窮地に陥っている国を助けるために冒険に出ます(財宝と安定の生活が与えられるそうなので)

昼堂乱智

第1章 引きこもり、王都を出る

第1話 王の演説

「ちゅうもおぉーく!国王様がお出になられるぞ!!」


兵士の1人が大きな声をあげた。


今まで、各々雑談をしていた場の者たちが

一斉に静まり、自然とその注目が、

2階からこの一階の広間を見下ろすように

なった、一部が突き出たバルコニーに集まる。


少しの沈黙があってから、

兵士が周りを囲んだその場に国王が

ゆっくりと現れ、俺たちを見渡すと、

高らかに喋り始めた。


「志高き立派な民たちよ、

今日はよくぞ集まってくれた!

まずは、この国を統べる者として礼を言わせてもらう!


さっそくであるが、本題に入らせてもらおう。皆も知っての通り、我らがアノーネ王国は近年、農作物の不作、洪水、山火事に、度重なる魔獣の襲撃など、実に多くの災難に見舞われておる!」


国王の言葉に共感してのことか、

広間の者達の顔はどこか暗くなった。


「我々も、その度になんとか対策を講じ最善を尽くしてきたつもりだ。


ただ、皆も記憶に新しいだろう。

先月、東地区の大部分を襲った大地震の影響で港が機能停止、未だ復興作業が難航しており、現在我が王国は他国との貿易を行えていない状況であり、農作物の依然とした不作に伴って最近では謎の海洋水質の汚染により漁業の面でも大きな損失が出ておる!


このままでは我が王国は衰退の一途を辿り、、、、言葉にはしたくないが、“王国の滅亡”が現実のものとなってしまいかねない状況であるのだ!」


“滅亡”という言葉に場の者達が一斉にざわつく。


「滅亡だって、、?!」


「おいおい、そんな、まじかよ、、」


「確かに最近は亡命者の数も相当だって聞くしな」


思いもよらない展開にただただ戸惑う者や、

この話がいかに現実的かをお互いに話し出す者もいた。


「静まれ!まだ話の途中であるぞっ!」


ざわつきをみて、先ほどの兵士が再び場の鎮静を促した。


「まあ皆が驚くのも無理はない。それもそのはず、我がアノーネ王国は約2000年の歴史の中で、周囲を厳しい自然に囲まれ、強力な魔気の漂う魔族の生息地も近い中、なんとか人々が共に手を取り合い、協力し、平和な国を維持してきたのだ。」


国王の熱い言葉に想いが込み上げたのか、広間の者達の中には涙を拭う者もいた。


「ならば今こそ!ここに集いし、アノーネの勇敢な民達よ!この美しく、誇りある国を我々の手で共に救おうではないか!

事前の知らせていた通り、今日の正午より、すべての関所より、平民の皆の者達の王国の入出国を全面的に許可するっ!もちろん期限は無期限っ!ダンジョン、鉱山、財宝、秘宝の発見、新魔法、薬草、ポーションの開発、魔獣の討伐、捕獲、古代遺跡文字の解読など、なんでも構わん!我が王国アノーネを救うなにかしらの鍵となるものを探し出した者には、その功績に応じてランク付けした褒美を授与することとした!もちろん、なるべくその者の希望に沿うものとするつもりだっ!ぜひ、皆のものの健闘を祈るっ!」


広間の士気は最高潮に達した。

みな腕を掲げ、雄叫びをあげる。

先ほどまで泣いていた者も、両腕を掲げ、国王バンザイ、と叫んでいる。



広間中が国王の熱い演説に沸き、大興奮に包まれる中、俺はひとり焦る気持ちでいた。



おいおい、すごい盛り上がりだな、これは。



まずいなぁ〜、俺は単に褒美がもらえるって話のうまさに釣られて来ただけなのに。




というかこの国、2000年も歴史があったのかよ、古すぎだろ。


第一、そんな昔の記録なんてどこに残っているんだよ。




雄叫びを上げた広間の者たちが今度は互いに肩を組み、国歌を熱唱している。




すげぇな、どんだけ元気なんだよこいつら。


まるで問題が全部解決したみたいじゃねえか。


今からだろ?まだ何も分かってないじゃないか。そもそも今の王国を立て直す鍵なんて本当に見つかるのかよ。

魔道士達だってまともに探索できないような環境をどうやって俺たち平民が開拓するんだよ。

ああ〜なんか腹立って来たな。

みんなどんだけ浮かれてんだよ。ったく。


国王も国王だろ。要は国としてこれ以上、魔道士や騎士達の犠牲は出したくないから、俺たちみたいな平民を利用して、多くの犠牲は承知の上で、冒険に出ろって言ってるんだろ。


いや〜、俺はパスだな、そんな危ないことしてたまるかよ。

いっそのことこんな国、滅亡してくれた方が

金貸しに追われないで済むし、魔法学校で落ちぶれた俺を嘲笑う街の奴らともお別れできるってことだ。


もう帰ろ、家帰ってもういっかい寝直そ。



俺は盛り上がる民衆の間を縫うようにすり抜け、広間後方の扉を目指し歩き出す、と


なにやら小声で話す子供の声が聞こえた。



「よし、早くあのダンジョンの情報を国王に伝えにいこうよ。」


「そうだな、まさかあんなに魔気が薄い、しかもとんでもなく王都に近い森の中にダンジョンがあるなんて、誰も気づいてないさ。」


「ひひっ。これで僕達、大儲けだね。」


「そうだな。しかもとんでもない規模だぜ、ありゃあ。国力が回復するなんてもんじゃない、過去最高レベルにこの国は潤うぜ。俺たちが英雄になったら母ちゃんもきっともう俺たちを叱ったりできないさ。」



なんだって。

ちょっと聞き捨てならないな。

そんな情報があるなら、早く言ってくれよ。



俺は広間を抜け出し、国王のいる部屋を探しはじめた。





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