第3話 伝説の金属のオリちゃんとハルちゃんとコンちゃん

 おじちゃんの手にかかれば直らない物はないし、どんな物でも頼めばできてしまう。ふつうの物でも、そうでない物でも。おじちゃんは、ウチの一族の特別な職人だった。


 たとえ血族であったとしても、その兆候がなければ一族の秘密は話されない。おじちゃんは天狗の羽は生えていないけれど、秘密の道具アイテムを作る能力があった。

 だから姉二人(ボクのママとママのお姉ちゃんのボクのおばちゃん)が都会に行ってしまっても、田舎に残って地下の作業場で秘密道具を作っている。ちなみに人間用の道具を作るときは地上の作業場を使う。

 地下にはご先祖様が永い永い時間をかけて作った神殿のような建物があり、その中におじちゃんの特別な作業場がある。

 地上の三倍くらいの広さで、作業をするテーブルがあったり椅子があったりは同じだけど、溶鉱炉とかの専門的な装置や、人には不思議に見える器具や材料とかも置いてある。ほんのちょっぴり怪しい感じだけど、地上にいても地下にいてもおじちゃんは変わらない。

 おじちゃんが一番奥の机のところに行くから、ボクはついて行った。


「ほら、これだ」

 おじちゃんはボクの白いシャベルを手にした。

 見覚えがある、ママが買ってくれた大事な大事なボクのシャベル。前に従兄のケンちゃんが穴を掘ってた時に折れてしまった。貸してあげたのにひどいよね。ホントにバカ力なんだから。

 それをおじちゃんに直してもらった。もちろん、おじちゃんが直したわけだからふつうの直し方ではない。伝説の金属オリハルコンを使ったスペシャルなシャベルになった。丈夫でしなやかでピカピカの金属。

 ただ、あまりにスペシャルになりすぎて、異世界まで穴が開いてしまった。

 だから改良してもらった。

 ボクはそのシャベルを受け取る。


「前よりキラキラになってない?」

 手触りは前と同じ。前から後ろから横から下からくまなく見る。

「変わらないだろ?」

 淡々とおじちゃんは言う。

「そうかも?」

 すごくなったと見えたのは、ボクの気のせいかもしれない。でも、嬉しいからよけいにキラキラに見えた。ボクの手にフィットする感じは、ボクの手に戻ってきたことを喜んでいるかのようだった。


「ぴっ」

 シャベルから声が聞こえてきた。

「オリちゃん。元気だった?」

 ボクはシャベルに話しかける。ボクの昔からの友達のオリちゃん。オリハルコンだからオリちゃん。オリちゃんは、ボクのシャベルを直すために志願してくれた。

「ぴ」

 肯定するようにオリちゃんが言う。

 でも、シャベルから別の気配もしてきた。

「ハルちゃん、コンちゃんもいるの?」

「ぴぴっぴ~」「ぴぴぃ」

 二人が返事をする。オリちゃんとハルちゃんとコンちゃんはいつも仲良しで、いつも一緒だったけれどオリちゃんがボクのシャベルを直すために入ってしまったから別々になってしまった。

 その三人が一緒にボクのシャベルの中にいた。


「安定して異世界に行くには、もう少しヒヒイロカネが必要だったんだ」

 ヒヒイロカネはオリハルコンの和名だった。おじちゃんはオリハルコンのことをヒヒイロカネと言いたがる。ボクはファンタジーっぽいからオリハルコンがいい。ヒヒイロカネだとヒヒちゃんとイロちゃんとカネちゃんになっちゃうし。


「ヒヒイロカネの力を使って、力業で異世界の扉を開けられるようにした」

 こういうことになると、おじちゃんが良くしゃべる。

「これで穴掘ればいいの?」

 原理とかはどうでもいい。ボクは異世界に行ければそれでいいから。

 おじちゃんがうなずく。

「お手軽だろう?」

 自慢げだった。

「うん」

 ボクのシャベルを見つめながらうなずく。

 白くてちっちゃなボクの手にちょうど良いシャベル。金属だからひんやりとしているのに、どこか温かみがある。

「ぴ」「ぴぴぴ」「ぴぃ」

 オリちゃんとハルちゃんとコンちゃんが小さくなって顔を出して、それぞれが行こう行こうと言っていた。

 やっぱりキミたちは三人一緒にいるのがいいね。


 以前、ちょっと力を入れてシャベルで土壁を掘ったら異世界と繋がってしまった。だから、その特色をもう少し強化して、本格的に異世界に繋ぐことができるシャベルを作ってくれとおじちゃんに頼んだ。

 そして、ボクは異世界に行こうとしていた。


「じゃあ、ちょっと行ってくるね」

 笑顔でおじちゃんに言う。ひとりじゃない。オリちゃんとハルちゃんとコンちゃんがいれば、淋しくない。

 そしてシャベルを強く握り、作業場の壁を掘ろうとしたら止められた。


「ここでやるな」

 おじちゃんが顔をしかめてる。

「なんで」

 首を傾げる。せっかく異世界に行く気になってたのに。

「俺の作業場で穴掘るとかありえないだろう」

 おじちゃんの目が怒ってる。これ、マジでやっちゃいけないやつだ。

「は~い」

 すぐ行きたかったんだけどな。

 オリちゃんとハルちゃんとコンちゃんも行く気満々みたいだし。手の中の白いシャベルから、三人が行きたくてうずうずしているのが伝わってくる。


 でも、お腹もすいてきたから、行くのはおばあちゃんの朝ごはんを食べてからにしよう。異世界に行って、食べ物がありませんとかじゃ困るし。

 腹ごしらえは、大事。


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