第2話 すごい2人

 俺と倉木さんは城を出た。

 広がるのは異世界の街並み。


 中世ヨーロッパっていうのかな?

 ゲームの世界みたいだ。


「お金は有りますし、何を買いましょうか?」


 まずは、貰った金額の価値を知ることだな。

 小袋に入ってるのは金貨。円に換算するとどれくらいだろう?

 1ヶ月後に城に戻ってくるわけだが、そこも計算して金は節約したいな。

 

「装備品は厳選して買いたいよね」


「ですね♪」


 あーー、めちゃくちゃワクワクしてきたぞ。

 これから倉木さんと冒険が始まるんだ。


 と、その時である。


「待ちな」


 声を掛けてきたのは割井わるい 火威斗ひいと

 その横には弟の 真虎斗まことがいる。


天技スキル食事に料理だと? てめぇら、ファミレスかよ。ケハハ」


 うう。

 笑われるのは嫌だけど、冒険の邪魔をされるのはもっと嫌だ。

 ここは触発せずに離れるのが無難だぞ。


「じゃ、じゃあ俺たちはこれで……」


「バーーカ。そのまま行かすわけがねぇだろうがよ」


「え?」


「有金を貰ってやるよ」


「なにぃ!?」


「この世界にはな。モンスターがいるんだ。てめぇらみたいなクズはモンスターに殺されるのがオチなんだよ。だったら、その金を俺たちが使った方が有意義じゃねぇか」

「ハハハ! 流石は割井わるいさんだ!! 無駄がなくて効率的です!!」


 うぐぅ……。

 こんな異世界で無一文になるなんてありえないだろう。

 す、すごく怖いが、ハッキリ言ってやるぞ。


「……い、嫌だ。お金は渡さない」


 割井わるいは俺の腹を殴った。


「グフッ!!」


「殺すぞ。てめぇ」


空児くうじくん!!」


  真虎斗まことは彼女の髪を引っ張った。


「きゃああ!!」


「てめぇはすっこんでろよ。このブスが!!」


 うぐぅ!


「か、彼女に手を出すな!」


「ケハハ。残念だったなぁ。助けは来ねえんだよ。ゴミカスくん」


 割井わるいは背後から巨大な腕を発生させた。

 それは岩の肌でできた怪物の腕だった。


「見えるか? これが俺の力さ」


 俺はその手に体を掴まれる。


「ぐわぁああ!!」


岩巨人ゴーレム 操作オペレイト。これが俺の 天技スキルさ」


  岩巨人ゴーレムは俺を締めあげた。


 ほ、骨が砕けそうだ。



「ぐぁあああああ!!」


 

