第37話 決着

「これはあんたらの戦いや。慎太郎の戦いや。自分らで決着つけなはれ……負けたらアンデッドとして復活させてやるから、永久にあたしと暮らせばええ」


 ご先祖様はタブレットから目を離さずそういう。

 わかったよご先祖様、確かにこれは俺が、俺たちが決着をつけるべきことだ。


 和彦はデザートイーグルを構える。

 照準は俺の頭。

 さすがの俺でも、頭を吹き飛ばされたらアウトだろう。

 そもそも俺はもともと戦士職、ある程度の防具を所持している。

 俺は装備していた鉄製の小手で頭部を守る。

 世界最強の拳銃、44マグナム弾を撃ちだすデザートイーグルといえど、弾道を逸らして頭部への直撃を妨げることくらいはできるだろう。

 俺が頭部をガードしたのを見て、和彦は銃口をほのかさんの方へ向ける。

 直後、俺が和彦のもとへとダッシュしようとすると、和彦はまた銃口を俺の方へと戻した。


 なるほどな。

 銃なんてのは、モンスター相手にはほとんど効果がない。

 なぜそうなのかは、いつだったか自衛隊の専門家がテレビで解説してたが、俺はそういうのあまり興味なかったから見なかった。

 ただ、とにかく銃火器はダンジョン内のモンスターに通用しないということだけは世間の常識になっていた。

 だから、ダンジョン内に持ち込む奴なんていない。

 そんなのより、一番簡単な攻撃魔法である小炎ファリトーの方が威力が大きいし、コスパもよい。


 だがそれはモンスター相手のことで、人間相手となるとまた話は別だ。

 もちろん魔法攻撃も脅威のままではあるが、モンスターには通用しない鉛の弾丸。

 それはもちろん人間相手ならたやすく命を奪える凶器である。

 そして、魔法のように詠唱を必要としないのだ。

 人間はモンスターに比べるとあまりにももろく死にやすい体をしている。

 強力な剣や魔法なんて、別に必要ない。

 小さなナイフ、ごく弱い小炎ファリトーで人は簡単に死ねる。

 少なくともこの日本では、ダンジョン内で人間同士がガチで戦うなんて、ほとんどない事態だった。


「……死ね」


 呟くように和彦が言って、引き金を引く。

 瞬間に俺はしゃがみこんだ。

 俺の髪の毛をマグナム弾がかすって焦がした。

 デザートイーグルはその威力と引き換えに反動が大きい。

 俺は和彦が銃を構えなおす前に、奴の懐へ飛び込んだ。

 そのままショートレンジでレバーを狙って左ボディブローをかます。


「うぐぅ!」


 和彦の身体がくの字に折れる。

 だがさすがは和彦、それでも俺にむかってデザートイーグルをぶっ放す。

 鼓膜が破れるかと思うほどの発砲音。

 とはいえこんな巨大拳銃、こんな崩れた体勢で撃っても反動でまともには狙えない。

 マグナム弾は俺の背中の皮膚を3ミリほど削りながら床へと激突する。


 「わが魂の怒りよ、怒りを熱に変えよ、炎に変えよ、大炎マファルトー!」


 和彦は追い打ちをかけるように至近距離から炎の魔法を俺に放つ。

 俺の身体は炎に包まれ、皮膚が焼けただれる。

 膝をつきそうになるが、


「慈愛の女神の心の星よ、星の光で傷をふさげ、痛みを飛ばせ! 大治癒ジアルマー!!」


 ほのかさんが背後から俺に回復魔法をかける。そしてそのまま、


「わが声を聴け、そして沈黙せよ。震えるな空気ども、そのものの言葉には価値がない。震えるな空気ども。ただ求めるは静寂のみ。……静寂モンタナー!!」


 魔法を封じる呪文。

 和彦は魔法のペンダントを持っているから、それが通じる可能性は1%。

 今回もほのかさんの呪文は和彦に通じなかった。

 しかし、ほのかさんは俺の背中越しに、さらに続ける。


「わが声を聴け、そして沈黙せよ。震えるな空気ども、そのものの言葉には価値がない。震えるな空気ども。ただ求めるは静寂のみ。……静寂モンタナー!!」


 なるほど、俺と和彦は今接近戦をしているから、下手な攻撃呪文やデバフの呪文だと俺まで巻き込んでしまう。

 だけど、もともと俺は魔法が使えないから、魔法封じの呪文ならその点ノーリスクで俺ごしにかけてもいいわけか。

 1%の確率が通ればラッキーだしな。

 和彦が俺に銃口を向ける。

 俺は銃のグリップごと和彦の手を抑え、銃口をそらす。


「くらえっ」


 和彦は右足で俺の左足にローキック。

 大したダメージはないが、俺の気がそれたところでデザートイーグルを発砲する。


 バァンッ!!


「うぉっあぶね」


 今のはまじ危なかった。

 瞬時に頭をそらさなかったら脳みそをぶちまけてたところだ。

 床の弾痕を見てひやりとする、そこに和彦がやみくもに次の一発、俺はよけるひまもなく右ひざを撃ちぬかれた。

 ヒグマをも殺せるマグナム弾の威力はやばい。

 俺の右足、太ももから下が骨ごとぶっとばされた。

 肉と血と骨の破片が、ビシャっとダンジョンの床にぶちまけられる。

 片足を失った俺は床に倒れこむ。

 その俺に向かってデザートイーグルを構える和彦、ほのかさんが攻撃魔法を唱え始めるがもう間に合わない。


「死ねやっ」


 和彦が叫んで引き金をひくそのコンマ一秒前だった。

 ショートボブの黒髪を揺らして走り寄ってきた一人の少女が、和彦に向けて叫んだ。


大凍マジャルドー!!!」


 直後、すべてを凍らせる魔法が和彦の身体を覆う。

 そうか、桜子もいたんだったな、眠りの魔法から覚醒したのだ。


「がはぁっ……桜子、てめえ!」


 低温ダメージをくらった和彦はひざをつき、桜子を燃えるような目でにらみつけ、今度は桜子に照準をつけるが、


「愛よ、わが全身に満ちる愛よ、巡れ、巡れ、巡ってわが宝物の生命をつなぎ留めよ……快癒マジー!!」


 ほのかさんの回復魔法で立ち上がれた俺は、和彦を見下ろすように立った。

 和彦が今度は銃口を俺に向けようとした瞬間、俺は和彦の持っていたデザートイーグルを蹴りで叩き落した。

 デザートイーグルは金属音を響かせながら床を滑っていく。

 凄みのある形相で俺をにらんだ和彦は、なにか呪文を詠唱しようとして、


「――。――――!?」


 口をパクパクさせる。

 おお、魔法を封じる呪文が効いてたわ。

 さすがほのかさん、1%を引き当ててた。


「和彦、お前もタフだったよ、俺から強奪した体力回復の指輪、よく効いたろ。だけどな、これで、終わりだ」


 俺は和彦の髪の毛をわしづかみにすると無理やりたたせ、右手を大きく振りかぶると、


「和彦、最後になにかいいたいことはあるか?」


 魔法を封じる呪文は魔法の詠唱のみを不可能にさせるものだから、ふつうにしゃべることはできる。

 人生の最期、和彦がなにをいうのか。

 俺たちは黙って睨みつけあう。

 そして、和彦は口元をゆがませるように笑って、こういった。


「おい、慎太郎、お前はもうパーティにいらない」


 俺は握った右手のこぶしを思い切り和彦の腹部めがけて振りぬいた。

 鬼の力でなされたそのボディフックは、和彦の内臓をぶちまけながら胴体を突き破った。



 決着だった。



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