就職、三日目、の朝。

 そういうわけで、僕と先生が、マスターアネッツァの屋敷の『ハウスキーパー兼研究補助員』として雇われて、3日目の朝です。



 僕は、朝6時ちょうどに起動するバイブ機能によって目覚めます。

 スマホのアラーム?いえいえ、ベッドそのものが揺れるんです、これで起きない人はまずいないでしょう。

 鬼かよ。

 かく言う僕も最初にコレを体験したときはタスマニアデビルみたいな鳴き声を発してしまいました。

 マスターいわく「プレゼント」だそうですが、もっとこうなんというか…手心が欲しいです。



 先生はというと、すでに起きて水流魔術式口腔洗浄器ジェットウォッシャーで歯を磨いていました。


「老人は朝が早いとでも言いたそうだね」

「いやそんなことは一言も…」

「年齢に反比例して短くなる睡眠時間が、ゼロを超えマイナスとなった先にあるのは永遠の眠り」

「朝っぱらから文学めいたいじけ方しないでくださいよ~」


 マスターの父親の置き忘れだというパジャマを脱ぎ、転移した時からきてた服を着なおして、僕らの朝の身支度はとりあえず完了。


 僕は3人分の朝食を用意して、その間に先生がマスターを起こしに行く。


 昨日も先生が起こしに行ったんですが、

「寝相はすごいしナイトウェアはヒラヒラだし若いのには目に毒だね。」だそうで。

 まあ、つい先日まで一人暮らしだったわけですから羞恥心とかは考えてないんでしょう。


 とはいえマスターは、普段着も肌の露出はともかくボディラインすごい出てるんですよね。

「美少女を維持することは怠っていないから、思う存分他人を外見でぶん殴る魅了する」とか。

 そういう割には研究研究で外出しない矛盾。


 マスター起床、食卓に着席。

 出す料理はサラダと茹でたウインナーとスクランブルエッグ。

 と、硬くて平たいパン。

 調理場にあるのがコレしかなかったんです。


「決してマズくはないんですけどね」

「ふかふかのパンが欲しくなるねえ」

「ふかふか?パンが?どうやって作るんだ?」


 ボヤく僕らに、マスターがツッコむ。


「先生、『ふかふかのパンが存在しない』ってことありえます?」

「可能性は無くもない…のかな、そもそもパンの発酵は偶然の産物だというし」


 先生とヒソヒソ話をしていると、マスターが紙とペンを取り出して構える。


「製法は知っているのか?洗いざらい吐いてもらうぞ」


 もしかして、以前マスターが言っていた「何を知らないかより何を知っているかに興味がある」って、こういうことだったんですかね?


「いやさすがに製法までは……マジロ君は?」

「知ってますよ、パン屋でアルバイトした事あるんで」

「製法まで知ってるバイトはそうそういないと思うがねえ!?」


 世の中何が役に立つんだかわからないものですね。

 でも、その前に


「マスター、紙とペンはとりあえず置いといて、フォーク持ってください。マナーよくないですよ」

「悪いがフォークで字を書くマナーは知らなくてな。で、製法は?」


 …。


「書くもの書いて、食うもの食ったら出かけるぞ、街に」

「「おお!」」


 昨日は自室の手入れに自由時間を割いてたから、僕らは外に出られなかった、けど、ついに街へ!

 異世界の街って、どんなカンジなんだろう、ワクワクするなあ~。


 じゃなくて!!!!

 果たして、異世界の神が教え損ねていた『世界の危機に関する手がかり』は見つかるのか!


「昨日そのこと聞かれたアタシが知らないくらいだし、見つからないんじゃないかなあ」

「出鼻をくじくような事言うのやめてくださいよぉ……」

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