 こ、このままじゃ殺される。


 空に響いたのは倉木さんの声だった。


「わかりました!! 私の金貨を全部あげます!! だから、 空児くうじくんを助けてあげてください!!」


 倉木さん……。


「ははは。じゃあ後はおまえだけだな飯田  空児くうじ


 と、ゴーレムは手を離した。


「い、い、嫌だ……。わ、渡すもんか……」


 このお金だけは、なんとしても守らなくちゃ。

 このお金を倉木さんと分けて、2人でこの世界を冒険するんだ。


「おい 空児くうじぃい!! てめぇ、割井わるいさんに逆らってんじゃねぇんだよぉおお!」


  真虎斗まことは俺を殴った。

 馬乗りになりガンガン殴る。

 そして、胸ポケットから金貨の小袋を奪い盗った。


「ったく素直に渡してりゃあ、痛い目みなくて済むのによ。頭の悪いカス兄貴だぜ。まったく」


 ああ、俺と倉木さんの金が……。


「じゃあな。せいぜい、無一文で頑張るんだな」

「へへへ。割井わるいさん。この金で美味しい飯でも食いましょうよ」

「だな。ははは!!」

「ぎゃははは!!」


 うう、悔しい。

 俺がもっと強かったらなぁ……。


「く、 空児くうじくん。大丈夫ですか?」


「あ、うん……」


 全身が痛くて当分動けそうにないがな。


「ううう……。うううう」


 彼女は号泣していた。


 そういえば、倉木さん。 真虎斗まことに髪の毛を引っ張られていたな……。


「倉木さん……。怪我はない?」


「ううう……。わ、私は大丈夫です。それより 空児くうじくんですよぉ。うううう」


 彼女に怪我がないなら、それだけでも御の字か……。

 それにしても……。


 俺は弱いなぁ。


「ううう……」


 彼女の嗚咽が俺の涙腺を刺激した。

 緊張が解けて、ただ悔しさだけが全身を駆け巡る。


 気がつけば、俺も涙を流していた。



 ああ……。

 強くなりたいなぁ。



 現実世界でもさ。

 似たようなことがあったんだ。

 

  真虎斗まことが不良に虐められててさ。

 それを庇った俺はボコボコに殴られた。結局、有金を盗られたことがあったっけ。

 弱い兄。頼りない兄。俺の姿は弟にとってショックだったろう。

 その日以来、俺のことをお兄ちゃんって言わなくなったんだよな。


 せめて……。

 この世界では、強くありたいよ。


 誰にも負けない強い力が欲しい。


 強くなりたいなぁ……。




 数時間後。


 俺は街の隅っこの草むらで休んでいた。

 無一文だからな。薬を買う金すらないんだ。


空児くうじくん! すごい発見ですよ」


 彼女は木の皿に料理を盛ってやってきた。

 それは、豪華なサラダだった。


「どうしたの。それ?」


天技スキルを使ったんです」


 ああ、確か、彼女の 天技スキルは料理だったな。


「見てください。あの草。雑草の中には食べれる草が混ざってるんですよ。 天技スキルで食材の効果がわかるようになったんです!」


 へぇ……。


 彼女は目の前の草を抜いた。


「ふふふ。それで、この草をですね。…… 料理ディッシュ!」


 彼女の手が光ったかと思うと、その草はサラダになった。


 おおお!!


「すごいな!」


天技スキルで調理ができちゃうんです!」


 ドレッシングまでついてるや。


「食べましょう!」


「うん」


 モグモグ。


 おお!


「美味い!!」


「あは! 良かったです! 私、現実世界でも料理は好きで、色々自分で作ったりするんです。そのイメージで味を整えてみたんですけど、お口に合うようでホッとしてます」


「雑草ならその辺に生えてるし。無料で腹一杯食べれるな。モグモグ」


「えへへ。そうですね。ドレッシングのイメージを変えれば……。和風、中華、シーザーサラダ、なんかも可能です」


「うぉおお! 倉木さんすごい!!」


「ありがとうございます!」


 突然、文字が浮かび上がる。


【体力が回復しました】


 なに!?

 どういうことだ? 


空児くうじくん。体の傷が治ってますよ!」


 もしかして、


「これって薬草なんじゃないの?」


「そうかもしれません。私、食べれる草ってイメージだけで選んでいたんですけど、そんな効果があったんですね!」


 ふむ。薬草を食べたから回復したのか。


「倉木さんの 天技スキルは万能だな」


「ば、万能だなんてそんな……。ハ、ハズレスキルだと思っていたんですけど」


 いや、ハズレだなんてとんでもない。

 これはすごい能力だぞ。

 お金がなくともなんとかなりそうだ。


「お代わりもらえるかな?」


「はい。いくらでも食べてくださいね。無料ですから」


「「 はははは! 」」


 と、笑っていると、再び文字が浮かび上がる。



【攻撃+1 体力+1 防御+1 が、それぞれ上がりました】



 なんだこれ?


 と、ステータスを見ると、レベルは1のままだが、ステータスだけがわずかに上がっていた。


 もしかして、これが俺の能力か?


 脳内に声が響く。


 

食事ミールが発動しました』と。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る