第12話 オーストラリアの危機 8

(ん?“ふにゅ”っとした大きくて柔らかいものがあるぞ。ずっと触っていたくなる弾力だ)


 右手に柔らかくて弾力のある感触を感じ、興味本位で触り続ける。


 すると「あんっ、そ、それ以上は……んんっ!」という、艶めかしい声が聞こえてくる。


(……え?なんか耳元付近で変な声が聞こえるんだけど。しかも良い匂いが漂ってくるし……)


 思考が停止しそうだったが、無理やり目を開けて状況を確認する。


 すると、目の前に美少女がいた。


「も、もうっ!王子様ってば大胆です!で、でも王子様がお望みなら……」


 そして、訳の分からないことを言い出す。


 半覚醒状態で頭が回っていないため、現在の状況を理解しようと頑張る。


(えーっと、目が覚めたらベッドの中で、目の前には美女がいた。そして、その美少女は訳のわからないことを言い、俺の右手は柔らかい何かを触っていた)


 そこでようやく理解する。


 俺の右手が触っていた柔らかいものの正体を。


「ごっ!ごめんなさいっ!」


 俺は急いでベッドから飛び出して土下座する。


「い、いえ!謝らなくていいですよ!王子様が大胆だったので驚いてただけです!」


「いや、俺はキミに謝らないと………王子様?」


「はいっ!」


 顔を赤らめつつ元気に応える。


 そして俺の横で寝ていた美少女が起き上がる。


「って、ソフィーさんじゃないですか!」


 そこで、ようやく美少女の正体を理解する。


『ソフィー•アデラード』


 青い髪を肩の辺りで切り揃えた可愛らしい美少女。


 俺の3つ年上の23歳で超越者の1人。


 誰が考えたのかは知らないが、回復能力のエキスパートで、可愛らしい顔と爆乳を持っていることから【聖女】という異名を持っている。


 そして、過去に1度、俺はソフィーさんと日本で共に活動したことがある。


 その時のソフィーさんは超越者となっていなかったため、超越者の俺をサポートする形で活動を共にした。


 今では超越者となり、【聖女】の異名を持っているため、簡単にアメリカから出ることができず、俺と一緒に活動することもなくなった。


 ソフィーさんが超越者となった時は驚いたものだ。


「王子様!お久しぶりです!お会いしてない間に大胆な王子様になってたことには驚きましたが……」


 若干頬を赤くし、可愛らしい笑顔で応えてくれる。


「って!王子様ってなんですか!?」


 違和感しかない呼び方に、ようやくツッコミを入れる。


「王子様は王子様です!私、王子様と対等になるために超越者になったんですよ!あの時、約束したじゃないですか!」


 そう言われて思い出す。


 俺が以前、ソフィーさんと日本で共に活動した時、別れ際にソフィーさんから…


『私、絶対、渚くんと同じ超越者になってみせます!そして私が超越者になった時、渚くんは私の王子様になってください!』


『お、王子様っていうのがよくわかりませんが、ソフィーさんが超越者となった時は王子様でも何でもなります。だから頑張ってください。俺、ソフィーさんなら超越者になれると信じてますから』


『はい!私、頑張ります!』


 とのやり取りがあったことを。


(おい、俺のせいじゃねぇか)


 全面的に俺に原因があることを思い出す。


「私、超越者になったから王子様にもう一度お会いしようと思ったんです。でも、アメリカの偉い人から日本への外出許可が降りず……」


「そりゃ、よほどのことがない限り、超越者を自国から出すわけないよなぁ」


 超越者を国外に派遣することは自国の戦力ダウンの観点から滅多にない。


 だが、他国が危機に陥っている等、問題が発生した時は、今回のように超越者が国外へ行く。


 というより、国のお偉いさんを無視して助けに行く。


「だから、今回はオーストラリアを救うついでに王子様へ会いに来ました!きっと、王子様ならオーストラリアに来てると思ったので!」


「なるほど、大怪我を負った俺が何事もなかったかのように動けるのはソフィーさんのおかげですね。ありがとうございます」


「いえいえ!」


 と、ソフィーさんと会話をしていると、“ガラガラ”と、部屋の扉が開く。


「ソフィーさん、【迅雷】は目を覚ました………か?」


 部屋に入ってきたニーナさんが俺たちを見て首を傾げる。


「なんで【迅雷】は正座してんだ?」


「あはは……いろいろあって……」


「あ、ニーナさん!王子様はこの通りバッチリ回復しました!」


「王子様ねぇ」


 そう呟いて、ニーナさんが俺のことを見る。


「アンタ、ソフィーさんに何したんだ?アンタのケガ見て、『王子様が死んじゃうー!』って泣きながら回復してたんだぞ?」


「な、何したんだろうね?」


 記憶にないが、俺はソフィーさんにとって王子様のようなことをしたんだろう。


「とにかく、【迅雷】が眼を覚ましたんだ。ルージュさんの所へ行くぞ」


「あ、あぁ」


「はーい!」


 正座していた俺は立ち上がり、ニーナさんの後を追う。


(そういえば、なんでソフィーさんは俺と一緒に寝てたんだろ……まぁ、回復能力を使う時に必要な行為だったんだろう。気にしなくて良いか)


 そんなことを思った。





 俺たちはルージュさんがいる部屋へ移動する。


「今回、3人のおかげでオーストラリアは守られた。オーストラリアの国民代表として礼を言わせてもらう。ありがとう」


 そう言ってルージュさんが頭を下げる。


「いえ、オーストラリアを守ることができて良かったと思います。ただ、全員を救うことができず、申し訳ありません。駆けつけるのが遅くなってしまい……」


「アタシがもう少し速くオーストラリアに来てれば、ここまで被害が出ることなんかなかったのに」


「そうですね。私も超特急で駆けつけましたが、戦いには参加することができませんでした。まだまだ飛行速度を上げなければと思いました」


 俺たちの顔が曇りはじめる。


「はいはい、そんなこと言わない。私たちは3人のおかげで助かったんだ。だから、私たちは感謝してる。今は悔やむことよりも、私たちの感謝を素直に受け取ってほしい」


 そう言われてしまったら悔やむことなどできないので、俺たち3人は感謝の気持ちを受け取る。


「それでこれから3人はどうするんだ?」


「俺はもう少し、オーストラリアに残ります。復興の手伝いをさせてください」


 俺の言葉にニーナさんとソフィーさんも同意する。


「ありがとう。もうしばらく力を貸してくれ」


「「「はいっ!」」」


 こうして、オーストラリアの危機は去った。

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