第2話 秘密の道具が作れるボクのおじちゃん

 広い広い田舎のお家の中庭にある離れに行く。ちょっとした一家なら住めそうな広さの家。一階の一室におじちゃんがいるのが見えた。

 靴を脱いで縁側に上って、大きな窓ガラスを開ける。ドアもあるけど、ここから入るのが早いし楽。


「おじちゃ~ん、おはよぉ~」

 中はふつうの人が使うようなふつうの作業場になっていた。大きな頑丈そうな木製のテーブルの椅子に座っていたおじちゃんの所へ行く。

 おじちゃんは何か小さな物を作っていた。


「来るの、早すぎじゃないか?」

 ちょっとだけボクを見て淡々とおじちゃんは言った。

 手には金属のヤスリを持ち、おばあちゃんのバッチと色違いのバッチを削っていた。空色のバッチもけっこう可愛い。


「いつもこんなもんだよ」

 そう言ってからおじちゃんの手元をじっと見る。物を作っている様子を見るのはけっこう面白い。おじちゃんはとっても器用で、トゲトゲしていたバッチがみるみる丸みを帯びて可愛らしくなる。おばあちゃんの緑もいいけどボクなら空色がいいかも。


「ほぼ夜明けじゃないか」

 五月のゴールデンウイークの次の週だと朝の四時半すぎくらいに日が昇る。窓の外は明るくなっていた。

「前に明るくなってから来たら、フライングヒューマノイドって言われちゃったんだ」

 明るくなってくると黒い羽は目立つ。家の近くで見られて、たまたまスマホで撮られてしまって、しばらく話題になってた。けっこう上空に居たからボクだとはわからなかった。


「あれはショウだったのか」

 おじちゃんが息を吹きかけて、バッチについた金属の粉を飛ばす。

「うん。暗いと分かりづらいみたいだから、夜明け前に来てるんだ。これでも気を遣ってるんだよ。寝坊したら来ないようにしてるし」

 夜のうちに来ていればいいことなんだけど、そうするとママが寂しがるからできるだけ家にいるようにしている。


「だから最近、姿を見てなかったんだな」

 おじちゃんは手を止め、片目でバッチの出来具合を見ている。

 寝坊して来てないって思われたみたい。

「ちゃんと来てるよ。たまにママとお出かけしたり、小学校のイベントとかがあって来れないこともあるけど」

「最近の小学生も大変だな」

「そうでもないよ。慣れちゃえば大したことないし」

「ふーん」

 ちょこちょことバッチを削って、フッと息を吹きかける。バッチがキラリと光った気がした。

 完成したのかな?


「おじちゃんがこっちにいるのって珍しいね」

 中庭の離れは日が当たるふつうの作業場だった。

「これが評判良くて、いっぱい作らされているんだ」

 テーブルの上には似たようなバッチが山のようにあった。

「ずいぶん作ったね」

 ホントに山みたいになってた。

「じいさんが近所の組合に頼まれたらしい」

「村おこしでもするの?」

 おじちゃんは返事をしなかった。作るのは楽しいけど村おこしはどうでもいいって感じかな? 豊かな自然を連想する色が多くて、村おこしに最適なグッズに見えた。ボクも欲しいって思ったし。


「例の物は?」

 声をひそめて聞くと、おじちゃんの周りの空気が変る。

「地下だ」

 そう言って、ニヤっと笑う。満足な物ができたんだね。よかったよかった。

 地下にはおじちゃんがいつもいる秘密の作業場がある。おじちゃんは秘密の作業場に入るとちょっとやそっとでは出てこない。おじちゃんの並外れた集中力で時間の感覚もわからなくなる。だからボクがいるのかいないのかわからなくてもしかたがない。

 それくらい、おじちゃんはすごい技術者なのだ。


「できたの?」

 ボクが聞くと、おじちゃんは返事をしなかった。けれど、持っていたバッチをテーブルの山の上に乗せて席を立つ。

 例の物ができたからボクに渡してくれるということだ。


「おじちゃん」

 でもボクは去ろうとしていたおじちゃんを呼び止める。おじちゃんが止まってボクを見た。

「これ、一個もらっていい?」

 テーブルの上にあったいっぱいあるバッチのうちの水色のバッチを持って言う。

 おじちゃんはちょっと考えて、コクっとうなずいた。

 ボクはバッチをポケットに付けてみた。

 うむ。なんかイイ感じ。


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