悪魔先生、怪物、そしてイチモツ。

 と、いうわけで今に至るのですが…。


「なあーんでさっき以上のスピードで逃げ出すのかね!悪いがキックダウンスイッチ搭載のキミを褒めている場合ではない!ホラ、命が惜しかったら脱ぐんだよ!」


 なんか性欲優先の小悪党みたいになこと言ってるよこの人~。


 さすがに息も絶え絶えになった僕は、とりあえず近くにあった木にしがみつき、登る。

 後ろ足しかない怪物なら木には登れない、よね?

 予想通り登ってきたりはしないものの、怪物たちは周囲を取り囲んだのち、翼をはばたかせ始めた。


 飛ぶ気だ。

 このままじゃ時間の問題…。


「だから陰部を露出すれば助かると言っているじゃあないか!この地獄から私たちを救う蜘蛛の糸は、パンツをおろせばすぐそこにある!」


 いつのまにか、紳士は僕より高いところにのぼって物理的上から目線で説得してくる。


「なんで見ず知らずの男性にちんち〇を見せなきゃならないんですか!」

「無礼なことを言うな!私じゃなくて怪物に見せるんだよ!」

「ますます意味が分からないんですけど」


「いいか青年、あの怪物はギヴルという。フランスで語られた伝説上の生き物。非常に攻撃的な性格で、水辺を生息域としているそうだ。とある本によると、彼らは湖で体を洗う農夫の裸を見たとたん、頬を染めて逃げ出したという。変温動物の分際で頬を赤らめるだなどと生意気な話だが…。」


何に怒ってるんだこの人は。


「男の裸だぞ、女の裸ではなく。であれば裸の男にしか存在しないものこそが奴の弱点、つまり…わかるね?」

「そこまで自信たっぷりなら自分のを見せればいいじゃないですか!」


「私は見ての通り老人に片足ツッコんでる男だ」

「それで?」

「なかなか大きくならないんだよ!!!!」

「僕だってこんな状況じゃ大きくできないんですけど!!」


 ダメだ、この人、なんかズレてる!


「君とて異世界に来てすぐ屍になりたくはあるまいに」

「そりゃあ……ちょっと待ってください、なぜ僕が異世界から来たと?」

「地獄の蜘蛛糸だのフランスだのという単語に疑問を持たない時点でお察しさ」


 そういえばそうですね。



 いや待てよ、ってことはこの怪しい紳士が、異世界の神の言う「頼れる相棒」?

 僕自身のことといい、神は転移する人選がだいぶおかしいのでは。


 とはいえこの先、異世界救済のために起こるであろう困難はきっと、彼の協力無しでは乗り越えるのは難しいのでしょう。

 であれば、彼との信頼関係の形成は急務。


 24年の短い人生だけど、信じあえる中を作るために一番大切なことは知ってるつもりです。

 それは、


 まず、僕が相手を信じること!



「……しかたあるまいな……」


 老紳士が諦めたように吐き捨て、枝の上に乗ってベルトをカチャカチャと弄りだした時、僕は意を決して木から降りました。


「うおおおおおおおおおっ!!」


 叫び声で恐怖心と理性をごまかしながら、ズボンを、そしてパンツをおろし、ありのままの姿を見せる僕(下半身限定)。


「おお」


 よくわからないけどナニかに感嘆する紳士。


「ギュエッ!?」


 明らかにうろたえているギヴル。

 男性器を晒す意味は確かにあった!


「オジさん!」


 見上げると、枝の上の紳士は微笑みながらサムズアップしている。


「いけっ!」


 彼の号令にのせられ、がに股でギヴルたちを追い回す。



 暴れる男性器が奏でる、ペチペチという旋律がトカゲどもの悲鳴を越え、この場を支配した。



 やがて完全に戦意を喪失したギヴルは最初に出会った湖の方向へ逃げ出す。

 助かった。


 安堵感と疲労で、地面にへたりこむ。



「異世界に来て早々、えらい目にあったねえ」


 老紳士が、拾っていた僕のパンツとズボンを手渡しながら言う。


「でもお陰様で、『私の分も』まとめて追い払ってくれて助かった」


 …逃げてる途中で追ってくるギヴルの数が増えていたのはそういう事だったのか、…この人は…。


「ハハハ、そう睨まないでくれたまえ。私の助言が無ければ今もアイツ等に追いかけられていただろう?」

「アイツ『等』じゃなかったでしょうけどね」


 僕は目を閉じ、大きく息を吸った後、苦笑した。


「とにかくありがとうございます、オジさん」


 立とうとすると、老紳士は僕に手を差し伸べた。


「山神、『山神 白郎』やまがみ はくろうだ。悪魔や怪物に詳しいので、人は『悪魔先生』と呼ぶがね」

『塚間 瞬』つかのま まじろです。…これから、よろしくお願いします」


『悪魔先生』の手をギュッと掴んで立ち上がる。


「キミは見込み通りの男だったよ、マジロ君」

「えっ?」



「ちんち〇はキミの方が大きかった!」

「ソコ以外を褒めてほしかったなあ…」



太陽が僕らを受け入れるかのように、優しくその光を下ろしていた。


パンツはあとで履いた。

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