセミの鳴き声と、ハードディスクの動作音だけだった。

 ただ、パソコンに向かいあう彼女の表情は豊かだった。何をみているのかよくわからなかったが、ときには笑顔をみせたり、または怒りの表情を浮かべたりと、俺自身見ていても飽きない。しかし会社にはいってから数年になるが、パソコンに向かう同僚や上司がこんなに感情豊かに仕事をしていた姿をあまり見たことがない。

 お金を稼ぐことはこんなに楽しい事だったのか・・と、思わせられた。

 会社に勤める事だけがすべてではないのだろう、得手不得手をわきまえばいくらでもお金を生み出す手立てはでてくる。 たぶんそうゆう事なのだ。彼女を笑顔の横顔を見ているとそう思えてくる。生きることがたのしいゲームみたいなものなのだと・・・

 「・・なに、あたしをみてにやにやしているの?このHENTAI・・」

 「わぁ!!」

 「通報されたくなかったら、このお金であんぱんかってきてよ」

 「・・・え・・(幼女にパシリにされるとか・・)」

 「はよいけ! 通報!通報!!」

 「あー! わかった! かってくるよ!!」

 と、幼女にパシリにされるという出会いではあったが、彼女には今後色々と学ばされるのだった。

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