第5話 ちょっと、この展開はきいてないって……!
あおいはエレノアと庭園に向かっている道中、この乙女ゲームのプロローグを思い出していた。
ヒロインのユリスはプロローグ序盤では自らが女神の生まれ変わりだと知らない。
女神と三人の騎士により、封印された二つの世界の境界の扉が開かれたことにより、反する世界の邪気を取り込んでしまった動物達にユリスは襲われる。
それが起こったことによってユリスは女神の力、そして三人の騎士達も本来の力を手に入れる、という流れだったはず。
「それが起こるのは、確か夜だったな」
新入生の式が一通り終わった夜、式が行われた庭園は全生徒達によって装飾やテーブル等が用意され、新入生歓迎パーティー会場になる。
この乙女ゲームは珍しいことにプレイする前は洋風の建物、登場人物の名前により、その様な世界が舞台だと感じるが、このプロローグ終盤で少し違った要素が加わる。
ユリス達が手に入れる力は四神獣であることが明かされる。
ユリスと攻略キャラそれぞれに手の甲に四獣の紋章が現れ、邪気を取り込んだ動物達の邪気を祓う。
どうしてそこだけを東洋寄りにしたのかは、ゲーム制作者に聞いてみなくては分からない。
ゲームプレイ当時のあおいは少々斬新な設定と多少の違和感を抱いたが、ゲームを進めるのにそこまで支障はなかったし、乙女ゲームには珍しいRPG風の戦闘も有り、その戦闘に力を貸してくれる四神獣はどことなく少年心をくすぐられた。
特にユリスの前に現れる麒麟がカッコいいんだよな。
麒麟は戦闘には参戦しないが、プロローグの後でもユリスのことを影で見守ってくれるし、ピンチになったら現れてくれる。
強いのはもちろんのこと、龍に似た顔に五色に彩られた背毛と鱗があり、牛の尾に馬の蹄、一本の麒角。
ビジュアルがしっかりと忠実に作成されている。
現れる時の効果音も他の四獣と違って少し渋いのが、更に良い。
あおいはエレノアに怪しまれない様に口元を手で隠し、にやりと笑った。
会場である庭園に着くと、すでに式が開始していた。
新入生が座っている椅子の列にはヨハンもおり、ヨハンはあおいに気づいた。
あおいは小さく手を振るが、ヨハンは目を逸らす様に顔を背けた。
「まぁ、反応しづらいよな。 流石に」
あおいは会場の周りを見渡し、違和感に気づいた。
一つ目の違和感は大体の生徒が同じ様な印象が薄く、ぼかした様な顔をしていること。
二つ目は新入生の席の中にヒロインであるユリスの姿が見えないこと。
一つ目の理由は検討がすぐについた。
あまり物語に関わらないキャラの場合、それを強調する為に、あまり特徴を持たせない顔に描かれる。
いわゆるモブキャラクター。
その為、主役達よりも容姿が地味で薄いという設定になっている。
もしかしたらここにあおいが加わったとしたら、その薄いモブ顔に紛れる様に主役達の目に映るのかもしれない。
先程のエレノアやヨハンの目にもあおいの顔はそう見えていたのかもしれないと思った。
さて、二つ目の違和感が問題だ。
ユリスは必ず新入生の入学式には参加していたはずだ。
それなのに、どこを探してもユリスらしい少女の姿が見えない。
「おかしいな……なんで、ユリスが居ないんだ? 」
あおいの隣に居たエレノアはあおいの方に視線を向ける。
「フェイ・ヴィルヘルム。
眉を寄せてどうされましたの?
具合が優れないのかしら?」
「いや、具合は大丈夫だよ。
ただ、新入生って全員そろってるのかなって少し思ってね……
一人急遽欠席してるとか」
エレノアは少し考えた様に口元に指を添えると、あおいの方に顔を向きなおし、口を開いた。
「先生方に確認したところ、今日の新入生に欠席者はいなかったはずよ」
「え……? 」
「在校生も全員此処にそろっているし、遅れてきたのは私達だけよ」
あおいは拍子抜けをした様な顔をすると、同時に頭上から何かが近づいてくる音がどんどん大きくなっていく。
遠くの方で女生徒の悲鳴が聞こえ、座っていた新入生達も次々に椅子から立ち上がると、あおいの方を見る。
ヨハンも立ち上がると、あおいに向って何か叫んでおり、急いでこちらの方に走って来ていた。
「……っ?! 」
あおいの隣に居るエレノアは上を見上げると驚いた様に目を見開き、言葉を詰まらせる。
「え?
上に何かあるの……? 」
あおいはちらりと顔を上に向けると、そこには大きな翼を広げ、あおいに向かって奇声を上げる大きな鳥が居た。
「……ちょっと、この展開はきいてないって……!!
なんだ、このクソデカい鳥は!? 」
〖チュートリアル戦闘〗開始
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